2020-02-06 更新
大友啓史監督
沼田真佑氏による第157回芥川賞受賞作である同名小説が原作の映画『影裏』が2020年2月14日に公開となる。2月4日(火)に日本外国特派員協会での上映会後に大友啓史監督が登壇した。その土地の気候や素材を活かし、地元の一流の職人によって作られる“クラフトビール”にちなみ、大友監督が“クラフトムービー”と位置付ける本作は、日本の原風景の美しさを切り取った日本だからこそ撮ることができた作品。本作は外国特派員の目にどのように映っただろうか。
NHKを辞め、映画で食べていこうと自分の会社を作る決意をした2011年に震災が起きたんです。あの時に故郷のために何もできなかったという思いがありました。盛岡を元気づけるために映画を作らないかというオファーもあったが実現できず、いつか故郷で映画を撮ろうと思っていて、今回いろいろな状況が整い、この映画を作ることができました。
今年、オリンピックが開催されるので、日本中が熱気に包まれます。もしかしたら、人々の記憶から震災が忘れ去られてしまうんではないかと思い、今、あの時感じた東北の人たちの想いを、僕自身が丁寧に忘れないように見つめておきたいと考えました。できれば観た人と共感できる作品をしっかりと残したいと思ったんです。震災というのは、朝ふらっと「行ってきます」と言っていた人が帰ってくることがないということなんです。そういう人の想いはどこに行ってしまうのだろうか。声なき人の声、声を発することのできない人の声を伝えていくべきだと思うし、NHK時代にジャーナリズムをかじった時の名残でもあると思うんです。
今野は、日本の社会で普通に生きている中でも価値観の衝突が起きてしまうキャラクターです。相手がどういうふうに振舞うかということにとても敏感であると同時に、彼のことを知らない土地に来ることで、自由になる部分もあります。新しい生活を始めようとしていますが、新しい土地で寂しさや孤独も感じているんです。一方、日浅は地元の人で、小さい時から川での釣りにもなじんでいます。大学は東京でも、地元のことをよく分かっているし、ふらっとスーツで夜釣りにも行くような人物です。地元の自然になじんでいて、自然のメタファーであり、コントロールできない位置づけで風来坊のようなキャラクターです。龍平君がうまく演じてくれました。
俳優は演技をするときに何かに寄りかかりたがるんですが、今回僕からは何も与えませんでした。1つでも解釈を与えてしまうと面白くなってしまうんです。彼とは敢えてどのように演じるかを話したくなくて、龍平君もだし、綾野君も演技については話しませんでした。自分なりの解釈で演じようとしている彼らを僕はドキュメンタリーチックに撮ったんです。もちろん、相違が出てきたら、建物の影に行ってコソコソと話したりはしました(笑)。背景の自然の味をコントロールして、見せ方を変えていきました。綾野君も龍平君も良い役者で、セットを観察してそこから受け止めてくれました。言葉ではなく、セットでキャッチボールをしていました。
キャスティングは原作を読んで脚本を作っている時点で、この2人しかいないと思っていました。綾野君は文学的なまといを感じさせてくれる俳優で、龍平君は映画的なまといを感じさせてくれる俳優。龍平君は何もしなくても映画になる俳優で、本能的にこの2人が見たくなったんです。『影裏』というタイトルにあるように、それぞれの役が裏側に違う感情を持っているのがポイント。今野は社会との軋轢がたくさんあって、本当は世の中に対して怒りを抱えていると思うんです。けれども怒りを抑えながら静かに生きているので文学的。怒りをかけながら弱く笑うのは綾野君だからできる。逆に、龍平君は、映画的な俳優で、静かにたたずんでいるだけで瞬間性と永遠性を持っているんです。
孤独というのはコンディションではなく、その人の心持だと思うんです。お金持ちだけど、たくさんの人に囲まれていても孤独な人もいる。僕も1人が好きで、干渉されるのが嫌いなんですが、人から見たら孤独かもしれない。けれども、本を読んだりするのが好きなので、孤独は場所を選ばないと思います。今回で言うと北国で孤独で、なじめない感じを持っていた2人が吸い寄せられて別れていくことを描きました。
小さなころから僕は盛岡の映画観で映画を観て育ってきました。映画は社会の窓で、映画を通していろいろなことを知ることができました。映画はTVや配信とは違って小さな画面で見るのではなく、大きな画面で他の人々と同じものを体験できると思っているので、映画にこだわっていきたい。子供だけでなく、大人を劇場に連れてくることができる映画を作りたいです。また、海外の人たちがどういうふうに観てくれるのか、コミュニケーションをとりたいと思っています。海南島(国際映画祭)も人々の受け止め方を知れて面白かったんです。映画はアートとしてだけでなく、コミュニケーションツールなので、海を越えて、人々と出会うツールにしていきたいです。
(オフィシャル素材提供)
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