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2007-12-02 更新
欠点だらけのエンジェルに、私は愛おしさを感じないではいられなかった
ロモーラ・ガライ
1982年7月1日、英・ロンドン生まれ。幼少期をシンガポールと香港で過ごし、8歳でイギリスに帰国。ロンドンのハイスクールで演劇を学んでいたとき、キャスティング・ディレクターの目に留まり、TVムービー「ザ・ブロンド爆弾 最後のばら」(2000)でジュディ・デンチ扮するヒロインの若かりし時代を演じ、デビューを飾った。
その後、母と同じジャーナリストの道をめざして大学へ進学したが、オファーが殺到したため女優業に専念。ナショナル・ボード・オブ・レビューのアンサンブル賞を受賞した『ディケンズのニコラス・ニックルビー』(02)で注目を集め、『I Capture the Castle』(03)で英インディペンデント・スピリット賞の新人賞にノミネート。『ダーティ・ダンシング』の姉妹編として製作された『ダンシング・ハバナ』(04)では、ディエゴ・ルナと恋に落ちるヒロインに抜擢され、『ダンシング・インサイド/明日を生きる』(04)では、ロンドン映画批評家協会賞の助演女優賞を受賞した。
近年では、ケネス・ブラナー監督の『As You Like It』(06)でシーリアを演じたほか、ウディ・アレン監督の『タロットカード殺人事件』(06)、マイケル・アプテッド監督の『Amazing Grace』(06)、ジョー・ライト監督の『Atonement』(07)など、錚々たる映画作家の話題作に次々と出演。舞台でも活躍し、「Calico」のウェスト・エンド公演でイヴニング・スタンダード賞の新人賞にノミネートされた。
他の出演作に、ミーラ・ナイール監督の『悪女』(04)、ダニエル・クレイグと共に声の出演をしたアニメ『ルネッサンス』(06)などがある。
配給:ショウゲート
12/8(土)、日比谷シャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!!
(C)2006 - Fidelite Films - Headforce 2 - Scope Pictures - FOZ - Virtual films - Wild Bunch - France 2 Cinema
衣装提供
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女性を描くことに定評のあるフランソワ・オゾン監督が、1900年代初頭のイギリスを舞台に、英国の女流作家エリザベス・テイラーの埋もれた名作小説の映画化に挑んだ『エンジェル』。本作で、自らが紡ぎ出す夢の世界に生き、残酷な現実に嘲弄されるロマンス小説作家の波瀾に満ちた人生を、激しくもチャーミングに演じきったオゾンの新たなミューズ、ロモーラ・ガライが来日、エンジェルの魅力をたっぷり語ってくれた。
元々の小説も素晴らしいけど、相当風刺が効いているの。エンジェルというキャラクターに対して冷たい見方をしていて、彼女が転落していくのを作家が楽しんで書いているのがよく分かるわ。読んでいてすごく面白くはあるけど、彼女に共感を覚えにくい小説になっているの。そういう風刺小説をそのまま映画にするのは難しいわね。キャラクターに好感を抱けないと観客はついてこられないわ。その点、フランソワは素晴らしい脚色をしたと思う。エンジェルのエッジの効いたウィットとユーモアを活かしつつ、彼女のキャラクターに人間性を加味しているから。
それと、エリザベス・テイラーが生み出した登場人物たちに、アートに関して考察できる要素を加えたというのは、完全にフランソワらしいわね。例えば、アーティストも成功したり失敗したりするけど、アーティストが成功するのは常に良いことなのかどうか、名声についてや作品に対する影響なども含めた考察を、本作ではいわばキャラクターが体現していると思うの。これはとてもフランソワらしい、素晴らしいやり方だわ。
今回の作品に参加するにあたって、監督に「リサーチとして何か見ておいたほうがいい作品はありますか?」と伺ったときに、2本言われたの。1本はダグラス・サークの『悲しみは空の彼方に』。監督が大好きな映画で、今回の作品にも強いインスピレーションを与えられたそうよ。もう1本は『風と共に去りぬ』で、ヴィヴィアン・リーのパフォーマンスを参考にしてほしいと薦められたの。もちろん、『風と共に去りぬ』は大好きなので、これまで何度も見ていたけど、今回は特に、必ずしも万人に愛されるわけでも嫌われるわけでもないスカーレット・オハラという微妙なキャラクターを、ヴィヴィアン・リーがいかに作り上げているかという部分に注意して見てほしいと言われたわ。
私自身、50年代の作品ではヒッチコックが大好き。ただ、彼はメロドラマという一つのコンセプトをスリラーという形で探究した映画作家で、そういった意味でダグラス・サークの恋愛ものとは異なったジャンルではあるわね。あと、オーソン・ウェルズも大好きよ。
『エンジェル』の準備のために、原作者エリザベス・テイラーの作品はおそらく全部読んだと思う。これはすごく役作りの助けになったわ。何といっても、このキャラクターを生み出した人ですもの。“エンジェルはこんなとき、どんなことを考えていたんだろう”などと想像するのに役立ったわ。それから、エンジェルのモデルにもなったヴィクトリア朝時代の売れっ子作家マリー・コレリの作品も読んだけど、エリザベス・テイラーは小説家として優れていたので読んでいて楽しかったのに対し、マリー・コレリの小説はキツかったわ(笑)。センチメンタルでロマンティックで、かなり宗教的でもあったので。作品として内在する力はあると思うけど、読みやすいとは言えなかったわね。
