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『ぼくのこわれないコンパス』
シンポジウム

2020-09-15 更新

登壇者:トモヤ、サヘル・ローズ、マット・ミラー監督

ぼくのこわれないコンパスmy-invincible-compass
© 映画「ぼくのこわれないコンパス」実行委員会

 児童養護施設に暮らす子どもたちが直面している問題を扱うドキュメンタリー映画『ぼくのこわれないコンパス』の被写体であるトモヤ(21)と、ナレーションを務める、イランの孤児院で育ったサヘル・ローズが9月14日(月)、シンポジウムに登壇した。

 なお、このドキュメンタリー映画の完成に向け、到達しない場合は1円も受け取ることができない「All or Nothing方式」を採用した500万円を目標とするクラウドファンディングで寄付を9月22日火曜日17時まで募っている。

 ■ URLhttps://bit.ly/3lyBW6o (外部サイト)


司会: マット、このドキュメンタリーを制作する意図をお教えください。

マット・ミラー監督: この映画の製作のきっかけは父にあります。父は戦後、アメリカ人のお父さんと日本人のお母さんの元に佐世保で生まれました。父はネグレクトを経験し、その後見捨てられ、孤児院で育ちました。彼が経験したトラウマは大人になっても影響していて、僕自身にも影響を及ぼしました。なので、子どものトラウマ、メンタルヘルス(心の健康)、養護施設の子どもの支援についての映画をここ日本で作ろうと思いました。

司会: トモヤさん、ネグレクトや虐待の当事者が自分から顔を出して、名前の一部を明かして、発信していくというのはとても辛いことだと思うし、大変だと思いますが、出演することに決めた理由を教えてください。

トモヤ: 養護施設にいた時も大変な時もあったんですけれど、自分が18歳で児童養護施設を出てから(急に一人で暮らすことになるため、)いろいろ大変で、自分だけじゃなく周りもそういう大変な思いをしているというのが、いろいろな人に伝わればいいなと思いました。マットさんにこの話を頂いて、少しでも自分の経験を知ってもらえたらと思い、協力しました。


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司会: トモヤさんの人生の転機は、2011年の東日本大震災ですよね? 中学1年になった2012年の出来事を、話せる範囲でお教えいただけますか?

トモヤ: 中学校1年位からネグレクトや虐待を受けました。最初は軽くて、「これをしなきゃご飯を食べられない」位だったけれど、「これをしたよ」と言っても「次はこれをやらないとご飯はないよ、外に出れないよ」ということが重なっていって、しまいには、自分の部屋の外鍵をかけられて、強制的に出られないということがありました。

司会: マットはサヘル・ローズさんにナレーションをお願いしたとお聞きしました。サヘルさんは本作のドキュメンタリー部分をご覧になっていかがでしたか?

サヘル・ローズ: 美しい映画だと思いました。美しく、透明で、聡明であり、今まで児童養護施設を題材にした映画とはまた違った角度から、彼らの言葉でなく視線や空気や子どもたちが出すモールス信号が描かれていました。頼れる大人、家族がそばにいない子どもたちが、どういうスピードで大人になっているのか、何を抱えてしまうのか、一人ひとりの中に生まれてくるインナーチャイルドという存在が画面を通して浮かび上がってきました。観た方が、一人ひとりの子どもたちと出会ってくれて、「●●施設の子たちはこう」という固定観念をとっぱらって、普通の子どもだと分かってもらえると思いました。
 この映画を観て思ったのは、子どもの現状ももちろん知ってもらいたいのと同時に、大人を救ってあげないといけないということです。大人が孤立してしまって受け皿がないと、思わず自分の子どもに手をあげてしまって、傷ついて施設に入ってしまうという負の連鎖が続いていく中で、大人も救わなくてはいけない。この映画を観て、大人自身も救われてもらえたらいいなと思いました。

司会: サヘルさん、本作に参加することを決めたのは、サヘルさんの過去とトモヤくんの過去が共鳴するものがあったからと聞きました。どのようなことがあったんですか?

サヘル・ローズ: 私は親の顔も覚えていないし、存在を知らないんですけれど、親の匂いってどんな匂いなんだろう。皆、鏡を観た時に、自分の目はお母さん似だとか、家族と似ているというのが感じられると思うけれど、それが全くない中で、鏡を見た自分が誰の子なのかすごく不安があります。
 私は7歳まで孤児院にいたんですが、泣きたい時に泣けるってすごく大事だと思うんです。でも施設の中にいる時は、泣ける子もいれば泣けない子もいる。抱きしめてくれる職員さんが、全員に平等にいない。職員が1対1で対応できるわけじゃないのが現実なんです。その中で、親の愛情が欲しかったという気持ちは、国、性別問わず、どの子たちにも通じる部分だと思います。7歳で今の育てのお母さんに出会った私は愛情をもらえているんですが、子どもは0~5歳にどういう状況下に置かれるかによって、その後の精神状態が決まってくるんです。私は今34歳ですけれど、施設にいた時に見てもらえなかった精神面と埋めてもらえなかった心の空洞がいまだにあって。自分の中には、施設で育った子どもがいるんです。一見「明るいサヘル」と思われるんですけれど、そうじゃない、取り残してきた部分があるんです。トモヤくんを見て、鏡越しでもう1人の自分を見ている気がします。そういう想いを一人でも多くの子がしないように、心のケアが大切だと思っています。本作はそういうことを伝える映画です。


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司会: トモヤくんは、今の話を聞いてどうですか?

