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2008-8-16 更新
ポン・ジュノ監督、香川照之、蒼井 優、藤谷文子、加瀬 亮
配給:ビターズ・エンド
8月16日よりシネマライズ、シネ・リーブル池袋他世界先行ロードショー(全国順次公開)
(C)2008『TOKYO!』
ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノの3人が東京をテーマに撮ったオムニバス映画『TOKYO!』が完成、これを記念し記者会見が行われた。会場に現れた4人の出演者と本作の一編<シェイキング東京>を撮ったポン・ジュノ監督は、今回の斬新なプロジェクトについて、口々に熱く語った。
ポン・ジュノ監督: 東京には何回も来たことがありますが、このように映画を撮り終えて再びやってくると、いつもと違った感じがして不思議な気持ちです。映画に盛り込んだ東京という都市に再び来ることができ、何かうれしい感じがします。他の海外の都市と比較すると、東京には頻繁に訪れています。これまで、東京について様々な印象を持っていました。例えば、小さい頃、近所に住む女子学生にとても興味を持っているのになかなか声をかけられずにいた、そんな気持ちでした。ところが、今回、東京という都市について映画を撮ることになると、その女子学生に初めて声をかけることができたような気持ちがしました。東京を映画に撮る機会を持てたことをとてもうれしく思い、ワクワクドキドキするような気持ちで撮影に臨みました。また、他の2人の監督も東京について映画を撮るということで、自分の作品とどんな違いがあるのか、観客になったような気分で期待しました。
香川照之: ようやくタイトル通りの場所でこのような会見を開くことができ、感無量です。僕が世界中で一番会いたかった、一緒に仕事をしたかった人とこうしてご一緒することが実現したんだな、と。今でも隣にポン・ジュノ監督がいること自体が不思議ですが、本当にポン・ジュノという男と仕事が出来たことは、自分にとって財産になったなと思います。
蒼井 優: 私にとっては香川照之さんとお仕事をさせていただき、その現場には大好きなポン・ジュノ監督がいらっしゃって、本当に夢のようでした。私が撮影に参加したのは1週間ぐらいでしたが、撮影をしていても目の前に香川照之さんがいて、ポン・ジュノ監督がいて、そしてそこに自分がいることが信じられなくて、あっという間に過ぎてしまいました。ポン・ジュノ監督とスクリプターの方以外は日本のスタッフさんでしたが、出来上がった映画は、皆の情熱や温かさ、やる気が可能な限り詰まっている作品に仕上がっていて、とても幸福な気持ちになりました。なるべく多くの方に楽しんでいただけたらなと思います。
藤谷文子: この話を最初に聞いた時、なんてクレイジーな企画を立てる人がいるのだろうと思いました。自分が全く関わることができなくても映画館に観に行くだろうなと思ったのですが、実際に出演させていただき、加瀬さん、妻夫木さん、伊藤 歩ちゃんといった共演したいなと思っていた人たちとミシェル・ゴンドリー監督の現場でご一緒できたことはすごくうれしかったです。と同時に、今日こうやってここに来てみると、蒼井さんや香川さんがいらっしゃって。ポン・ジュノ監督とはカンヌでご一緒させていただきましたが、その時には監督さんが3人勢揃いされて、この企画の不思議さ、自分の幸福さを何回も実感しました。
加瀬 亮: 今回は1人だけでもすごい監督が3人も集まっていますが、こんなにワクワクする企画を立ち上げていただき、そこに参加することだけでもうれしく思っています。本当に奇妙で面白い作品ができているので、ぜひ皆さんに観ていただきたいなと思います。今日はよろしくお願いします。
