2021-07-04 更新
長谷川朋史監督
昨年、オンライン開催したSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で入選した『あらののはて』。本年度の映画祭の開催に先駆け、7月の週末5日間に2020年の映画祭でノミネートした全24作品を、SKIPシティで上映中。キックオフとなった1日目の4日(日)午前、本作が上映され、長谷川朋史監督がQ&Aに登壇した。
最初の質問者が、ほぼFIXで撮り、キャラクター二人が画面からアウトして、やりとりだけ聞こえて、画面に戻ってくるカットを使用した理由を聞くと、監督は「ずっと舞台演出をやっていたので、舞台をイメージした画作りが第一だった。“見えている場所、撮影で切り取っている場所は、映画でいうともちろんスクリーンで映っている場所なんですけれど、僕たちから見るとそれは窓で、ビジュアル的には映画との接点のすべて。その窓がどこを向いていて何を撮っているかは演出的に大事で、そこにあるものないものを作為的にコントロールすることによって、伝えるメッセージというのが強くなる”という手法を取った」と説明。
本作のプログラマーの長谷川敏行氏は、「監督自身が撮影も担当していて、構図も面白かった。すべてのシーンがわりと左右対称のシンメトリーになっている。学校の廊下で前田さんが仁王立ちして生徒が両端を歩いているシーンだとか、風子とマリアが公園で対峙するシーンも“真ん中にジャングルジムがあって風子とマリアがいる”という左右対称の構図だった」と指摘。その理由を聞かれ、監督は「この映画は初恋を描いているんですが、振り回されている人たちは泣いたりわめいたりしているけれど、主人公たちの心情、感情があまり発露しないというか、本人たちの気持ちが分からない。それをビジュアルとして、スクエアやシンメトリーなど無機質なものを配置して、なるべく記号的な意味合い以外のもの、情緒的なものが感じられないようなこだわりで作った」と回答した。
昨年オンラインで鑑賞して今回スクリーンで鑑賞した観客の方が、「逆光のままで撮っていると読みましたが、スマホやパソコンだとベストな環境ではないので、何が起こっているか分からなかった。今後は配信を考えた画面作りなっていくのか?」と問うと、監督は「映画というと、僕のイメージだと“映写されて何かに反射してスクリーンに映っているもの”。テレビやスマホやタブレットなど発光しているものが映画なのかなぁ?と。劇場でたくさんの人と同じものを観て共有するというのが自分にとっての映画体験。本作は、最初からスクリーンに映すというものとして作った。最近YouTuberの方とかにどういう映像が飽きられないという話を聞いて『(本作は)全部当てはまらないな。正反対だな』と思った。でも『だから価値がない』とは思わない。画面はお客さんと映画を繋ぐ窓。YouTuberさんたちはお客さんに向いた窓。その窓でどれだけサービスができるか。飽きさせない、楽しむ、喜ばせる、というのが今映像の一番の価値になっていると感じたので、あまのじゃくな僕は、映画はサービスではないと個人的には思っている」と持論を展開した。
観客の方が、「市川 準さんばりの心象風景カットをしかもタイムラプスで入れているので、主人公の女の子の気持ちと僕は捉えた」と指摘すると、監督は「僕が映画の洗礼を受けたのが80年代。その頃流行っていたアメリカのニューシネマの次のニューシネマやヌーベルヌーベルバーグなどで“感情は風景の中にあって、その人の表情や振る舞いや態度には映さない”というポリシーの監督が多かった。それはセット撮影ではできないし、ロケも風景や色に感情を載せようと最初から考えていないとできない。風子の心情は、夜明け前の青い空がイメージとなっている。心がざわざわするのは雲が早く流れているようなイメージだった。実は風子の顔が映るのはそこだけ。正面からアップで、しかもニヤニヤしている表情が分かるのはそこだけと最初から決めていた。怒っている人や泣いている人もその表情は入れないようにした」とこだわりを話した。
日本芸術センターでも本作を観たとい男性が、ブラジル国歌が使用されている理由を問うと、監督は「劇伴で使っているイアン・ポストさんの楽曲はアルバムとして存在する曲なんですけれど、その中にブラジル国歌があって、かっこよくて勇ましくって前向きで『いくぞ』というイメージで、タイトルバックに使おうと最初から考えていた。キャットファイトをどういう演出にしようかと思って、国旗を出したり、視聴覚教室の文化交流で『シティ・オブ・ゴッド』の映画を流しているとしたが、あまり意味はない。現実世界もすべてが自分の都合のいいように成り立っているわけではないので、“映画も映画の世界として成り立っていることがあって、そことたまたま画面が繋がっているだけ”、“部分としてしか接することができないから自分はリアリティを描くことができる”というのが僕の演出論」と話した。
1つのシーンが遠くと近くの2つのパターンで撮られているシーンについて聞かれると、「8年前と現在と同じことを繰り返すというループ構造になっていて、最初の8年前のシーンは客観的に離れたシーンで、盗み見ているという状況。8年後のシーンは風子が思い出している、風子の記憶のシーンと分けている」と解説した。
最後に監督が8月21日からの池袋シネマ・ロサでの公開について、「ぜひイベントをやりたいと思っている」と意気込みを語り、1年越しとなったリアルでのQ&Aは終了した。
(オフィシャル素材提供)
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