2022-02-08 更新
永瀬正敏、松居大悟監督
松居大悟監督が、主演に池松壮亮と伊藤沙莉を迎えて描くオリジナルラブストーリー『ちょっと思い出しただけ』が2022年2月11日(金・祝)に公開となる。この度、本作の公開を直前に控え、東京・渋谷のヒューマントラストシネマ渋谷にて試写会が開催され、松居監督、そして本作に出演し、ジム・ジャームッシュ監督作『ミステリー・トレイン』、『パターソン』に出演経験もある永瀬正敏が上映後のトークイベントに登場! 本作の魅力について語り合った。
主人公の佐伯照生(池松壮亮)の誕生日を2021年から1年ずつ遡って描いていくという独特の構成で、1年のたった1日だけを通じて6年の歳月を描く本作。昨年の東京国際映画祭にて本作のワールドプレミア上映が行われ、同映画祭では観客賞、スペシャルメンションのW受賞に輝いたが、そのプレミア上映の日である11月2日は松居監督の誕生日。さらに本作は2月11日(金・祝)に公開となるが、39年前のまさに同じ日は、永瀬の俳優デビュー作である映画『ションベン・ライダー』(相米慎二監督)が公開された日――つまり“俳優・永瀬正敏”が生まれた日! これだけでも誕生日という記念すべき日に不思議なほど縁がある本作だが、さらに、本作の初めての衣装合わせが行われた日も、永瀬さんの誕生日(7月15日)だったそう。加えて「その朝、たまたまジム(・ジャームッシュ)から『おめでとう』と連絡があったんです」と永瀬さんが明かし、折り重なった運命(?)に会場の観客も驚いた様子を見せていた。
永瀬は、ジャームッシュに触発されて生まれた本作への出演オファーについて「嬉しかったです。いまのジェネレーションの人たちに、そこに光を当ててもらえて、そこに参加できるのが光栄でした」と喜びを口にする。
ちなみに永瀬が演じた役の名前はジュンだが、この名は永瀬がジャームッシュの『ミステリー・トレイン』で演じた主人公と同じ役名。松居監督はこの点について「ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』があって、あれを見て尾崎くんはバンドをやろうと思ってバンドを作って、コロナ禍で弱っている時に『原点に戻ろう』ということで『ナイトオンザプラネット』という曲を作ったんです。あの曲で何かやってほしいという話をいただいた時、ミュージック・ビデオとかじゃなく、もっと責任を取りたい、応えたいと思って。やはりジャームッシュの映画に出られている永瀬さんに参加してもらうことによる説得力があるし、そのDNAを受け継ぐというか……。そして、この映画を観た方がまたジャームッシュのことを知って……といったことを考えて、参加してほしいと思いました」と映画の成り立ちに触れつつ、永瀬に出演してもらうことがどうしても必要だったと力説する。
永瀬は「本当はタクシー運転手をやりたかった(笑)」と冗談交じりに何度か語っていたが、実は永瀬は以前、ジム・ジャームッシュと話した際に、世界5都市を舞台にタクシーで展開する『ナイト・オン・ザ・プラネット』について彼が「本当は日本で撮りたかった」と語っていたというエピソードを明かした。世界5都市の同じ時間にタクシーで起こる出来事を描いているこの作品に、東京を入れてしまうと「時差の関係で、東京だけ“ナイト”ではなく“デイ”になってしまう」(永瀬さん)ということで、残念ながら実現しなかったそうだが、永瀬さんの「タクシー運転手をやりたかった」という思いには、『ナイト・オン・ザ・プラネット』でタクシー運転手役をやることがかなわなかったという事実も関係しているよう。
また本作は、松居監督にとっては初のラブ・ストーリーとなったが、松居監督は「いままで(ラブ・ストーリーを)むしろ避けていたんですが、今回に関しては、クリープハイプの歌も相手を想った歌だと思ったし、照れたり恥ずかしがったりしてる場合じゃないなと。見落としそうな景色、さりげない感覚を丁寧に撮ろうと思って、自分なりに真正面からラブ・ストーリーを描いてみました」とふり返る。
こうして完成した映画について、永瀬は「僕ね、無性に好きでした。これはちょっと……素晴らしいなと。もちろん、脚本を読んで字面では知っていたけど、主演の2人(池松壮亮&伊藤沙莉)がすごくよくて……これは本当に一人でも多くの方に観ていただきたいなと思いました。やられましたね……。参加させてもらってよかったなと思いました」と大大大絶賛! これには松居監督も「永瀬さんの感想を聞くのは初めてですが、震えています」と感激していた。
