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『初恋』
第30回シンガポール国際映画祭
公式上映・舞台挨拶・名誉賞授賞式&マスタークラス

2019-12-04 更新

三池崇史監督

初恋hatsukoi 配給:東映
2020年2月28日、全国公開
© 2020「初恋」製作委員会

 三池崇史監督×窪田正孝主演の映画『初恋』が2020年2月28日(金)より公開となる。カンヌ国際映画祭 監督週間、トロント国際映画祭 ミッドナイト・マッドネス部門、オースティンファンタスティック映画祭、BFIロンドン映画祭ほか世界で30以上の映画祭から招待されだけでなく、異例の全米先行公開で映画ファンを大いに沸かせている本作。米レビューサイトRotten Tomatoesでは【96%フレッシュ】という高評価を獲得(2019年12月2日時点)し世界的に高い評価を受けている。

 世界中の映画ファンを虜にする三池監督“初”のラブストーリーの躍進はとどまるところを知らず、日本公開に向け一層期待が高まるなか、本作が東南アジア最古かつ最大の国際映画祭である第30回シンガポール国際映画祭【11月21日(木)~12月1日(日)】のMIDNIGHT MAYHEM部門に日本映画初となる選出、現地時間29日(金)には三池崇史監督が登場し舞台挨拶と公式上映を行った。また30日(土)には映画界に貢献した監督に送られる最高峰の賞である【名誉賞】を受賞!翌日にはシンガポールの映画製作者や地域の人々に対して行われたマスタークラスに参加し、Q&Aを行った。


 シンガポール国際映画祭は、シンガポール国立博物館で開催される東南アジア最古かつ最大の国際映画祭。画期的なアジアの映画に焦点を当てたこの映画祭は、ダイナミックなプログラミングと活気に満ちた地元の映画文化の発展への取り組みで知られている。日本映画は度々オープニングやクロージングでフィーチャーされており、黒澤 明監督の『夢』(91年/クロージング)、北野 武監督の『HANA-BI』(98年/オープニング)、青山真治監督の『ユリイカ』(01年/クロージング)、大友克洋監督の『スチームボーイ』(05年/オープニング)、押井 守監督の『イノセンス』(05年/クロージング)などが上映されている。今回、本作が出品されたMIDNIGHT MAYHEM部門は、ワイルドで奇妙でクレイジーな作品を集めた真夜中の上映会。

 現地時間の11月29日(金)に行われた公式上映では、深夜の回にも関わらずほぼ満席の会場! 上映前の舞台挨拶で、三池監督は「30周年迎えるこの映画祭で上映できることを光栄に思います。世の中では自分は結構誤解されていて、バイオレンスの色が強いと思われているが、これはピュアなラブストーリー。誰も信じてもらえないかもですが(笑)。とにかく今日観に来てよかったと思ってもらえることを祈っています」とコメント。熱狂的な歓声の中、本作の上映が行われた。


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エリック・クー監督と三池監督

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 また三池監督は、アジア映画に特別で永続的な貢献をしてきた映画製作者に送られる、映画祭の最高の栄誉ある賞<名誉賞>を受賞! 過去の受賞者は、現代の韓国映画 の父と知られるイム・グォンテク、イランのニューウェーブ映画作家のモフセン・マフマルバフ、社会主義の香港監督フルーツ・チャン、そして先駆的なインドネシアの映画製作者リティ・パニュなどがおり、三池監督の受賞は日本人初の快挙となった! そして、受賞を記念し、三池監督の生い立ちから初デビュー作、最新作の『初恋』の映像を映した特別映像も上映された。


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女優ヤオ・チェンと三池監督


<マスタークラスでのQ&A>

 授賞式の翌日には、シンガポールの映画製作者や地域の人々に対して行われるマスタークラスに参加し、Q&Aを実施した。20歳の頃から映画の撮影現場の助監督アシスタントで入り、30歳の頃に監督になった三池監督。自身の経験を踏まえ、様々な視点で飛び交う質問に回答した。


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 映画業界の第一歩となったアシスタントになったきっかけについて、「大人になるというのは就職するか、大学に行くかの選択で。自分はもう少し自由な時間が欲しかったのもあり、逃げるために映画の専門学校に行ったんです。ずっと逃げ続けて……今も大人になることから逃げ続けている(笑)」と明かし、一問目から笑いを誘う三池監督。

 各国で必ずと言っていいほど、尋ねられる映画製作ペースの早さについて、「アシスタントの時は、限られた時間と製作費の中、脚本にそって監督の思い通りに製作できるか注力していた。それをものすごいスピードでこなす日々を10年間過ごした」と振り返る。「その時に、現場のスピード感を備えた時計が自分の中でできたんだと思う。周りからなんでたくさん撮るんだと言われるけど、ランチ食べている時にCM一本撮れると思ってしまうんです。昔は夏休みの宿題は最後までやらないような人間だったけど、映画の現場ではそれではやっていけないので、違う自分が目覚めた。だから映画の現場を離れるとダメな人間になるんです(笑)」と自身の映画製作のベースを語った。

