2021-10-28 更新
山本一賢(主人公・石神武司役)、小島央大監督、松崎健夫(映画評論家)
普段、我々が気軽に登録している個人情報が知らないうちに特殊詐欺のための名簿として売買されている実態をリアルに描いたクライム・ムービー『JOINT』。名簿売買、暴力団、特殊詐欺、ベンチャー投資、外国人犯罪組織など、現在進行形の“裏社会”をドキュメント・タッチで描く新たなジャパニーズ・ノワールで、大阪アジアン映画祭、ニューヨーク・アジアン映画祭ほかで注目を集めた。11月20日(土)の劇場公開を約1ヵ月後に控え、10月26日、監督・小島央大、主演・山本一賢、ゲストに松崎健夫(映画評論家)を迎えての特別トークショーが渋谷ユーロライブにて開催された。
今回の企画の成り立ちについて、きっかけはとある飲み会だったという。「その場にいた人で『映画を作ろうぜ!』と盛り上がり、勢いがついて、気づけば撮影していた感じです。その中にたまたま山本さんもいたんです」と監督が明かせば、主演の山本は、監督の第一印象について、開口一番「見たことあるな、こいつ」と一言。「以前僕が受けたオーディションで(監督から)落とされていて。監督を前に『お前、俺のこと落としただろう?』と突っ込みました」とコメント。
司会の松崎から「日本のインディーズ映画は、半径数メートルの出来事を描いた作品が多く、“犯罪映画”というジャンルはほとんどない。そんな中で犯罪映画のジャンルに挑戦した『JOINT』は、半径数メートルではない“社会”を描いた作品」と評論されると、小島監督は「もともとマーティン・スコセッシやマイケル・マンが手掛けた映画が好きで、犯罪映画のジャンルにとても興味があった。自分がいざ犯罪映画を撮ることになり、どんなメッセージを込めたらいいかを考えたときに、ちょうど当時の自分が“生き方”について迷っていたんです。『JOINT』では犯罪を通して社会性を描きつつ、その中に“生き方を見つける”という身近なメッセージを込めようと思いました」と明かす。
撮影時には「分厚い決定稿はなかった」という小島監督は、「もちろん大きな展開を書いた脚本はありつつ、基本はアドリブ重視。1つのシーンを撮り終えたら、次のシーンの行動やセリフを考える……という撮り方をしていきました」と述懐。一方、本作で演技初挑戦となった山本も「石神はどう思うか、どう行動するか、一人で行動するのかを考えて意見を出していきました。そして、自分以外の登場人物のセリフもみんなで考えましたね。僕は特に荒木のセリフを多く考えたんですが、途中から荒木がどんどんかっこよくなっていって……僕が荒木を演じたいと直談判したぐらいです(笑)」と笑顔に。また“全員で作るスタイル”はキャスティングにも反映され、山本は「(敵対する)大島会長役は僕の父親。街中のキャッチは、僕の友達で実際にキャッチを仕事にしている友人です」と、キャスティングにも一役買ったことを振り返る。
そしてトークはカメラワークについての話題へ。松崎は「工事現場で働く石神の表情を斜め下から捉えるファースト・カットからしびれました。そうして全編観ていると、クローズアップはあるのに、真正面のショットがほとんどない。石神の表情が見えそうで見えないんです。一方で、石神と幼なじみ、後輩の恋人とのシーンは、正面から撮っている。これは石神と相手との“信頼性”を証明するための演出ではないか」と分析。これに対し、小島監督は「ドキュメンタリー性を出すためにカメラをどこに置くかを大切にしました。通常のドキュメンタリーでは、人と人の間にカメラがあるのはありえない。『JOINT』ではアングルが綺麗に定まらず、あたかもそこに偶然カメラが居合わせたかのようなドキュメンタリー的な感覚を表現したいなと思いました。一方で、感情的なつながりを大切にしたいシーンは、意識的にカメラ位置を変えています」とこだわりを明かした。
個人情報が知らないうちに特殊詐欺に使われている恐怖も描かれた本作。リアルな詐欺行為を描くにあたり、様々なリサーチを重ねたという監督は、「調べていく中でも、Wi-Fiルーターの話が特に面白くて。外国人組織が仲介で受けたルータの中にウイルスが潜んでいて、アクセスした人が知らぬ間にクレジットカード情報などの個人情報が抜き取られている可能性がある。フリーWi-Fiなどもそう。Wi-Fiは、自分たちの生活になくてはならないものだけど、同時に恐ろしいものでもあるなと思いました」と警鐘を鳴らした。
映画『JOINT』は、11月20日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
(オフィシャル素材提供)
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