ポン・ジュノ監督: 今回の作品では引きこもりが主人公になっていますが、シナリオの段階から傷つきやすく繊細な演技を表現する引きこもりの役には香川さんしかいないと考えていました。西川美和監督の『ゆれる』を見て、完全に香川さんに惚れ込んでいたからです。脚本では香川さんが演じる役を根っこから揺り動かす存在が必要でしたが、それには蒼井 優さんしかいないだろうと考え、お二人と一緒にこの映画を撮りたいと思い、シナリオを書く時も念頭に置いていました。まさにそのお二人とご一緒することができて、現場でも楽しく仕事をさせていただきました。唯一予想していなかったことは、日本に来て孤独に作業ができなかったことです。映画では寂しさを扱っているので、日本で孤独な作業をするためにも全員日本のスタッフとキャストでの撮影に臨んだのですが、現場に入ると役者さんやスタッフの方ととても親しくなって、孤独を感じる暇が全くありませんでした。特に香川さんとは意気投合し、いろいろな話をして盛り上がったので、全く孤独を感じさせてもらえませんでした。
ポン・ジュノ監督: 最初に観た作品が『リリイ・シュシュの全て』で、最近の『フラガール』や『ハチミツとクローバー』までほぼ全ての作品を観ています。韓国では私だけではなく、多くの映画監督や映画ファンに人気のある女優さんです。最近、声優さんとして出演されていた『鉄コン筋クリート』も、とても印象的でした。今回、本当に一緒に映画を撮れることになったことは、超現実的で何とも不思議な感じがしましたが、韓国の多くの監督からは嫉妬の眼差しで見られました。実はアフレコのため蒼井さんがソウルに一度来られたのですが、その機会を利用して多くの監督たちが彼女と会うため録音スタジオに来ようとしたのです。でも、このままでは大変なことになるだろうと思い、他の人たちには嘘の日程を教えたので、誰も蒼井さんに会うことができませんでした。蒼井さんが知らない場所で、そんなことが起きていたのです。
香川照之: 日本の現場で日本の監督と話す時には、“こんなことは話さないほうが良いかな?”とか、“これは言葉を選んだほうが良いかな?”とか、日本人同士では何を話すのかではなく何を話さないほうが良いのかを優先して考えたりしますが、ポン・ジュノ監督とは今しかないので、監督がこれまで撮られた3本の長編の裏話、“あのカットはどのような撮り方をしたのか?”とか、“ここのソン・ガンホさんの芝居はどのトラックを使っているのか?”とか、そんなことを聞くのが先決で芝居どころではありませんでした。本当にポン監督が好きなので、撮影の状況をどうやって作られていったのかに興味があり、そういうことを聞いている内に1日が終わっていくという幸福な現場でした。その一方で、撮影では本当にミリ単位のことを要求されたり、そのミリ単位のことが20メートルのクレーンの先端に乗っているような感覚というか、大きなことと小さなことが繰り返し波のようにやってきて、本当にジェットコースターに乗っているような撮影で、楽しいという2文字しかないような現場でした。いろいろなエピソードがあってここでは言い切れないですが、……もう本当に個別に取材して下さい(笑)! いろいろあります。
蒼井 優: 映画の撮影は結構大変で、今回ももちろん大変といえば大変でしたが、今まで映画を作ってきた中で見たこともないような、きっとスタッフさんも香川さんと一緒でポン監督とは今しかないというのと、ポン監督とお仕事が出来るということで自分の出来ること全てを出し切りたい、自分の出来ることの更に先を常に求めてポン監督と撮っている感じがありました。照明2時間待ちなどもありましたが、監督はせかすこともなく、じっと待って下さったりして、映画を作る情熱を久し振りに熱く感じた現場だった気がします。あれっ? 質問は何でしたっけ(笑)? ポン監督とご一緒した感想は、夢みたいでした。後は個別取材で(笑)。
