2022-02-12 更新
池松壮亮、伊藤沙莉、永瀬正敏、松居大悟監督
MC:屋敷裕政(ニューヨーク)
映画『ちょっと思い出しただけ』の公開を記念して2月12日(土)、東京・渋谷のヒューマントラストシネマ渋谷にて舞台挨拶が開催され、池松壮亮、伊藤沙莉、永瀬正敏、松居大悟監督が登壇。本作にも出演している屋敷裕政(ニューヨーク)がMCを務めた。なお、映画公開日の2月11日は、永瀬が39年前に主演し俳優デビューを飾った『ションベン・ライダー』の公開日でもあり、“俳優・永瀬正敏”の誕生日を祝い、サプライズで松居監督から永瀬に花束が贈呈された。
コロナ禍にあって、無事に公開を迎えたことに一同ホッとした様子。本作は海外のアジア各国の映画祭への出品、および香港、台湾、シンガポール、マレーシアでの公開も決定しており、松居監督は「コロナというものは世界共通のもので、そういう中で僕らは去年、この映画を撮ったんですが、いろいろなことを思い出したりしながらも前に進める――『昔はよかったけど、いまも悪くないな』という思いになってくれたらいいなと思います」と思いを口にする。
池松と松居監督は十年来の付き合いとなるが、池松は「最初に会ったのが20歳の頃で、松居さんも20代でした。毎回、新しいことを一緒に挑戦できていて、お互いにアップデートした上でやれている」と互いに“進化”しながら一緒にものづくりができる喜びを語った。
伊藤にとっては、初の松居組となったが「みんなですごく松居さんを支えている感じがしました。松居さんの独特の世界観をいかに実現させ、叶えるか? みんなが一生懸命、寄り添ってやっているのを感じました」と撮影をふり返る。
本作は、人気バンド「クリープハイプ」の尾崎世界観が、バンド結成のきっかけにもなったというジム・ジャームッシュの映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て、コロナ禍の中で書き上げた楽曲「ナイトオンザプラネット」をベースに、尾崎と親交のある松居監督が脚本・映画化した作品。永瀬は、ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』、『パターソン』に出演した経験もあるが、松居監督は永瀬への出演オファーについて「ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』があって、クリープハイプの『ナイトオンザプラネット』という曲があり、それが『ちょっと思い出しただけ』という映画になるとき、ジム・ジャームッシュのDNAを引き継ぎながら作りたいと思っていて、そういう時にジャームッシュの作品に出ている永瀬さんが映画の中で生きていてくださると映画としての説得力、強さが出ると思った」と明かした。
それに対し永瀬は「すごく嬉しかったですね、尾崎さんが曲を作ってくれたのもすごく嬉しかったです」と喜びを口にしている。映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』は世界5都市のタクシーで同時に起きている出来事を描いたオムニバス映画だが、永瀬によると同作品の製作前後に「ジムが『“東京編”を作れなかったのが残念だ』と話していた」のだとか。同じ時間の世界5都市の物語であったため、時差の関係で東京の物語を入れると、東京だけ“ナイト(夜)”ではなく、“デイ(昼間)”の話になってしまうために実現しなかったそうで、松居監督は「永瀬さんが、今回の現場で『ジムがこの映画を観たときに『ナイト・オン・ザ・プラネット』の“東京編”だと思ってくれたらいいね』と言ってくださった」と嬉しそうに明かし、永瀬も「尾崎さんの(この曲を作るに至った)話を聞くと、グッとくるものがあったし、仲間に入れていただいてありがとうございましたという気持ちです」としみじみと語っていた。
ちなみにMCを務めた屋敷は、現場で共演したのは伊藤のみで、池松、永瀬とはこの日が「はじめまして」。屋敷は「昨日からエゴサしかしてない(笑)」と自身の演技への評価が気になるようだが「いまんとこ、『屋敷がダメだった』っていうのがなくてホッとしてます」と安堵の表情。池松は完成した映画について「(伊藤さんと屋敷さんの)2人のシーンが良かったですよ」と称え、伊藤は「すごく自然でした。アドリブもガンガン来て、余裕だなぁって思ってました」と称賛を送る。
