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2008-10-15 更新
ドキュメンタリーは頭に訴え、フィクションは心に訴える。私自身は心に向けて映画を創りたい
グレゴリー・ナヴァ監督
1949年4月10日、アメリカ出身。
大学で映画を学び、在学中に撮った『The Journal of Diego Rodriguez Silva』でアメリカのNational Student Film Festivalで最優秀ドラマ賞を受賞する。その後、『The Confessions of Amans』(76)で商業映画デビュー、同作でシカゴ国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。監督・脚本を手掛けた『エル・ノルテ/約束の地』(83)でアカデミー賞脚本賞にノミネートされた。『セレナ』(97/未)では主演のジェニファー・ロペスにゴールデン・グローブ主演女優賞ノミネートをもたらした。その他の代表作に『デスティニー/愛は果てしなく』(88/監督のみ)、『ミ・ファミリア』(95)、『フリーダ』(02/脚本のみ)などがある。
配給:ザナドゥー
10月18日(土)よりシャンテ シネほかにてロードショー
メキシコで今も止むことのない、貧しい女性たちを狙った殺人事件に衝撃を受けたグレゴリー・ナヴァ監督が脚本を書き上げ、社会的に虐げられている女性たちの苦境を世に知らしめたいとジェニファー・ロペスが主演を引き受けた社会派サスペンス『ボーダータウン 報道されない殺人者』。日本公開を前に来日した監督と公私にわたるパートナーであり潜入取材を試みたプロデューサーのバーバラ・マルティネス=イトネールに、映画の背景となった恐るべき現実についてたっぷり話を聞いた。
グレゴリー・ナヴァ監督: 脚本の第一稿は2000年に書き上げた。メキシコ・フアレスでのこの一連の殺人事件は、起きてすぐに私も知ったんだが、いろいろと調べるうちに、腐敗しきった政府のこと、自由貿易協定、世界市場の拡大など、さまざまな背景がこの事件には隠されているということが分かってきたんだ。気の毒な女性たちは殺されても、当局は全く動かなかった。私は今回の事件で娘さんを殺された遺族の方たちにお会いして話をうかがったんだが、非常に心を揺さぶられたんだ。娘さんを殺されたのに全く正義が行使されていない状況に置かれた母親の方たちと話をして、心動かされずにいることは不可能だ。だから、私は何としてもこの映画を創らなければ……という気持ちになったんだよ。
ただ、こういった社会問題を扱った映画を創るために資金を調達するのは大変難しいことで、そういう面では大きな困難に直面したんだが、主演のジェニファー・ロペスが今回かなり早い段階から積極的に関わってくれたことによって、この映画の完成にこぎつけたとも言えると思う。彼女はフアレスの女性たちが置かれた状況に大変心動かされたんだよ。
また、プロデューサーで私の妻でもあるバーバラの存在なくしてはこの映画は完成しなかったと、ぜひ言わせてもらいたい。というのは、彼女はフアレスに移り住んで、地元の女性たちと暮らし、数ヵ月リサーチを行ってくれたからね。実際、この映画の中に登場する工場、マキラドーラに潜入して3日間そこで働いたんだ。だから、あのような環境で働く女性たちの気持ちが心底理解できたし、あそこは本当の生き地獄だということも実感できたんだよ。
グレゴリー・ナヴァ監督: バーバラも一緒に来日しているから、よかったら呼んでくるよ(笑)。このことについては間違いなく、彼女のほうがよく話せるからね。彼女が経験したことを映画に取り入れた。本当にひどい条件下での労働だったんだ。
グレゴリー・ナヴァ監督: そう。あのシーンはバーバラの経験にインスパイアされた。
グレゴリー・ナヴァ監督: 妨害行為は数えきれないほどあったし、殺害予告もあった。その中には本当に深刻な脅しもあったね。娘さんたちを殺された母親の方たちのグループが今回の映画に惜しみなく協力してくださったんだが、彼女たちは実に勇敢だった。いろいろなことをインスパイアされたよ。彼女たちにも殺しの脅迫はずいぶんあったんだが、それにひるむことなく、私たちをサポートし続けてくださった。
脅迫はたくさん受けたが、最悪だったのは白い鳩の死骸を使ったものだった。メキシコでは白い鳩は若い女性のシンボルとされているんだが、その白い鳩が喉をかき切られて、私の車のそばやホテルの部屋の前に置かれていたんだ。それ以上に怖かったのは、私が住んでいるロサンゼルスの自宅の玄関前に鳩の死骸が置かれていたことだ。つまり、私がアメリカのどこに住んでいるのか知られているということなので、すごく怖かったね。
そんなわけで、撮影プランをいろいろと変更せざるを得なかったり、安全を確保するためにさまざまな措置が必要だった。大変用心しながら映画を創らなければならなかったんだ。