藤谷文子: 何か(ポン・ジュノ組とは)真逆なのかな(笑)? ずっとカメラが回っていたという印象が。役者が現場にいると気づいたら回っていたりするので、逆に用意ができるまで大変だろうから出来るだけ現場に行かないようにしたらいいとか、とにかく現場に行ったらひたすらカメラが回っていたという感じがすごくします。1カットに時間がかかるので何度でも同じ芝居を繰り返すとか、もしくはカットと言わないから続けるとか、そういう撮り方を理解していく内に、余分な緊張感が無くなっていく感じがして、面白いなと思いました。ずっと本番なので、緊張感は続いているのですが、いらない緊張感をそぎ落とされていくという、不思議なそして気持ちが良い状態で撮ることができたと思っています。あとは個別取材で(笑)。
加瀬 亮: ミシェル・ゴンドリー組は、とにかく大変です。今日も監督がこの場にいるはずだったのですが、いないというような(笑)。基本的に一切予定していることがなく、朝からずっとカメラが回りっぱなしで、笑っている最中にその日思いついた指示がどんどん飛んできて、それも通訳さんが訳してくれるのですが、その通訳さんが訳している最中に次の指示が入ってきて、最後には何をやっているのか判らない状況でした。そんなにわがままなのにもかかわらず憎めない可愛らしい監督で、僕のやった役はある意味では監督の投影だと思うので、その辺を出せるかなと思ってやりました。
香川照之: 台本は、台本と言うよりもト書きとナレーションばかりで。ポン監督はかつて漫画家になろうと思ったぐらい絵心がある方なので、これまでの長編でもほとんど全カットを絵コンテにされて、その絵コンテを製本して台本にし、現場でも皆それを持っていました。台本を読んだ時というよりも、先ほどポン監督も言われましたが、このお話を頂いた時に、「引きこもりを演じさせたら日本一だ」と言われて(笑)。でも、俺の中では“加瀬がいるだろう!”と一瞬思ったのですが、どうも同じ映画に出るらしいということを聞きまして、“じゃあ、俺が引きこもろう”というのが最初です。本当に加瀬がいるだろう、加瀬には負けるかもしれないと思ったのですが、幸運なことにポン監督の狙い通りにやらせていただきました。それが、最初の“引きこもり”という単語に対する感覚でしたね。
テーマについては、<シェイキング東京>は最後に蒼井 優さんの顔で終わるのですが、東京には地震があるということも含めて、あの映画はお互いの心の揺れである、本当は地面が揺れていなかったのではないかという解釈もできるわけです。そういう意味ではラストカットが揺れているのがすごく好きで、あの瞬間の男女の揺れが何よりも強いという印象の映画だと受け止めています。
撮っている時にはそんなことは忘れて、ポン監督は端っこだったり変わっていたり特殊だったりすることが好きな、変態という言葉は使いませんが、そういうことがすごく好きで。先ほどの蒼井さんの話で思い出しました。照明2時間待ちというのがあったのですが、照明の市川徳充さんがとても端っこが好きで、聞いてみたら、僕もポン監督も市川さんもAB型だったという、AB型映画がテーマだという……。全然違う方向に行きましたが、そういうこともありました。
香川照之: 5年ぐらい前から自分の年を忘れてしまっているので、年の差ということがよく判らないですね。蒼井さんの出演作は昔から拝見していますが、初めて共演させていただきました。僕なりにこんな感じの女優さんなんだろうなと何となく予想していましたが、現場で初めて目と目があった時、何というのでしょうかね、もうそのまま魅入られるようにこのストーリーの中に入っていったというか。すごく空気が柔らかい感じがどかっと出ているんですよね。たぶんここらへん(蒼井 優の隣)に座ると判ると思いますが、どかっと柔らかいんですよね。現場ではその柔らかさと一緒にいると何も考えなくても良くて、本当に僕もどちらかというと引きこもり的な体質を持っているので、自分自身の中で人の目に対する恐怖心がどこかにあるのですが、蒼井さんの目はすごく自然に見ることができる。だから、“これは、ポン監督がくれた贈り物なんだろうな”と思い、ものすごく楽しく、何も考えないでやらせていただきました。答えになっていますかね?
