2022-05-29 更新
守田悠人監督
PFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した、それぞれの「死にたさ」を擦り合わせようとする少女2人のシスターフッド・ロードムービー『頭痛が痛い』<6月3日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開>の脚本・監督の守田悠人のオフィシャル・インタビューが届いた。
守田悠人監督
1997年3月25日生まれ。愛知県出身。
大学4年時に執筆した『幸福なLINE』が第28回新人シナリオコンクールで佳作1位受賞。元々脚本家志望だったが、『ラザロ-LAZARUS-』(07/井土紀州監督)と出合ってしまったのを契機に、監督として自主映画制作を始める。『頭痛が痛い』は初監督作品。
本作は、2018年に大学4年の時に作ったんですけれど、当時、高校生がライブ配信中に線路に飛び込むということが起きて、彼女の過去の配信映像だとかがネット上で拡散されました。その一連を見たときに自分の中に漂ってきたものをうやむやにしたくないと思いました。10年後の自分がこのテーマで撮れるか分からないですし、「今しか撮れない」と思って撮りました。
ちぐはぐな痛みというのを描きたくてこの映画を作りました。例えば、自分のしんどさを伝えたい時に「今、頭痛が痛くてしんどいんだよ」って言っても、「『頭痛が痛い』って言葉の使い方が間違っている」と言われて、まともに取り合ってもらえない。でも、こっちとしては今の自分のしんどさを他の言葉で形容できない、「頭痛が痛い」としか言えない、という、他人との分かりあえなさや矛盾した痛みを含んだタイトルがいいなと思いました。
ジャンプカットはラスト手前の、屋上に立つ誰かの足が不意に消えるというシーンにもリンクさせているんですけれど、雑踏の中でさっきまでそこに居た誰かが不意に消えていても認識できないのと同じように、人がこの世から消えてゆくことを認識できないですし、そのスピード感についていけない、処理が追いつかない、という感覚で使いました。
「誰でも抱えうる憂鬱を持っている子」というふうにしたく、原因を描いてそれと紐付けたくなかったというのが一番の理由です。
僕もありますし、厳密に言うと僕はちょっと違う感じなんですけど、みんなそれぞれ憂鬱に対処する儀式みたいなものがあるんじゃないかなと思っています。僕の身の回りにいる人で、毎日「死にたい」と言いながらすごく健康的に生きている人がいて、めちゃくちゃかっこいいと思うので、それを肯定するためにこのセリフを書いたんだと思います。
阿部さんとせとらさんに共通するのは、オーディションで「この人のことを知りたい」と思ったからです。
オーディションの際に、全員の方に「死にたいと思ったことはありますか?」という質問をしたんですが、阿部さんの答え方は、「皆あるんじゃないんですかね~」と自分に当てられた焦点をすり変えているような交わし方をされたので、阿部さんという人間に興味が湧きました。
せとらさんは、入ってきた瞬間の挙動が印象的で、ヒョウ柄のボトムスとすけすけのシャツを着ていたのも相まって、映画のオーディションに来る人ではない異様な感じがしました。それまで漠然としたイメージだった鳴海が、実際にせとらさんを見て、この子が鳴海だったんだと思いました。
いくが遺書という爆弾をばら撒くんですけれど、受け取った側にどう作用するかを描くと、爆弾に奥行きが出ると思いました。それで正義感が空回って欲しい、そういう存在が欲しいと思って、直樹のキャラクターを構築しました。
いくのラブホでの援助交際のシーンはしんどい描写だったんですけれど、本番でカメラを回している最中に、いくの姿を見ながら「あ~」と声が漏れてしまい、NGを出したことがありました。
主演の2人のお芝居や、2人が持つそれぞれの強さ、いくと鳴海の関係性を見て欲しいです。
自主映画で至らない部分もたくさんあると思うんですけれど、2018年の自分ができる限りリアルを全部吐き出して作った映画なので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。
(オフィシャル素材提供)