 作品での“三池監督らしさ”について、「俺の作品だからこうしたい、というのは映画に対して余計なことだと思う。僕自身、自分らしさを気にしたことはない。自分を主張せず、自分をなくし、無我夢中になる。自分を忘れた時に、本当の個性が生まれると思う。自分らしいものを求めるってことは、つまり自分にはないから手に入れたくて求めている。そうして余計なものを排除していくと、自分が作れるものが見えてくる」と持論を展開し、「自分自身の主張しようとする欲望を捨て、空っぽになる。でも、元々持っている才能は消えない。才能を取り囲む余計なものを取り払うことが大事だと思う」と語る三池監督。説得力ある回答に一同は真剣な眼差しを向け、次々と質問を希望する手が挙がった。

 そして、「今の日本では、ドロップアウトした人やヤクザなど、今まで僕たちが描いてきた登場人物たちが、映画の中に登場する機会が少なくなっている。彼らも彼ららしく生きることで、予想外のピュアなラブストーリーが生まれる、というのを描きたかった」と明かし、「本当にくだらないやつだと思っても、何かを生み出しているんじゃないか、その人が生きることによって、どこかで小さな幸せくらいは作っているんじゃないか。そうあって欲しいという僕の願い」と自身が込めた想いを語った。また、「登場人物で、ヒーローを目立たせるための役がある。ヒーローに一発で敗れる悪役。そういう役は長らくやっている俳優のほうが多いけど、その人にも魅力がある。今晩いつもより飲むビールが美味しい、役者になってよかったと思ってもらいたくなるんです。台本上では一発で倒れる役でも、もう一度立ち上がって戦ってほしくなって、今度はイスで殴られたりする。そうして出来上がるのはバイオレンス映画だけど、実はそこにあるのは僕のちっちゃな愛情。バイオレンスの根っこには、誰かを愛しむ愛情がある。表裏一体だと思う」と三池監督ならではの“愛情”の表現も明かされた。


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 笑いと恐怖が入り混じった奇妙なシーンの“バランス”について尋ねられると、「よく昔から、プロデューサーの方や観客の方から、“笑うシーンなのか泣くシーンなのかよく分からないから、このシーンなかったら結構泣けるんじゃないの?”と言われることがある。悲しいシーンを作るためには悲しいモンタージュしかない。ただ、その中に不必要だけど何かホッとするようなものを入れたくなったりする。逆らいたくなるんです(笑)」と答えると、“それは観客への贈り物なのか”と尋ねられ、「観客、同時に自分自身ですよね。そもそも悲しい映画だとずっと悲しいほうがいいとか、そういうのがあまり好きじゃない。このシーンはこう観てくれと観客の感情を誘導しようとする行為があまり好きではない」と三池監督らしい回答も。

 また、『オーディション』(00)を例に挙げ、演技における、俳優とのコミュニケーションについて、「俳優といっても、ベテランもいれば新人もいたり、一言で“俳優”と言っても全然違うところが面白い。皆に集まってもらい、ひとつのものを目指してこうというディスカッションは一切しないんです。その人が台本を読んで、自分の役をどう読むかは人それぞれ違いますよね。その役を演じることによって、映画が出来上がったその先のキャリアについて考えたりすると思うんですけど、僕はその先のことよりも、今この撮影を楽しんでもらいたいというだけ」と語る三池監督。「映画は自分の人生で何かを掴むための道具じゃなくて、今撮影しているこのシーンそのものが目的なんです。言葉で言うと非常に安っぽくなってしまうので、そう感じてもらえるように現場を進めています。つまり共鳴し合うことが大事なんだと思います」と説得力ある持論を語った。

 迷いのない、自信に溢れる三池監督の姿を受け、映画を撮影している時、監督としての判断で迷いが生じたことはあるか尋ねられると、「迷っている時間がもったいないというか、信じてやっちゃえって思う。迷ったときは止めてしまう。思ったものを躊躇せずにやってしまえばいいし、やらないと後で後悔すると思うんですね。自分の人生の時間って思っているよりもそんなに長くはなくて、やれるときにやってしまう。やったうえで後悔するのは受け入れることができるので」と迷いない三池監督の回答に、関心の眼差しを向ける質問者の姿も。

 最後に、ホラー、コメディなど、いろいろなジャンルを盛り込む作風について、「そもそもジャンルというのに、我々製作側が捕らわれているのが怖いなと思う。ジャンルってもともとは作ったものをお客様に情報を届けやすいように、これは怖い映画=ホラー映画ですって。実際、作る時には関係のないもので、作った後にお客様に届けるためにカテゴライズするためのもの。いつの間にか製作現場では、ミュージカルじゃないから歌っちゃいけない、というジャンルに捕らわれている人がいることに怖くなりました。そこらか解放されていいんじゃないかなという思いで形になっています」と語り、様々な作品を手掛ける中で、揺るがない“三池監督”を存分に感じるQ&Aだった。これからの映画業界を担う若者や映画ファンとたっぷりと交流し、シンガポール国際映画祭は幕を閉じた。



(オフィシャル素材提供)



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