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『ココロ、オドル』インタビュー

2019-06-27 更新

尚玄


ココロ、オドルkokoroodoru
配給:株式会社ファンファーレ・ジャパン

尚玄

 1978年6月20日、沖縄出身。
 大学卒業後、バックパックで世界中を旅しながらヨーロッパでモデルとして活動。帰国後、俳優としての活動を始める。
 戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』(08)でデビュー。三線弾きの主役を演じ、第20回東京国際映画祭コンペティション部門にノミネートされる。
 その後も映画を中心に活動するが、メソッド演技に感銘を受け、本格的にNYで芝居を学ぶことを決意し渡米。
 『ストリートファイター 暗殺拳』(14)の剛拳役、テレビ版『デスノート』(15)のレイペンバー役など、現在は日本とアメリカを行き来しながら、邦画だけではなく海外の作品にも多数出演している。



 美しい自然を背景に、不器用ながらも互いの絆を確かめ合う3組の家族を描いた、沖縄発のオムニバス映画『ココロ、オドル』が新宿K's Cinemaにて公開中だ。その全3話に登場し、おばぁと共に民宿を営みながらそれぞれの家族と関わる地元の青年を演じた尚玄が、沖縄映画と沖縄への想いを語ってくれた。


『ココロ、オドル』はドイツで開催された第20回ハンブルク日本映画祭で審査員賞を受賞しました。どのような感想が寄せられましたか?

 アジア映画を観慣れている観客も多く、鋭い質問が多かったですね。ある方から「映画は模範であるべきで、『ココロ、オドル』のある描写は映画に相応わしくないのではないか」という指摘がありました。ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、基地に囲まれた沖縄の現状も説明しつつ、返答した岸本監督の言葉が素晴らしくて、この人と映画を作り続けてきてよかったなと改めて感じました。


同郷で何度も仕事をしているのは岸本 司監督だけということですが、それだけ深い信頼で結ばれた関係なのだと思います。どんな演出をされる監督ですか? 尚玄さんにとって、監督の魅力は?

 とにかくコミュニケーションを大事にしてくれる監督ですね。日本の現場だと時間もタイトなので、監督と会話をする時間もあまり持てないまま進んでいくことも多いのですが、岸本監督は撮影前から物語やキャラクターについてなど、いろいろ話し合う時間を持ってくれます。現場のライブ感を大切にし、俳優ともディスカッションをしてどのように撮影するか決めてくれる方なので、みんなで創り上げていく感じがとても好きです。


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 ※第20回ハンブルク日本映画祭にて。

岸本監督のオリジナル脚本ですが、今回の物語を発想されたきっかけは伺っていますか?

 沖縄の島々を回った時に、座間味島の大自然に魅了されたとおっしゃっていました。そこから、一話目の言葉の通じない外国人夫婦の物語を構築していったようです。


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 ※『ココロ、オドル』撮影時、オフ・ショット。

同じ沖縄でも尚玄さんは那覇出身ですが、座間味島は県民にとってどういう場所ですか? 実際に滞在していかがでしたか?

 僕の生まれ育ったところは都心部でかなり開発されてしまっているので、座間味島ではゆったりとした時間と大自然を満喫することができました。撮休の時に一人で島を散歩し、海風や草木の匂いが思い起こさせてくれる幼少期の記憶を味わっていました。


尚玄さんが演じる雄飛とおばぁは3話のオムニバスをつなぐ登場人物です。沖縄の家庭料理でもてなし、人を癒すおばぁと、当事者ではなくともその周辺にいてちょっとずつ関わっていく雄飛。おばぁや周囲の人々との関係から、物語では語られなかった彼の過去や背景について思いを巡らせられました。特に、仁科 貴さん演じるヨシヤに「お前みたいなおやじでも、子どもは待ってるんだよ」と言った時には“家族”というものに対する雄飛の複雑な想いを感じさせられましたが、彼はどういう人物だと解釈して演じられましたか?

 今回は三つの家族の物語ではありますが、全体を通して見ると雄飛がほんの少しだけ成長する話でもあります。おばぁと雄飛のことは劇中ではあまり語られないのですが、雄飛のバックグラウンドに関してはかなり掘り下げました。彼がどうやって育ってきて、あのような性格になったのか。一番のポイントは彼の両親が一切出てこないところでした。だからこそ出てきたあの言葉だったんだと思います。


吉田妙子さん演じるおばぁは、人々をあたたかく癒す存在でした。吉田さんとの共演はいかがでしたか?

