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『家族を想うとき』
オフィシャル・インタビュー

2019-12-12 更新

スティーヴン・キング


家族を想うときkazoku
© Kazuko Wakayama
配給:ロングライド

ケン・ローチ監督 KEN LOACH

 1936年6月17日、イングランド中部・ウォリックシャー州生まれ。電気工の父と仕立屋の母を両親に持つ。
 「キャシー・カム・ホーム」(66)で初めてTVドラマを監督、『夜空に星のあるように』(67)で長編映画監督デビューを果たし、『ケス』(69)でカルロヴィヴァリ国際映画祭グランプリを受賞。その後、世界三大映画祭などで高い評価を受け続けている。特にカンヌ国際映画祭では「ブラック・ジャック」(79)、『リフ・ラフ』(91)、『大地と自由』(95)が国際批評家連盟賞を、「ブラック・アジェンダ/隠された真相」(90)、『レイニング・ストーンズ』(93)、『天使の分け前』(12)が審査員賞を受賞。労働者や社会的弱者に寄り添った人間ドラマを描いた作品で知られる。その他、政治的信念を色濃く反映させたドキュメンタリー映画「1945年の精神」(13)などがある。
 前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)は世界中で賞賛を受け、2016年のカンヌ国際映画祭で『麦の穂をゆらす風』(06)に続く2度目のパルムドールを受賞。同賞の2度の受賞はミヒャエル・ハネケらと並んで最多受賞記録である。
 前作を最後に引退を宣言していたが、今もなおイギリスや世界中で拡大し続ける格差や貧困の現実を目の当たりにし、今どうしても伝えたい物語として引退を撤回し本作を制作した。



 日本でも大ヒットを記録した『わたしは、ダニエル・ブレイク』を最後に映画界からの引退を表明していたケン・ローチ監督。名匠が引退宣言を撤回してまで描きたかったのは、グローバル経済が加速する中で変わっていく人々の働き方と、時代の波に翻弄される「現代の家族の姿」。『家族を想うとき』で現代社会の問題を訴えるケン・ローチ監督のインタビューが到着した。


 67年に『夜空に星のあるように』で長編映画監督デビューを果たし、『ケス』(69)、『リフ・ラフ』(91)、『レイニング・ストーンズ』(93)、『ブレッド&ローズ』(00)、『スイート・シクスティーン』(02)、『麦の穂をゆらす風』(06)など、これまで半世紀以上にわたり、労働者に寄り添い厳しい現実を描き続けてきたケン・ローチ監督。前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)で2度目となるカンヌ映画祭最高賞パルムドール受賞を果たし、引退を宣言したが、再び名匠がメガホンをとり話題になった本作。引退を撤回した経緯について、「『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)を撮り終えた後、多分、これが私の最後の映画になると考えていた。でも、リサーチのために出かけたフード・バンクのことが心に残って……。そこに訪れる人々が、パートタイムやゼロ時間契約(注1)で働いていた。いわゆるギグエコノミー(注2)、自営業者あるいはエージェンシー・ワーカー(代理店に雇われている人)、パートタイムに雇用形態を切り替えられた、新しいタイプの働き方をする労働者のことが、忘れられなかった。次第に『わたしは、ダニエル・ブレイク』と対をなす、作る価値があるテーマだと思った。」と振り返る。

 本作の脚本は『カルラの歌』(96)以降これまで長きにわたりローチ監督とタッグを組んできた、ポール・ラヴァティが担当。イギリスで実際にフランチャイズの配送ドライバーをする男性が、病気の治療のために仕事を休もうとするも、交代要員を見つけられず罰金が課され、ストレスと負債が重なる状況で働き続けたことで、合併症で亡くなってしまったことに着想を得たという。ポールとのリサーチで、何人かのドライバーと会ったことを振り返りながら「生活をするために働かなければならない時間の長さと、仕事の不安定さに驚愕したよ。彼らは自営業者で、理論上は自分たちのビジネスなので、もし何か不具合が生じたら、すべてのリスクを背負わなければいけないんだ。配送がうまくいかなければ、彼らはダニエル・ブレイクと同じような制裁を受けることになる。」と過酷な働き方ついて振り返る。

 入念なリサーチに加え、実際のキャラクターと同じような境遇の役者をキャスティングし、労働者のリアルな姿を追求したローチ監督。「出演しているドライバーたちは、ほとんど全員が現役のドライバーか元ドライバー。彼らは実際の仕事の段取りやプロセス、そして仕事を素早く成し遂げることのプレッシャーを理解しているから」とこだわりを語る。主人公のリッキー役には、これまで自営業の配管工として20年間、一生懸命働いた経験を持ち、40歳になってから演技をはじめたという、クリス・ヒッチェンを抜擢。リッキーのキャラクターについては「マイホームを購入するために、これまで建設作業員として真面目に働いてきたけど、銀行と住宅金融組合の破綻が同時に起こり、その後は職を転々とするようになってしまう。リッキーは、稼げそうな宅配ドライバーとして働くことを決意し、再び普通の生活に戻れるチャンスを掴もうとする。だから、自らが率先して、へとへとになるまで働かなければいけなくなってしまう」とコメント。

 アビー役には、デビー・ハニーウッドを起用。ラーニング・サポート・アシスタント(注3)として働き、実際に10代の息子を持つ母親でもある。アビーについては「幸せな結婚生活を送っている母親で、リッキーと信頼関係もあり、子どもたちに対しては良い両親になろうと努力している。だけど、彼女も家にいられないほど一所懸命に働かなければならず、さらに、便数のないバスで通勤しているため、長時間仕事に拘束されてしまう」という。

 二人の子どもについては「息子のセブは16歳だけど、彼を見守るべき両親が共に仕事で不在がちなせいで、道を踏み外していってしまう。両親は、セブが学校から逃げ出し、トラブルを起こしていると思っている。リッキーは考えが保守的だから、セブと対立してしまうけど、彼には両親が気づいていない、芸術的でクリエイティブな才能がある」。続けて娘のライザ・ジェーンについては、「とても聡明な子で、ユーモアのセンスがある。家族の中の仲裁役として、全員がバラバラになってしまいそうになった時、彼女は家族を一つにまとめようとするんだ」とコメント。

 最後に、本作で問いかけているメッセージについて「一日14時間、くたくたになるまで働いているバンのドライバーを介して買った物を手に入れるということが、持続可能なシステムなのか? 友人や家族の関係性までに影響を及ぼしてしまうほどの、プレッシャーのもとで人々が働き、人生を狭めるような世界を、私たちは望んでいるのだろうか? 資本主義のシステムは、金を儲けることが目的で、労働者の生活の質には関係がない。ごく普通の家族が、ワーキング・プアに追い込まれてしまう。だから登場人物に共感し、彼らと共に笑い、彼らの問題を自分ごとのように感じて欲しい」と熱い思いを語り、インタビューを締めくくる。

 83歳の名匠が再び立ち上がり、どうしても訴えたかった、現代社会への怒りのメッセージを、ぜひ劇場で受け取ってほしい。


 (注1)雇用者の呼びかけに応じて従業員が勤務する労働契約、オンコール労働者ともいう。
 (注2)インターネット経由で、非正規雇用者が企業から単発または短期の仕事を請け負う労働環境。
 (注3)教育現場で、生徒・教師のサポートをする仕事



(オフィシャル素材提供)




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