トモヤ: すごい泣きそうです。

司会: サヘルさんは現在はボランティア活動もされていると聞きました。

サヘル・ローズ: お金の支援だけじゃなくて、子どもたちは人の瞳に自分が映るということを求めているんです。物を与えればいいというわけではなくて、子どもたちに会いに行く、抱きしめてあげる。「自分は今誰かの瞳に映っているんだ」という存在を確認できる相手を誰しも求めています。私は日本の施設の子どもたちと関わるようになって、その子たちが退所した時が問題だと知りました。施設の中にいれば守られていて、ご飯も食べられたりだとかするんですけれど、18歳を過ぎて社会に出た後、社会でどう生きて行くかが問題なんです。保証人になってくれる家族がいるわけでもない。免許を撮るにもお金が必要。孤立する子どもたちがたくさんいるので、その子たちが孤立しないように、生きて行く道づくりをするのが私の関わり方です。

司会: ナレーションを担当することで、期待することは?

サヘル・ローズ: 2年位前にマットさんから「こういう映画を考えているんだけれど、どう思う?」とメッセージがきて、感想を送ったり意見交換をしました。今年になって、「ナレーションをやっていただけないか?」と言われました。私はいつもは自分からやりたいということが言えないんですが、「やらせていただきたい」「やります」と手をあげたんです。なぜなら、心から寄り添えると思ったんです。ナレーションって、一歩引いて見ることも必要かもしれないけれど、声で関わるもう一人の子どもとして存在したいし、自分もこの映画で救われているので、他の子たちを救えるもう1つの存在になれればいいなと思っています。

司会: マットは、1年前に本作の記者会見を行って、クラウドファンディングは順調に集まったと聞いているんですけれど、再度クラウドファンディングをやることになった理由は?

マット・ミラー監督: 去年記者会見をやって、ハフポストの記事のおかげで、ソーシャルケアワーカー、実際の施設、日本で子どもを養子に迎えた家族などいろいろな方からメールをいただきました。当時既に撮影はほぼ終わっていたのですが、映画にこれを加えてより深い作品にできると思いました。
 また、無償でお手伝いをしたいというオファーもいただきました。そういった無償のポストプロダクション作業が今年の4月から6月にアメリカと日本で予定されていましたが、新型コロナウィルスの影響が思っていたよりも深刻で、すべてストップしなくてはいけなくなりました。8月まで作業ができず、チームのみんなが経済面や家族などそれぞれの状況に対処しなくてはいけなくなりました。もともと無償でお手伝いをしてくださるはずだった話がなくなり、組織していたチームが解散となってしまいました。4月からどうやってチームを編成できるかを考え、リサーチや話し合いの末、チームの再編成ができ、12月までに完成させたいと考えています。
 もともとは最初に映画祭に出品して、劇場公開をしたいと思っていたのですが、新型コロナウィルスで状況が変わりました。オンラインなどで行っている現在の映画祭よりも、配信サービスの方がより多くの人に届くのではないかと思っています。配信サービスと既に話を始めていて、来年の冬には公開したいと思っています。もともとこの映画を作る目的は、専門家や施設の方々などに、日本で関心を高めてもらうためのリソースとして使ってもらうためなんです。


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司会: 最後のメッセージをお願いします。

サヘル・ローズ: ここからは皆さんが広めてくださらないといろいろな方に伝わらないです。決まった人しか関心を持たないのではなく、子どもたちは社会の子どもたちなので、社会全体に関心を持ってもらうためのきっかけづくりは、皆さんのお力を借りるしかできないので、どんどん広げていただきたいです。今施設にいる子や未来の子どもたちが救われるので。

トモヤ: こういう状況は一般社会に明るみに出ないと分かってもらえないと思うので、少しでも世に出て、みんなの目に入ってもらえたらなと思います。

マット・ミラー監督: 僕は施設の子どもたちをサポートすることに情熱、ミッションを感じています。ここにいる登壇者さんもコラボレーターだし、記事を読んでくださる方もコラボレーターだと思っています。幼少期は大切だというメッセージを一緒に広められればと思います。


主人公:トモヤ プロフィール

 2歳の頃から漁師の祖父母と3人で暮らす。2011年3月11日、当時11歳のトモヤは、東日本大震災の津波で、祖父母と住んでいた家を失う。祖父母が見つからないまま3週間が過ぎた頃、それまで数える程しか会ったことがなかった母親が迎えに来て、東京で母親と母親の新しい家族と一緒に住むことになる。2012年6月に母親によるネグレクト、9月に虐待が発覚。東京の児童養護施設に保護され、居場所を見つける。2014年夏より、児童養護施設で暮らす子どもたちのためのサマーキャンプ『みらいの森』に参加。


監督:マット・ミラー(Matt Miller) プロフィール

 アメリカ生まれ。彼の父親はアメリカ人の父と日本人の母の間に日本で生まれ、第二次世界大戦の混乱の中、孤児として日本の児童養護施設で育ち、10歳の時に養子として渡米。児童養護施設で育った父親のルーツを辿りたいと2006年に来日したマットは、日本では現在もたくさんの子どもたちが児童養護施設で暮らしている現実を知ることになる。子どもの権利を守るために、映画制作を通してより多くの人々の意識や行動に変化を促すことを目的に活動している。


登壇者:サヘル・ローズ(Sahel Rosa) プロフィール

 1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日。高校生の時から芸能活動を始め、舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、映画『西北西』や主演映画『冷たい床』はさまざまな国際映画祭で正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。映画や舞台、女優としても活動の幅を広げている。また、第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。世界中を旅しながら難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンなど子どもたちによりそっている。


 ■ オフィシャル・ホームページhttps://my-invincible-compass.com/ (外部サイト)
 ■ ■ 公式ツイッター: @my_invincible
 ■ ■ 公式インスタグラム: @my.invincible.compass
■ 公式Facebookhttps://www.facebook.com/my.invincible.compass/ (外部サイト)



(オフィシャル素材提供)



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