 妙子さんとは岸本監督の初長編作『アコークロー』からのご縁で、もう何本もご一緒させてもらっていますが、妙子さんが画面に出てくるだけで心に温かみを感じることができる唯一無二の存在ですよね。雄飛はずっとおばぁに育てられてきたから、影響を受けているところが大きいだろうと思い、現場では妙子さんとできるだけ会話をするようにしました。基本的には役のことというよりは妙子さんご自身のお話ですが、そういう積み重ねが二人の距離を近づけてくれたと信じています。


沖縄出身の俳優の方々の掛け合いがコミカルで、楽しいシーンを創っていましたが、アドリブなどもあったのでしょうか?

 基本的には台本通りだったと思います。山城智二さん、普久原明さん、城間やよいさんといった沖縄芝居のベテランたちが脇を固めてくれたお陰で、テンポが良く、楽しいシーンになりました。あの居酒屋のような箸休め的なシーンは、岸本さんの作品ではよく出てきますね(笑)。


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 ※『ココロ、オドル』撮影時、オフ・ショット。

加藤雅也さんが本来のダンディさを封印した役を演じられて印象的でしたが、今作への出演を、監督や尚玄さんはどうやって口説き落としたのでしょう?

 最初は2005年のショートショートフィルムフェスティバルで『ココロ、オドル』の元になった短編版が受賞した時に、僕が雅也さんに監督を紹介しました。監督の口にした「琉球ノワール」という言葉に雅也さんが惹かれたようで、それから三人で一緒に何かやろうということになったのがきっかけでした。


本作は、オドリで始まりオドリで終わります。あれは沖縄に伝わる踊りなのか、あるいはおばぁと雄飛が自由に踊っているものなのか、どちらですか?

 映画を観てくださったたくさんの方から、「あれは沖縄の伝統的な踊りですか?」という質問がありましたが、あれは僕もおばぁも自由に踊っていただけです(笑)。あの瞬間に降りてきたオドリでした。


第一話に登場する異邦人のクリスが、「自然は美しい。だから、自然に任せよう」と言います。自然にはいかず、いつの間にかねじれてしまっている家族・人間関係が描かれていますが、人と良い関係を築くために尚玄さんが心がけていることは?

 あの言葉は、本作の中でも僕が一番好きな台詞ですね。
 僕は、当たり前のことを当たり前と思わず、親しい間柄でも感謝を忘れないように心掛けています。


沖縄を舞台にした映画が近年増えてきているかと思いますが、東京や海外で長く暮らされてきた尚玄さんにとって、故郷・沖縄の魅力とは?

 都心に生活している人々が放棄してしまった、プリミティブなものが未だに根付いているところだと思います。もちろん那覇の街なんかは開発が進み、どんどん形を変えてしまっている。でも目に見えない大切な部分が未だに残っているからこそ、人々がどこか懐かしさを覚え、心惹かれるのではないでしょうか。
 今後はさらに沖縄の伝統や文化を色濃く描いた、「沖縄映画」というものがジャンルとして成立していって欲しいですね。


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 ※『ココロ、オドル』撮影時、オフ・ショット。

本作が公開された直前の6月20日がお誕生日でした。感慨はありましたか?

 友人たちがサプライズでウチの母親を沖縄から呼んでくれて、とても感動しました。そのおかげで母に東京での公開も見せてあげることができたので、忘れられない誕生日プレゼントになりました。素晴らしい友人たちに囲まれて本当に幸せです。


尚玄さんの今後の夢は?

 答えられないくらいたくさんの夢がありますが、ここ数年準備してきたある合作映画がようやく実現できそうです。先ずはそれに全精力を注いでいい作品にします。
 岸本さんとは今後も一緒に沖縄映画を作り続けていきたいですね。



ファクトリー・ティータイム

 尚玄さんとの初めての出会いは、アメリカ占領下の沖縄を舞台にした2008年公開の初主演映画『ハブと拳骨』のインタビュー時だったから、もう10年以上も前のことになる。とても男前で、優しく柔らかい雰囲気をたたえながらも、心には熱いものを秘めた方という印象を受けた覚えがある。その後、俳優としてさまざまな挑戦を経て、活躍されてきた尚玄さんだが、その語り口からにじむひたむきさ・純粋さは今も変わらず、聴く者の心に触れてくる。
 そんな尚玄さんがウチナーンチュとして仲間と創り上げた『ココロ、オドル』は、沖縄の魅力を存分に伝えるのみならず、どこで生きる者であろうとも、自らの在り方に問いかけをし見つめ直したくなる、深く美しい物語だ。
 なお、諸々の事情で対面が難しかったため、このインタビューはメールでなされたが、尚玄さんが書いてくださった内容をほぼそのまま掲載している。素敵な文章を書かれる方だと、さらに心を鷲掴みにされた。

(構成:Maori Matsuura、写真:提供素材)




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