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2012-09-23 更新
北野 武監督、森 昌行プロデューサー
配給:ワーナー・ブラザース映画 / オフィス北野
10月6日より新宿バルト9、新宿ピカデリーほか全国公開
(C)2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
第69回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされた北野 武監督の『アウトレイジ ビヨンド』。9月3日(月)、サラ・グランデでの正式上映を前に記者会見が開かれ、北野監督と森 昌行プロデューサーが出席した。
北野 武監督: 日本のヤクザとイタリアのマフィアの違いは、堂々と表に看板をかけられるか否かだと思う。ヤクザの親分は、動く前にはちゃんとシュミレーションをするのが普通だけど、ガードを破って入ってくる人たちももちろんいるわけで。でも今回は、現実がどうと言うより、エンターテインメントに徹したつもり。警察とヤクザの関係ってのは世界共通じゃないかな。日本では最近、警察の不祥事が多くて、何にやってるんだろうなと思うね。素人みたいな不祥事を起こしちゃってる。
北野 武監督: 久々のヤクザ映画だったので、人の入りは何となく予想できたんだよなぁ。日本ではそんなに客が入る監督じゃなく、普段はコアなファンだけなんだけどね。2本目を撮ることになりそうだとは思っていたし、たぶん3本目を撮れって言われそうな気がしてる。でも、出来れば純愛ものを撮りたいんだけど(笑)。
北野 武監督: 刺青は鳶(とび)職の人たち、英語にすると“スカイ・ウォーカー”になるのかな(笑)? え、違う(笑)? とにかく、鳶のようなある種の職業の人たちが彫っていたりしたもんだし、ヤクザは痛みを我慢するとか、その社会を止めないという意思表示の意味で彫ったりするもんだね。浮世絵的な絵柄が素晴らしいので、海外で人気が出たんだと思うな。
尋問のシーンについては、人が真剣になってて張り詰めた状況ほどお笑いになってくるってことだね。自分も本当はお笑いの人間なんで、葬式とか神妙になったり緊張する場面には必ずお笑いが忍び込むと思ってる。お笑いは悪魔なんだよね。バッティング場のシーンもそうだけど、意図的にお笑いを狙ったわけじゃなくても、何かを真剣にやっていると必ずお笑いが出てしまうもんだ。
北野 武監督: 2本も撮っているから、ちょっと飽きてる。もっと人気のない映画を撮りたいんだけど、お金が出るかどうか……。ホントはアート系の映画、撮りたいんだよな。でも、ほとんど惨敗しているのでどうなるか分からない。
北野 武監督: 暴力組織は大体どこでも同じじゃないかな。日本の場合は、何々組って、会社みたいに看板をかけられるという珍しい国だというだけで。違うのはそれだけだと思う。その手の世界の映画はこういう構図だと思って創ったんだけどね。
北野 武監督: 基本的には脚本どおり。自分はスタンダップ・コメディもやるので、台詞にはうるさいし脚本はきっちりやる。でも、俳優はそれぞれ自分の間でやるので、編集で詰めたりした。あとは合間に自分の怒鳴り声を入れてみたり。西田(敏行)さんとかは怒ってるんじゃないかな(笑)。
北野 武監督: 内なる怒りってのは、あまりに客が入らなくて外に向かったんだな(笑)。変わったと言えば変わったか。
北野 武監督: 『DOLLS』はマニアックな人たちが褒めてくれて嬉しいんだけど、ああいうのを撮ってると、逆に映画を撮れなくなっていく気もするんだね。自分のエンターテインメントな部分を選りすぐると今回のような映画になるわけで。家庭や子供とかも全て排除すると、こういう馬鹿な男の話になった。かなり割り切って、お客が喜んでもらえるようにストーリーを創ったつもり。
北野 武監督: 震災で、こういうヤクザ映画を撮ってる場合じゃないという意見があって延ばしたけど、その後1年間の状況を見て腹立たしくなってきたんだよね。よく「皆さんの愛に支えられて」とか「絆」とか言っているけど本当はそうじゃなくて、国は何もしないし、だんだんイライラしてきて、逆にこういう映画を撮ってやろうという気持ちになった。
北野 武監督: この映画は続編だけど、簡単に言えば「大友は生きていた」ってだけなんで。1年空いたので、言葉とかシチュエーションは変えたけど、あまりにも自分の撮りたい映画を作っているとダメになるので、かなりエンターテインメントに固執した。お客の入らない映画を撮る準備はいつでもできてるよ。
北野 武監督: 日本ではR指定があって、自分の映画ではかなりきついので、R-15までに止めてほしいとは言われてたね。R-18になると宣伝もできないしお客も入らなくなるので。でも、人間が生活するうえで見せたくないものも見せざるをえないという状況はあると思ってる。
森 昌行プロデューサー: 監督の表現のしたいことを出来るだけ活かしたいとは思っています。暴力行為は確かに激しく描かれていますが、テロリストが無差別に一般市民を巻き込んで殺戮……というのだけは避けてもらいました。そうした要求も、監督は紳士的に対応してくださいました。スタッフが「NO」と言うのも、結局みんな映画をより良くしたいと思っているわけですから、監督もその点はよく理解してくださいます。
北野 武監督: 昔は「我々の世界をちゃんと描いていない」「よく描かれている」などと声をかけられたりしたこともあったけど、今は暴力団新法というのがあってヤクザとは一切接触できないし、向こうも何も言ってこないね。
北野 武監督: 3Dだったらセックス映画だと思う(会場爆笑)。あとはいらないと思うなぁ。
北野 武監督: そんなに現実と離れているとは思わない。“しのぎ”とか“兄弟の杯”とかヤクザ独特の言葉がたくさん出てくるけど、それがどう訳されたのか分かんないんで、説明的になっているのかなぁとも思うんだけど、外国語では伝わりにくいかもしれないね。それは別として、ヤクザの描き方は、自分としては現実と違っているとは思ってない。
北野 武監督: 1本目は暴力シーンが有名になって、印象がそっちだけになっちゃったのかなと思って、今回は東京弁と大阪弁での言葉の戦いを重点的にやりたかった。そういう意味で暴力描写は抑えた。
北野 武監督: 大友は出所後、静かに生きていこうとしていたわけだけど、昔の仲間や警察やらに対応していくと、義理と人情があって断れなくなっていく。そういう古いタイプのヤクザという設定にした。裏切られた男がどう動くかということも考えながら創っていった。
社会派やアーティスティックな作品が多い中で、こうしたエンターテインメントに徹したヤクザ映画、しかも続編がコンペにエントリーされるというのは、ヨーロッパでカリスマ的な人気を誇る北野 武ならではだ。「北野 武 映画の神様」というTシャツを来たイタリア版“たけし軍団”があちこちに出没していたのも微笑ましかった。
サラ・グランデでの正式上映では大きな拍手で温かく迎えられた北野監督。上映後は「ブラボー!」の声も上がり、監督は照れながらも嬉しそうに観客の拍手喝采に応えていた。
今作では、関東と関西のヤクザ、警察が三つ巴となって、駆け引きや騙し合いが展開され、その中に否応なく巻き込まれていく大友の悲哀が描かれている。一癖も二癖もある濃い役者陣の演技合戦も見どころたっぷりだ。
今回ちょっぴり残念だったのは、俳優が一人も来ていなかったこと。友和さまとか西田さんが見られるかも……と楽しみにしていたんだけど。
(取材・構成・写真:Maori Matsuura)
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