インタビュー・記者会見等、映画の“いま”をリポート!

Cinema Factory

Cinema Flash


舞台挨拶・イベント

トップページ > 舞台挨拶・イベント > 『GUNDA/グンダ』

『GUNDA/グンダ』「音響」のプロが魅力を徹底解説!イベント

2021-12-03 更新

樋口泰人(映画評論家/爆音映画祭ディレクター)、蓮沼執太(音楽家)

GUNDA/グンダGUNDA ©2020 Sant & Usant Productions. All rights reserved.
ビターズ・エンド
12月10日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか 全国順次ロードショー

 名優ホアキン・フェニックス(エグゼクティブ・プロデューサー)と“最も革新的なドキュメンタリー作家”ヴィクトル・コサコフスキー監督がタッグを組んだ『GUNDA/グンダ』が12月10日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開となる。公開に先駆け、12月2日(木)、ヒューマントラストシネマ渋谷にてスタジオクオリティ音響を体験できる音響システム「odessa」での日本最速一般試写会が開催された。音楽は一切使用していない本作。迫力の「立体音響」で農場の片隅を覗き見ると、普段聞くことのない様々な「音」に包まれ、その場にいるかのような没入感を味わえる。上映後には、大胆かつ繊細な大音響で映画を届ける「爆音映画祭」を全国各地で開催している樋口泰人氏、映画、演劇、ダンス他さまざまなジャンルとのコラボレーションなど多彩な活動を展開する音楽家の蓮沼執太氏が登壇。「音響」のプロは本作の「音」をどのように体感したのか、たっぷりと語った!


 上映が終わり、唯一無二の映画体験の余韻を残す中、登壇した樋口泰人氏と蓮沼執太氏。音楽・ナレーションは一切使用せず、ただ農場で暮らす動物たちの息吹と自然の音で構成されている本作を「音響」のプロたちはどのように鑑賞したのか。

 樋口:ブタ、ウシ、ニワトリと正面から向き合う。そのような時間は普通に生きていたら絶対にありえない時間ですよね。自分とは違う存在と向き合うことで自分を確かめる、という体験ができて、すごく良かったです。2回目に観たときは、素晴らしいカメラワークなど技術的なところに目がいって、この映画を作るためにスタッフがくりだした熟練の技というものが見事にここに集結していると思いました。


GUNDA

 蓮沼:実は僕は劇場ではなく、自身の楽曲制作の作業用スピーカーを使用して本作を鑑賞したんです。立体音響技術「ドルビーアトモス」で制作された作品ということもあって、とにかく音のレンジ(範囲・幅)が広く、音量や音の高低差の振り幅がすごい。人間が作る普通の音楽にはないような域の音も入っていて、ある種これが本当の音響体験といえるのではないでしょうか。いわゆる音響的な音楽が全編ずっと鳴っているような感覚でした。そしてただ豚を追っているうちにだんだんブタの世界に自分が入っていくような感覚にもなり、技術的なことだけでなく、家畜、動植物、人間中心的な世界のそれぞれのことを考えながら観ました。


GUNDA

 樋口:監督インタビューによると、ブタ小屋のなかに8ヵ所マイクを置いて録音したそうです。でも、予測できないものを録音するときって、どんな態勢でどのように行っているんだろうと気になりました。生楽器や電子楽器ではない、空気の振動を録音するようなときに、蓮沼さんはどのようなことに気をつけながらやっているんですか?

 蓮沼:本作の音はとてもミクロで高解像度。対象物に指向性の強いマイクを向けて録っていると思います。ただ、人間ではない動物が対象物なので、相手にストレスを与えないように非常に気をつけている。とても優しさを感じるんです。いい映像や音をとってやるぞ、ということではなく、あくまで自然にその現場で起こった音がそのまま高解像度で入ってくるようで、動物に対してリスペクトがある録り方だと思います。僕もフィールドワークで音を採集するので、その姿勢に共感を覚えました。意気込んでもいい音が録れるわけではない。自分に自由な発想や余白がないとやってこないという感覚があるので、それを大事にしています。
 本作はサウンド・デザインもとてもしっかりしてますよね。普段、作曲する際も緊張感を持たせるように工夫しているのですが、本作の音にも緊張感を持たせる仕組みがあります。例えば牛が大地を駆けるシーンは、まるでその場を駆け巡ったかのような感覚に。牛が奏でた音の響きが重なり合って、まるで現代音楽の打楽器の演奏を聴いているかのような瞬間がありました。知らず知らず、ただの音として聞いているけれど、とても音楽的でもあるんです。
 また、本作では農場が舞台の本作に人間の姿は登場しませんが、ときどき人工的なエンジン音などが耳に入ってきます。この映画全編を通して、腕を組んで見張っているような、人間の気配が感じられるんですよね。

 樋口:本作を観て、19世紀末に作られたリュミエール兄弟の短編『工場の出口』を思い出しました。“映画の誕生”とされているモノクロ無声ドキュメンタリーで、ただ工場から人が出てくるだけの映像なんですが、なぜそれが映画と呼ばれるのか。ほかに何を映しているわけでもないし、物語を作り込んでいるわけでもない。「動画」と「映画」の違いはどこにあるのか、というのは度々言われてきたことです。本作をモノクロで撮った理由のひとつでもあると思いますが、新しい技術を使って、また新たな“映画の原点”に立ち戻ったのではないかと思いました。
 そして、本作は画面に映っていないけど、度々車のエンジン音や鳥の鳴き声がかすかに聞こえてきて、フレームの外にも「場所」があるのだと常に意識させながら映している。見えているのは農場の片隅のものすごく狭い閉じられた空間ですが、「音」が常にものすごく広がりのある世界を示している。そのふたつの見せ方がすごく刺激的だなと思いました。
 また、監督はインタビューで「カメラと被写体の距離が大切」と語っていますが、まさにいまの時代、人間関係においてもふさわしい距離というものを示してくれている映画なのかもしれませんね。

 蓮沼:自分の生活サイクルを中心に考えてしまう今の時代に、僕たちが普段食べている家畜にも、このような生活や環境があるのだということを、説教臭くなく、観る側の想像力を広げる形でブタが教えてくれる映画だと思います。



(オフィシャル素材提供)



関連記事
トークイベント

Page Top