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第68回ヴェネチア国際映画祭Q&A

『TOUTES NOS ENVIES』
第68回ヴェネチア国際映画祭Q&A

2011-09-04 更新

フィリップ・リオレ監督、マリー・ジラン

Toutes nos envies

 『君を想って海をゆく』『マイ・ファミリー/遠い絆』『マドモワゼル』など、現代社会が抱える問題を背景にしつつ、ごく普通に生きる人々の日常に起こるささやかな出来事、喜びや悲しみ、揺れる心の機微を温かな眼差しで描き続けてきたフィリップ・リオレ監督の新作『TOUTES NOS ENVIES』(訳:私たちの全ての願い)が、第68回ヴェネチア国際映画祭のヴェニス・デイズ部門に選ばれた。

 『TOUTES NOS ENVIES』は、不治の病を患いながらも、銀行から不当な借財を背負わされたシングル・マザーを守るために奔走する判事クレア(マリー・ジラン)と、彼女を支えるベテラン判事ステファン(ヴァンサン・ランドン)の闘いと、深い心の触れ合いを描いたドラマ。

 9月3日(土)の上映後には、暖かい拍手に包まれて感激した面持ちのフィリップ・リオレ監督と主演のマリー・ジランがQ&Aに応じた。

 本作は、ヴァンサン・ランドン主演の『LA MOUSTACHE』で映画監督も務めた作家、エマヌエル・カレールの実話に基づいた小説「D'AUTRES VIES QUE LA MIENNE」(訳:私のではない、他の人々の人生」を基にしている。

 原作のファンだという観客から、原作から大きく変更を加えている部分があるのは何故かと問われた監督は、「本来は、好きな本を映画化することには興味がなかった。その作品自体がすでに美しいのだから、映像化する必要性などないと信じていた。でも、この本は常にわたしの心をとらえていて、あるときふと、この作品のもつ“空気”“精神”を映像で表現してみたいと思ったんだ。だから、原作と必ずしも同じにする必要はないと思ったし、作者にも承諾していただいた」と答えた。

 今回ユニークだったのは、死を前にしたクレアが何よりも気にかけていたのは、自身の家庭や子供のことはもちろんながら、それ以上に、判事として自分が担当した一件の被告であるシングル・マザーのこと、ひいては彼女のように不遇な生活を強いられている人々のこと、つまり、まさに“自分のではない、他人の人生”だったということ。また、彼女が最期まで社会問題に一石を投じようと奮闘するのに対し、家庭を守り子供の世話をしているのは夫であり、外向きの妻と内向きの夫という構図で描かれ、しかもクレアは「彼はこの事実にはとても耐えられない」と言って、自分の病のことを夫に知られまいとひた隠しにする。

 なぜ、夫をそのような弱々しい存在に描いたのかと問われた監督は、「家で料理をし、子供の世話をする男性が弱いとは思わない。今の男性たちはむしろ、これが普通なんじゃないかな」とさらりとかわし、マリー・ジランは「この役を演じることが決まってから、医師や看護師の方たちと会って話を伺うなどのリサーチをしたのだけれど、死を前にしたとき、一般的に女性たちは家族や子供のことを気にかけて、男性たちはまず何より仕事やお金のことを片付けようとするらしいわ。そういった意味では、クレアの行動は例外的なのかもしれないけれど、わたしは彼女の想いがよく理解できたわ」とにっこり。

 心に深い哀しみを秘めながらも毅然と自身の運命を受け入れ、他者のためには闘うことを止めない女性の最後の日々を、抑制された演技で見事に生きてみせたマリー・ジランにとって、本作は新たな代表作となることだろう。

 一方、リオレ監督の前作『君を想って海をゆく』では主演し、今回は受け役にまわったヴァンサン・ランドンについて、共演するのは難しい役者だと聞いているが、と映画記者に問われたマリーは「ヴァンサンはカリスマ性があってとてもマッチョだけれど、一方でものすごく心配性だったり、ちょっとしたことを怖がったりと、子供みたいなところもある人なの。この両面があって初めてヴァンサンなのよ」と、個性派俳優の意外な一面を明かした。

 本国フランスでは11月9日からの公開が決定している。日本でも、普通の人々の人生と心模様を淡々と滋味深く描き続けるリオレ監督の作品を愛する映画ファンは少なくないので、今後上映される機会はきっとあることだろう。

(取材・文・写真:Maori Matsuura、スチール写真のみオフィシャル素材)


『TOUTES NOS ENVIES』
(2011年、フランス、上映時間:120分)

監督:フィリップ・リオレ
原作:「D'autres vies que la mienne」エマヌエル・カレール
脚本:フィリップ・リオレ、エマヌエル・クールコル
出演:マリー・ジラン、ヴァンサン・ランドン、アマンディーヌ・ドゥワスメス、ヤニック・レニエほか


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