蒼井 優: とても特殊な役だったので、恋とかそういうことは意識しませんでした。ただ、台本を読んだ時にとても理解できる状態の女性ではない、観ている方にはあまり理解されない女性だと思ったので、共感をされないようなキャラクターにできればなと思いました。普通に生活していたら恋に落ちられてしまった、この恋は特殊だと思います、10年ぶりに会った人に恋をするという、引きこもりの人が恋をするということは、とても特殊なことだと思うので、恋愛ものをやるという意識は全然無かったです。
香川さんとお仕事をさせていただき、すごいパワーをもらいながら集中させていただけましたし、お芝居って面白いなって、冷静にならないといけないと思うぐらいすごく興奮しながらやっていたのを覚えています。本当に幸福な1週間で、香川さんは3週間撮られていましたが、こんな幸福な時間を私より更に長く体験できたのかと思うと、とても羨ましかったぐらい楽しい現場でした。
ポン・ジュノ監督: “引きこもり”という言葉や存在は、昔から知っていました。韓国で日本のニュースとして聞いたのだと思いますが、この映画では社会現象としての引きこもりにアプローチしたかったわけではありません。ただ、東京をイメージした時、その過程で出てきたものです。東京という都市について自分の中でのイメージを振り返ると、東京という都市よりもそこに暮らす人々に独特のイメージを感じました。世界中のどの都市も寂しさや孤独を抱えていますし、様々な映画で都市の孤独を扱ってきたと思います。でも、東京には独特の寂しさと空気感があると感じていました。例えば電車の中の光景や、独りで食堂に入りラーメンを食べている人の後ろ姿です。東京の人々は間違いなく寂しそうに見えるのに、寂しくないような振りをしている感じです。お互いに干渉せず身構えているような印象を受けました。もちろん、個人的な思いこみかもしれませんが。そういった寂しい印象を極端に表現しようとした時に、この映画の主人公になったのです。同時に、私が本来持っている感情にも引きこもり的な要素があり、家の外に出たくない、できれば家の中にずっといたいという感情を持っていて、昔、実際に長い間ずっと家の中にいたこともあります。
加瀬 亮: 監督からは特に事前の話はなく、本番直前や本番中に思いついた指示がどんどん入ってくる感じでした。本番直前に、いきなり「ジェームズ・ブラウンの歌を歌ってくれ」と言われ、「歌っているとお金が発生するから(誰の曲なのか判らないように)下手に歌ってくれ」と言われ、下手に歌っていると「ジェームズ・ブラウンだと判らないから、もう少し上手く歌ってくれ」と言われ。突然本番中に指示が入るので、自分でコントロールすることはできませんでした。
脚本は漫画に基づいているのですが、すごく不思議で判りやすい作品で、とても詩的な話だなと思い、自分自身がラスト・シーンを観たくなるような本でした。
それから<シェイキング東京>を見させていただきましたが、香川さんの引きこもりぶりは日本一、いや世界一でした(笑)。
藤谷文子: そうですね、(指示は)皆その場でしたね(笑)。事前にいろいろな話もありましたが、結局やってみたい、実行してみたいというタイプだったので、カメラが回っている途中でどんどん指示が出る感じでした。脚本については不思議な話ですが、主人公の女性の感覚は、自分の中にある感覚とすごく近く感じたり、すごく共通して持っていたりするなと思っていたので、割と楽しんでやらせていただいたと思います。
藤谷文子: 割と加瀬さんが演じた役が監督なんだろうなと思ってやっていましたが、出来上がったものを見たり、自分でもやっている内に私のキャラクターもミシェル自身なのかなと思い始めたところもあって、それを現場では加瀬さんとずっと喋っていて。たぶん、私はミシェルの幼少期で、加瀬さんは今のミシェルの投影なのではないかという話になったんだよね?