池松が演じた照生の誕生日だけを軸に、1年ずつ同じ日を遡っていくという“定点観測”とも言える構成について、松居監督は「(恋人たちが)出会って、別れて終わるというのは、日本映画でよく見る形になってしまいそうだなと思っていて……。ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』は同じ時間の世界中のことを描いているので、東京という同じ場所の様々な時間の話にしようと思ったんです。そこから、1年のある一日だけを描き、別れて終わるのはイヤなので、遡っていく形、思い出していくという形にしました」と説明する。
劇中では、登場人物たちが時間を遡っていくのに対し、永瀬が演じるジュンだけは時間を超越しているように見える、ちょっと不思議な役柄を演じており、この点に関して松居監督は「この映画、いろいろな人が一番愛し合える人を探して変化していくんですけど、ひとり、愛を貫く人がいてほしいなと思っていて。ジュンさんがひとりの人を想い続けていくというのがいいなと思っていました。そんなふうに愛を貫く人は、僕らが考えた時間を遡るという構成すらも超越する人でいいなと思ったんです」と説明する。劇中ではジュンの着る洋服の細かい演出や、彼が持つバラがある変化を遂げていくという描写は、永瀬のアイデアだという。
永瀬は、撮影への参加は1日だけだったが「本当はもっと長く監督のそばにいたかったです。決めつける演出ではなく、自由に動いてみて……というところから、いろいろなケミストリーを監督がすくい上げていく感じで、役者にとっては嬉しい現場でした。1日で終わっちゃうのか……と池松君に嫉妬しましたね(笑)」と明かす。
永瀬が出演した『ミステリー・トレイン』も含め、ジャームッシュの数々の作品は1980年代から90年代にかけて、日本にミニシアター・ブームを巻き起こした。コロナ禍で多くの映画館、特にミニシアターと言われる小規模な映画館が苦境に立たされている中、永瀬は「僕らが若い頃は“ミニシアター”とは言われてなくて、“単館系の映画館“という言い方をしていました。当時は『単館系なんか商売にならない』と思ってた人もいたけど、僕は『若くて面白い監督が頑張っているじゃないか!』と思っていたし、そこに通ってそこで育てていただいたと思います。階段に座って、お尻が痛いのを忘れて、(ジャームッシュの)『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観ました。映画館ってやっぱり特別な場所で、自分を生んでくれた場所でもあります」とミニシアターへの特別な思いを語る。
松居監督も「小劇場とかミニシアターで、衝撃的な言語化できない経験をしたり、独特のムードがあったりして、感動を超えるものに出合って……そうして自分は『映画ってなんていいんだ』『自分も作りたい』と思って志すようになりました。人生を変える、軌道を変えてくれたりするのがミニシアターの力だと思います」と思いを熱く語る。
映画の中では、コロナ禍の東京が随所に描写されており、松居監督の苦境に陥っているエンタテインメントの世界への思いも投影されている。永瀬はコロナ禍におけるエンタテインメントについて「僕も監督と同じ思いを抱いていました。39年間やってきたことは、不要不急なことだったのか?と一瞬、思いましたが、ずっと家にいると、やはり(エンタテインメントに)救われるし、『そうじゃない』って思えました。ジムを含め、海外の人からも『日本は大丈夫か?また一緒に仕事ができる日を夢見てお互いに頑張ろう』と励ましをもらって、腐るのは簡単だけど、腐ってちゃいけないと思ったんです。いま、コロナ禍だけど僕らは作品を作っていて、それはコロナが終わって、皆さんに劇場に来ていただいたとき、1本でも素晴らしい作品を残すために前を向いてないといけないからであり、それはこの作品にも描かれていると思います。時間を遡っていく物語だけど、決して後ろには行ってはいない、前を向いているのを感じられると思います」と力強く語った。
最後に永瀬は、改めて客席を見渡し「最近、ちょっとヤバくて、客席にお客さんが座っていただけているだけでグッとくるんです(笑)。お客さんがいらっしゃるのを見られるだけで、本当にありがたいです」と感謝の言葉を口にし「僕らも頑張ります!」と語った。
松居監督は「僕は、ジム・ジャームッシュ、相米慎二監督を敬愛しているんですが、そんな2人の演出を受けた永瀬さんとご一緒できたこと、一緒に作品を作り、今日もこうやってお話しできたことを嬉しく思います。まいってしまうことが多い世の中ですが、『昔はよかったね』とか『今はつらいな』というのも、昔があるから今があって、明日に進んでいく映画になればいいなと思ってこの作品を作りました。いいなと思ったら、周りに言語化して伝えてみてください」と呼びかけ、温かい拍手の中で、トークイベントは幕を閉じた。
(オフィシャル素材提供)
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