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2015-01-02 更新
結城康博(「孤独死のリアル」著者)
スティーブ・ジャービス(隣人祭り 日本支部 代表)
竹原のぞみ(NPO法人 人と人をつなぐ会 理事長)
配給:ビターズ・エンド
1月24日(土)より、シネスイッチ銀座他全国順次ロードショー!
© Exponential (Still Life) Limited 2012
ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で監督賞含む4賞ほか、多数の映画祭で数々の賞を受賞している、映画『おみおくりの作法』が1月24日(土)より、シネスイッチ銀座ほかにて公開される。
本作は、ひとりきりで亡くなった人を弔う仕事をしているロンドンの民生係 ジョン・メイが、自分の向かいの部屋に住む男性の死をきっかけに、彼の身寄りを探し訪ね歩く、というストーリー。実際にジョン・メイのしている仕事はイギリスに存在し、その新聞記事を読んだ監督が長期にわたり実在の人物・出来事の取材を重ね、本作が誕生した。“孤独死”の問題は日本だけでなく、世界中で深刻化しているといえる。
この度公開に先立ち、「世界に広がる孤独死の現状とどう向き合うべきか」をテーマに、ケアマネージャーなどを経て福祉の現場の最前線を見続けてきた「孤独死のリアル」の著者 結城康博、フランスの小さなアパートでおきた高齢者の孤独死をきっかけに発足された、人と人とのつながりを取り戻しコミュニティを豊かにすることで、孤立しない地域社会を目指す団体「隣人祭り」の日本支部代表スティーブ・ジャービス、さらに、新宿区の戸山団地で発生した孤独死をきっかけに生まれ、緊急時にかかりつけ医に通報される「見守りケータイ」を導入するなど独自の対策を推進している「NPO法人 人と人をつなぐ会」理事長の竹原のぞみが登壇し、映画の試写会後にシンポジウムが行われた。
MC: 自己紹介を兼ねて映画のご感想をお願いします。
竹原のぞみ: 私どもは、本庄会長が住んでいる新宿区の都営戸山団地というところで、70歳代の男性が一人で亡くなられて、死後1ヵ月半ほどたってから、本庄会長が棟の代表をしていたので住民の代表として立ち会ったことが、NPOを立ち上げるきっかけとなりました。
映画は、主人公が亡くなられた人たちの宗教や人間関係をそれぞれ調べて、亡くなられた方たちの魂が満足するような形で葬儀をとりはからう姿にとても感動しました。ラストは、何とも言えぬ温かさと、経済史上主義になってしまった日本という国が、もう一度考え直さなければいけないきっかけになる映画になるなと思いました。
結城康博: この映画には2つの論点があると思います。1つ目は、孤独死、孤立死の問題です。日本では「孤独死」の定義付けは大変難しいのですが、おおよそ、「誰にも看取られずに自宅で亡くなり、死後数日後に発見される」ということです。この映画はまさに、孤独死、孤立死の問題が日本だけではなくて、世界的に広がっていることを物語っています。実は韓国でも深刻化しておりまして、ドイツでも問題になっています。日本は、推計年間3万人以上の方が孤独死、孤立死で亡くなっています。
2つ目の論点は、葬儀の問題だと思います。最近はほとんど誰にも看取られずに、直葬(葬儀をせずに直接火葬して納骨する)で普通の葬儀をやらない風潮になっています。死者を祀るということが日本社会のなかでだんだんと減ってきているのです。この映画でも、人の存在意義を社会や地域がなかなか認めず、希薄化しているところが映っています。日本社会において、効率・合理性に対する問題と希薄化する人間の存在意義というものを、どう考えていくのがこの映画で問われているので、非常に勉強になりました。
スティーブ・ジャービス: 私は「隣人祭り」の支部長として運営しています。「隣人祭り」とは「近所の人とゆるくつながるきっかけ」です。スタートしてから5年目に入りましたが、日本では200回くらい隣人祭りを行ってきました。ゆるく、気楽に近所付き合いをして、できるだけ多くの人が参加できるように、人のつながりをメインにして活動しています。
映画は非常に感動しました。ジョン・メイは「静かな英雄」じゃないかと思いました。彼は本当に素晴らしい人。無関心・孤独感のある社会に対して彼は抵抗しているのです。つながって生きる、つながって人間になるということがメインメッセージだと思いました。
MC: 「孤独死」の現状についてお話下さい。
結城康博: 基本的に「孤独死」は突然死です。一人暮らしの人がパタっと家で亡くなって、数日後に近所の人が発見する。そうすると事件性があるので、警察が捜査をします。事件性がないとなれば、近所の医師が検死します。(死因は)99%以上が捜査や医師検死で分かるんですけど、でも中には死亡解剖をしなければ分からないケースもあります。また、死後何日経ったら孤独死なのかというのも、価値観の問題なのでなかなか実数が出せません。
ジョン・メイのような仕事をしている公務員は日本には基本的にはいません。日本は戸籍制度がしっかりしているので。ジョン・メイは探偵のように突き詰めていきますが、日本は住基制度もしっかりしてますので、誰かしら絶対に親族は見つかります。しかし、例え親族が見つかっても葬式に来ないんです。生前に冷たい仕打ちをされたとか、父親がアル中だったり虐待していたりという場合があり、それで疎遠になり、孤独死になっていくケースが多々あります。孤立したその人に対して、誰かが最後の死の尊厳を保っていくと考えたときに、ではそれは誰がやるんだという問題点を我々に投げかけているのかもしれないですね。
MC: 「人と人をつなぐ会」では戸山団地を中心に、実践的な取り組みをされていますが、どのように孤独死を防ごうとされていますか?