加瀬 亮: はい。今藤谷さんが言ったことは結構そうかなと思って、僕も映画を観ていましたが。僕がまず思ったのは、衣装あわせの時にいろいろな衣装を着て監督の前に立ったのですが、監督がOKを出す衣装がことごとく監督とそっくりで、“あぁ、なるほどなぁ”と思いつつ。実際に、監督の様子を現場や食事の時に見ていても、本当に役と近いなと感じたので。やっている途中でどんどん思いついたことを監督が指示しているというのも、たぶんある意味監督の感覚に近づけるためだったと、今思い返すと思います。
蒼井 優: こういう人だった? 期待の延長にいられた感じですね。本当に1週間で短かったので、何だろう? でも、現場に奥さんと息子さんがいらっしゃって、監督のパパである一面を見せていただけて、すごく得した気持ちになったのを覚えています(笑)。後、すごいなと思ったのは、日本語の台詞を全部流暢に話されていたことでしょうか。後、香川さんが演じた引きこもりの出身地の設定が大阪なのですが、急に関西弁を使いたいとか、そういう頭の柔軟性には毎回驚かされていましたね。もっといっぱいあるのですが、香川さんが全部話してくれるので(笑)。
香川照之: そうだなぁ。本当にいっぱいあるんですね。ただ、今、加瀬さんと藤谷さんがミシェルのぶっ飛んだ話を教えてくれたので、ウチの監督もそうだというところをひとつ言うとですね、そのカットは主人公が11年ぶりに外に出るというカットで、ロケは蔦だらけの家の前で行われたのですが、晴れていないと、夏の暑い日でないといけないんですね。世田谷区の赤堤でしたが、晴れるのを4日待ったんですね。その時、現場に山下敦弘監督がいらっしゃって、待っている時にポン監督が山下監督に「日本では、こういう時には曇りでも撮らないといけないのか?」と聞いたら、山下監督は「僕はそういう面倒くさくなりそうなところは脚本に書かないようにしています。でも、待ったほうが良いと思います」と言われました。
で、4日目にやっと晴れたのですが、それはステディカムを使った長回しで、ポン監督は「そのカットを一番楽しみにしてきた」と撮る前に言いました。「このカットを撮るために私は日本に来た」と、「ドキュメンタリー・カットだ」と、「好きにやってくれ」と。僕自身もすごくプレッシャーを感じて、太陽が出たり出なかったりしたのでこれは決めないとならない、綿密にリハーサルをして、ステディカムのヌキも決めて、さぁ本番に行こうといった時に、ポン監督がいつもと違う表情で近づいてきて、打ち合わせと全く違う動きを僕の耳元でだけ言ったのです。「あそこの中に自転車が隠してあるから」。えっ、自転車? 聞いてないよそんなの! しかも蔦だらけで10年間放っておいた自転車で、「それには鍵がかかっているが、その鍵がどこにあるのかは自分で探してくれ。まず、家から出てきた瞬間に、電車で行くかバスで行くのか、その自転車を使おうとするのかは自由だが、必ずどこかでその自転車を引っ張り出してくれ。で、このことは誰にも言っていない」と聞いた時に、犯罪者の意識というか、これから起こることに皆不思議がるだろうな、そしてそれを役者のアドリブだと思うのだろうなと思いました。これはポン監督の二重ドキュメンタリーですよね。僕自身のドキュメンタリーであり、スタッフにとってもドキュメンタリーになる。
いざ撮影が始まって、僕が自転車のほうに向かっていった瞬間のカメラマン以下現場の凍りついた空気、「お前どこに行くんだよ、打ち合わせと全然違う方向じゃないか!」。で、自転車を引きずり出したりして、ひとつのカットが終わると、ものすごくはぁはぁ言っているんですよね。全部で7回か8回やったと思いますが、毎回違うことを言われ、それが全て僕のアイデアのようにしてもらったのがすごくうれしかったし、本当に思い出に残った1日でした。