これに気を良くしたのか、屋敷は「俺は普段のまま、“ただしゃべってるだけ”」と映画タイトルにかけてボケるが、会場は静寂に包まれる。これに屋敷は「映画の客はお笑いと違ってやりづれぇな!」と八つ当たり気味に毒づいていた。その様子に、池松や伊藤らからも大きな笑いが。
また、この日はバレンタインが近いということで、登壇陣が「バレンタインのちょっと思い出すエピソード」を披露。池松は、小学生低学年の頃にチョコをプレゼントされるも「物心がつき始めて、恥ずかし過ぎて、帰り道に空き地に投げました……(苦笑)」と告白。「親にも説明できないし、食べるのも恥ずかしいし……」と申し訳なさそうに、チョコを投げ捨ててしまった当時の心境を明かしていたが「その空き地にその後、キレイな家が建ったんですよね。茶色い家が……」としっかりオチまでつけて笑いを誘っていた。
一方、伊藤は「素直な性格じゃなくて、『好き』って言いたいけど、バレたくないっていう気持ちがあった」と自身の心境をふり返り、本心をカムフラージュするために「全員分のチョコを作って、本命のひとりだけ、中身を変えた」と複雑な乙女心を明かす。その本命の男子が先に帰ってしまったため、わざわざ家まで赴き「これ、みんなに渡してるから」と言いつつ、無事にプレゼントすることができたそうだが「次の日に、その子が『俺だけ中身違った?』と聞いてきたので『お前だけ残り物で作った』と言って終わった……(苦笑)」と素直になれない女子の切なすぎる思い出を明かしてくれた。
また、この舞台挨拶の前日の2月11日に本作は公開を迎えたが、39年前のちょうど同じ2月11日は、永瀬が俳優デビューを果たした映画『ションベン・ライダー』(相米慎二監督)が公開を迎えた日。この嬉しい偶然を祝って、松居監督からサプライズで永瀬に花束が贈られた。
最後の挨拶で永瀬は花束を手に「いろいろ、思い出しちゃって……動揺しています(笑)。39年前の情景は、あまりに緊張していて覚えていないのを思い出しました」と語り、さらにこの日、劇場に足を運んだ観客に「こうした状況の中で、皆さんに映画館に座っていただける喜びを噛みしめています。(池松さんと伊藤さんの)お2人が素晴らしいので、ぜひそれを噛みしめてください。僕にとっては監督、尾崎さんへの感謝の映画なので、その思いがひとりでも多くの人に届くといいなと思っています」と語りかけた。
伊藤は「いま、何気ない日常を思い出して、その大事さや愛おしさを多くの人が感じているんじゃないかと勝手に思ってるんですが、この映画は『前は良かったな』と思い出すことで、逆に前に進めたり、前を向けたりするんじゃないかと思います。希望を感じる作品だと思うので、この映画を観て皆さんが人生を前向きに捉えたり、肯定していただけたらいいなとひそかに願っています」と語る。
池松は「切ない映画であり、ビターで、あまり(過去を)ふり返りたくない人もいて、そういう(センチメンタルな)映画にカテゴライズされがちですが、決してそうではなく、自分たちが今、生きていること、これから生きていくことにまつわる映画です。2時間、どっぷりと浸って帰っていただけたら嬉しいです」と呼びかけた。
そして松居監督は「いま、苦しいとかイヤだって感じることが多いと思うけど、当たり前だったことが当たり前じゃなくなったことで、こうやって映画館に来られるとか、人と話せることが昔よりも嬉しく思えるようになったと思います。そうやって、失ったものではなくて、手に入ったものを愛おしく、抱きしめられるようにこの映画を作りました。そんな些細な日常を、いまの僕らが生きているコロナ禍から遡っていって、愛おしい感覚を持っていただけたら嬉しいです」と挨拶し、会場は温かい拍手に包まれた。
最後の最後に屋敷は、松居監督から締めの挨拶を求められ、突然のフリに困惑しながらも「大どんでん返しに期待してください(笑)」と冗談で返し、舞台挨拶は幕を閉じた。
(オフィシャル素材提供)
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