竹原のぞみ: 今まで、さまざまな見守りの機器の開発を、調査をしては実験と7年間やってきました。その中で、ソフトバンクに携帯を開けると自動でメールが家族に届くというふたつ折りの携帯を作ってもらいました。今はもうその携帯はないのですが、メールは打てないけれども開けることができれば、家族に「起きたよ」ということが伝わるとものでした。引き続きいろんな会社に、最先端のものを使ってやっていただいております。
新宿の場合には、民生委員の方たちが1人500世帯の方を見ているんです。お年寄りの方だけを見るわけではなく、お子さんからお年寄りまで全部見るんです。民生委員に選ばれる方というのは70代の方が多く、500世帯を見るのはなかなか大変な作業です。これだけ日本は携帯電話が発達していて文明社会でもあるので、なんとかITを組み込んでやれないかというのをずっとテーマにしています。
また、今マンションなどに「空室」と貼られた部屋がありますが、空いていても高齢者の方は絶対に入れません。部屋で亡くなった場合に荷物を6ヵ月は捨てることができない、亡くなった際に体が腐ってしまっていたらリフォームに多大なお金がかかるなどいろんな問題があって、うちの会にも大家さんからの相談がよくあります。そんな中で、「第三者受け取り保険」があれば、大家さんが受け取り人になってリフォーム代に使っても良いですし、葬儀や荷物の片付けに使っても良いのです。それに、葬儀や荷物の片付け、お墓のことなど、いざというときに困らないようにベースになる保険を今年作りました。少しづつ皆さんに知っていただいて、孤独死対策をやっている団体や自治体の方にもご案内させていただいて、みんなで見守っていく形にしていければなと思っています。
MC: 一人のライフスタイルを選ぶ人は多くなってきて、今後一人で亡くなることは自然な流れになっていくと思います。その中で、孤独死をただ嫌というのではなく、どう受け止めるのかが課題になってきました。結城さんは著書で「一人暮らしで生きるライフスタイルを選ぶ自由がある以上、一人で亡くなる死に方もある。その場合に、見つけてくれる人が必要なのではないか」と書かれていますよね。
結城康博: 「孤独死」「孤立死」には、2つの考え方があります。脳梗塞や心筋梗塞で倒れた場合、心筋梗塞の場合はほとんど助かりません。突然死なのでもう助けようがないんですね。そういう場合の「孤独死」「孤立死」は、早く遺体を発見させる対策が求められると思います。しかし、脳梗塞の場合は、2~3日以内に発見されて救急車で運ばれたら救うことができるんですね。ですから「孤独死」「孤立死」の対応として、やむを得ない場合と救える命を救う、という2側面があります。
2015年の末には一人暮らしが600万人ぐらいになりますので、誰にも看取られずに亡くなってしまう方が増えるのは致し方ないと思います。でも、そうなった場合に、早く遺体を発見して死者の尊厳を保てるような地域社会にしていくことが、この映画でも求められていると思います。男性は一生のうち、5人のうち1人が、女性は10人中1人が結婚しません。いま熟年離婚も大変多いですから、今までは死別で一人暮らしになる例が多かったですが、家族や近所付き合いの希薄化もあり、一人暮らしは今後より普通の暮らし方になります。こういう社会において、ひとりの人が墓に入るまでを考えていかないと、公衆衛生上でも問題が出てきます。
この映画の中で、後継の女性は冷たいようですけど、税金で一応墓まで入れてくれています。日本の場合はそこまでせず、亡くなった方を墓まで入れる場合は、近所の自治会やNPO法人の助け合いでやっていて、原則、生活保護受給者以外は墓まで税金を使って入れるということはあり得ません。しかし税金を使ってでも墓まで入れていかないと、NPO法人などに頼っていっては限界があります。そういう意味では、死者に対する公的な役割についても日本で問われていくのではないかと思います。救える命を救っていくという対策と、遺体を早く発見して死の尊厳を持って対応していく公の役割。これが一緒に増していく日本社会になればと、この映画は訴えかけていると思います。
MC: 監督は「この映画を観て、隣人のベルを鳴らすきっかけになれば」と言っていますが、実際にそれをするのはなかなか難しいですよね。どのように声をかけるのが良いのでしょうか?
スティーブ・ジャービス: まずは、仲間を作らないといけないんです。隣人祭りは難しくないけれど、やる気と勇気が必要です。その場所に合った企画を作って、それぞれ役割分担していくしかありません。例えば、誰かの家の中だとドアを開けないといけないのでちょっと入り辛い。なので、基本的に公園、駐車場、自治会のスペースなど外で開催したほうが参加しやすいです。また、やりすぎないこともポイントです。年に1~2回、挨拶できる程度が良いのです。「無視をしない」「無理強いしない」「無理しない」ということが大切なのです。
隣人祭りは、西洋から生まれた文化ではありますが、井戸端会議や花見など、昔の日本文化には、人に会うきっかけはあったんですよね。それが個人主義な社会になってから、ドアを閉めて閉じこもって、インターネットで世界とつながるという時代になっています。団体としてのこれからの課題は、一人暮らししている若者、インターネット世代の人にもアプローチしていくことだと思っています。
(オフィシャル素材提供)