ただ後に聞けば、赤堤は映画監督の西川美和がずっと住んでいた場所で、あのような女性が住んでいるから晴れなかったのではないか、怨霊がこもっているのではないかと言うと、「そうかもしれないな」と監督も(笑)、まぁ、そういう落ちもありましたが、それが一番覚えているエピソードです。
ポン・ジュノ監督: 映画を撮る時には、本当に役者さんたちが好きですし、信頼しています。撮影中ある段階になると、役者さんたちのほうが私よりもっとその映画について理解するタイミングが来るんですね。もちろん、最初にシナリオを役者さんたちに手渡す時には、役者より監督のほうが多くのことを知っていると思いますが、実際に自分の体で表現している役者さんは、監督よりもっと多くのことを映画について理解するようになると思います。その逆転するタイミングがあるのですが、その時期になると役者さんに「こういうのをやってみてくれ」とか、「こういうのはどうでしょうか」とお願いするのですが、香川さんにも同じようにお願いをしました。
蒼井さんにも、シナリオにはなかったのですが、現場で急にお願いしたことがあります。指が切断される不思議なマジックがありますが、あれを突然メイク・ルームに行ってお願いしました。あわてた様子を見せながらも一生懸命練習に取りかかっている蒼井さんを見て、ありがたいと思いました。実際に映画を観ると、本当に指が切れてしまっているように見えて、やはりすごいな、本当にとんでもないエネルギーを持った女優さんだなということを確認することができました。
今回、この二人との仕事を通じて、やはり監督より役者さんのほうがキャラクターのことはよく判っているんだなということを再確認することができました。
加瀬 亮: これだけ世界各国の人を含めて人が出入りしている都市はないと思うので、その人が夢見ていることが起きる風通しの良さというか、そこを東京にいると拾えるので、すごく刺激的な街だと思っています。
藤谷文子: 私にとっての東京は心地よい場所ではある。気分によって東京23区いろいろな街があると思うのですが、いろいろな表情を持っている場所に行ってその気分に合わせることができる。すごく不思議な本当にいろいろな顔を見せてくれる、ある種隠れ蓑的な、ほっといて欲しい時にはほっといてくれる、ちょっと引きこもり的な発想ですが、そういう部分も持ちつつ、楽しもうと思えば楽しめる場所で、本当に楽しい好きな街です。
蒼井 優: 私自身は福岡出身なので休むところは福岡ですが、東京というのはすごく素敵なものや好きなものがたくさんあって、好きな人や憧れる人がたくさんいて、そういう人たちがいる中で、深呼吸させてもらっている場所だと思っています。なんかそういう全てから、いろいろなものを思いっきり吸いとり、やはり仕事をする場所なのでそこで得たものを吐く、そういうことの繰り返しをさせてもらっている場所だと思います。
香川照之: 僕は東京で生まれ育ってきたので、東京は帰ってくる家がある、そのひとことです。家の感じがします。
ポン・ジュノ監督: 昨年、映画のプリプロ、そして撮影の期間中、世田谷の用賀駅の近くに住んでいました。渋谷にスタッフ・ルームがあって、用賀の家との間を田園都市線に乗って2ヵ月間行き来をしたのですが、その時のことが強く印象に残っています。500円を払って警察署に行って自転車の登録をして自転車にも乗りましたし、2ヵ月間東京で生活が出来たことがとても不思議な記憶として残っています。昨日の夜、住んでいた用賀の家の近くにある行きつけの店に行きました。そうしたら、厨房のスタッフの方が私のことを覚えていてくれて、懐かしい再会を果たし、美味しい夕食をとりました。私にとっての東京は、海外の都市というよりも生活をしたことがある都市で、とても親しみを感じます。
3編の監督・出演者が揃ったわけではないが、饒舌な香川照之を筆頭に、会見に参加した全員の言葉から、この作品の独特な魅力が伝わってくるひとときだった。国際的にも注目されている本作、日本の観客にからどのように受け止められるのか、まずは気になるところだ。
(文・写真:Kei Hirai)