グレゴリー・ナヴァ監督: いや、それはなかった。本当に深刻な脅迫があったのは、私たちがメキシコにいたときだった。
バーバラさん、登場。グレゴリー・ナヴァ監督: そうなんだ。撮影中はさまざまな問題があったので、私はジェニファーとアントニオ・バンデラスをフアレスに連れていくことはできなかった。あまりに危険すぎたからね。だから、セカンド・ユニットをフアレスに送った。そのときはバーバラが監督を務めてくれたんだ。彼女もさまざまな困難に遭遇した。警察が撮影を阻もうとするようなこともあったんだ。
バーバラ・マルティネス=イトネール: フアレスに着くとまもなく、警察が私たちの助監督を拘束して、体に電気を流す拷問をしたの。「はい、私たちは『ボーダータウン』という映画の撮影をしています。私たちは○○ホテルに泊まっています」と言わせるためにね。それから警察がホテルに来て、その日に私が撮影したフィルムを差し押さえ、さらには撮影に町に出た私たちの後をどこまでもついてきて、撮影済みのフィルムを渡せと言うので、私は偽のフィルムを渡したわ。中身は空っぽだってすぐにバレたけど(笑)。次にはカメラを押収しようとしたので、銃を携帯したボディガードを雇わざるを得なくなったの。それに、警察が撮影を阻もうとすると、娘を殺された母親の方たちがカメラの前に立ち尽くして、カメラを奪おうとする警察から私たちを守ってくれたのよ。しまいには警察も疲れてきて(笑)、ある夜、カメラを盗むという暴挙に出たの。
グレゴリー・ナヴァ監督: 警察はなんと、ドアを壊してホテルの部屋に押し入ったんだ。
バーバラ・マルティネス=イトネール: そうなの。ホテルも警察が押し入るのを黙認したというわけ。盗って、それでおしまいよ。
グレゴリー・ナヴァ監督: そのときがこの映画の撮影の終わりとなってしまった。
バーバラ・マルティネス=イトネール: でも私、その前にもたくさん撮ったわよ(笑)!
グレゴリー・ナヴァ監督: そうだね、たくさん撮ったし、たくさんしゃべった(笑)。時間切れだと言われたが、私があなたにあと数分差し上げるので、質問があればどうぞ。
グレゴリー・ナヴァ監督: ジャーナリストに「こう書くのが正しい」というようなおこがましいことは言えない(笑)。私は報道の自由を信じているので。もちろん、私は皆さんに映画を観に来ていただきたい。これはとても強いメッセージを持った映画で人々の心をつかむだろうと思っているし、サスペンスフルでスリルにも満ちている。観た方たちに強烈な体験を与えることになるだろう。映画館で観たら、きっと忘れられないはずだ。それに、心にも触れるのではないかと思っている。人間を描いている作品だからね。この話が人々の心に触れることを願っている。そして、何かをしなくてはいけないとインスパイアされるならもっとうれしい。立場の違う2人の女性が心を通わせ、地獄の中で暮らしながらも希望を見出していく話だからね。彼女たちは生き延びる道を見出し、正義のために闘ってゆく。観客の想像力に訴えられる作品であることを願っているよ。
グレゴリー・ナヴァ監督: フィクションとドキュメンタリーではどっちのほうがいいということはなく、両方必要だし重要だと思っている。私が考えるに、ドキュメンタリーは頭に訴えるし、フィクションは心に訴える。私自身は心に向けて映画を創りたいんだ。
グレゴリー・ナヴァ監督: この映画は国際的にも大きく注目されていると感じている。映画が公開されてからは、メキシコでの殺人件数も減ってきたと聞いているよ。ただ、相変わらず殺人はあって、先週も死体が発見された。今、メキシコ政府には国際的な圧力がかけられていて、当局もようやく調査に乗り出しているところだ。女性の権利に関しても国際的な動きがある。とはいっても、メキシコ政府はまだ、何もやっていないと同然の状況で、まだまだ変わっていかなければならない部分はたくさん残されているんだよ。
当初は予定になかったことだが、メキシコの女性たちが味わっている悲惨な状況を実際に体験するため、彼女たちと共に生活し、工場にも潜入した監督の奥様でプロデューサーでもあるバーバラさんが途中から参加して、その生々しい体験をたっぷり聞かせてくださった。15分というお約束が、監督のご配慮で2倍以上の時間を与えてくださりお話しくださった内容は、まさに想像を絶するもので、この映画が単なるフィクションではなく、いま現実に起きていることを誇張なく反映しているということがよく理解できた。世界では今も、こうした生き地獄の中で毎日を生き延びている人々がいるのだと知るためにも、多くの方々にこの映画を劇場で観ていただきたい。
(文・写真:Maori Matsuura)
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