他には、シャーロット・ブロンテやジェーン・オースティンなどを読んだけど、そういった女性作家たちから得るものは大きかった。それぞれの時代の中で、書いている対象に対する批評的な視線があって、そういった部分はすごく参考になったの。特に「ジェーン・エア」は「エンジェル」で探究している幾つかのアイデアとすごくかぶるところがあると思った。二人とも自立してやりたいことをやっている女性だけど、ジェーン・エアのほうは時折そのことに対して申し訳なく感じているようなところがある。そんな部分を「エンジェル」と比べながら読むと、本当に面白かったわ。
あと、好きな女性作家はたくさんいるので、話し始めたら日が暮れちゃうわ(笑)。ただ、現在活躍している作家の中では、マーガレット・アトウッドの大ファンなの。それから、アン・カーソンの「Autobiography of Red」という作品がすごく面白かった。
楽しかったのは、何といっても少女時代ね。だって、彼女、最悪なんだもの(笑)。すごく早熟で傲慢で、思っていることをすぐ口にしちゃう女の子だわ。だからこそ、演じていて楽しかったの。演じるのが難しかったのは、年をとってからの彼女ね。今回は老けメイクはしなかったの。監督は「メイクをしなくてもうまくいくから信じてくれ」と言ってはくださったんだけど、私自身はずっと確信が持てなくて……。演技をするというのはキャラクターの変化を見せるものなので、見かけの変化がないままに演じるというのは、正直言って、自分の中ではかなり混乱していたわ。私はただ、フランソワに言われたとおりにやっただけ。それなりに見えていたらうれしいけど……(笑)。
よかった(笑)! それを願っていたのよ。
(笑)それはないわね。こういうフィクションのキャラクターが自分の中でリアルに感じられるというのはあまりないことだし、特にエンジェルなどはいかにも創作された人物以外の何者でもないわよね。だから、夢に現れたりするようなことはなかったけど、これまで出演した作品で原作がある場合は、原作者の存在感をすごく感じながら演じているわ。今回のエリザベス・テイラーにしろ、ジョージ・エリオット、ディケンズなど、原作ものに出演したときにはいつもそうなの。特に、作家が亡くなっている場合は、彼らが描いたキャラクターを出来る限り正確に表現したいという、義務のような思いに突き動かされるわ。
あの時代はぜひ、体験してみたいわ。エンジェルは着るものを通して自分自身を表現していたと思う。まさしく、そうすることが可能だった時代なのよ。特に1890年代から1910~20年あたりというのは、おっしゃるように、ファッションの世界で大きな変化が起こったわね。第一次世界大戦があったことで女性のスカートが短くなり、女性解放運動の影響で髪を短く切ることもできるようになった、いわばファッション革命の時代だわ。でも、そういった変化は全くエンジェルに影響を与えていないの。彼女はそこから50年ほど前の、ちょうどヴィクトリア朝中期に流行った大ぶりのスカートを好んでいた。ちょっと古い時代のファッションが彼女の好みだったのよ。だから私としては、あの時代のファッションは体験したいけど、エンジェルのファッションは嫌だわ(笑)。
好きな衣装はたくさんあるけど、真っ赤なドレスかしら。今まで身につけた服の中で一番ゴージャスだったかも(笑)。本当はピンクのガウンが好きなんだけど、日本で公開されるバージョンではカットされたシーンに出ているの……(笑)。
ええ、自分じゃない存在を演じるのはすごく楽しいわ。赤毛、黒髪、ブロンドと、これまでにもいろいろな髪のキャラクターを演じてきたし、衣装や髪型を変えられるというのは、この仕事の中でも好きな要素なの。むしろ、このままの自分をカメラで撮られるほうが居心地が悪いかな……(笑)。
間違いなく!(笑)、それはすごく感じたわ。私はこの映画が本当に好きで、仕事をしているときもすごく楽しかったんだけど、何故かと言うと、フランソワ・オゾンがこのエンジェルというキャラクターを通して自分自身と対話し続けていたからなの。エンジェルはどういうことを感じていて、どういう風に演技で表現するのかという話を監督とするたびに、彼のアーティストとしての自分自身の想いを語っていると感じたわ。私はフランソワを深く敬愛しているし、アーティストとして魅了されているので、そうして自分自身と対話している監督を見るのがすごく興味深かったの。ただ、エンジェルというキャラクターに自分を投影するばかりでなく、フランソワは女性に対してとても人間的なアプローチをし、女性を個として尊重しているので、キャラクターとして多面的な豊かさをもった描き方ができる監督だわ。それは彼が女性という存在を愛していて、良く描きたいと思っているからだと感じたの。
この作品には「良いアーティストとは?」という問いかけがテーマとしてあるので、演じながらもそのことは常に念頭にあったわ。先ほどお話ししたように、監督ご自身がアーティストとしての自分と対話している現場にいたので、私もそれは考えないではいられなかった。エンジェルは本当に素晴らしい役柄だった。欠点だらけの彼女に、私は愛おしさを感じないではいられなかったわ。撮影の最終日は悲しくなったくらい。いつもはきまって“早く終わらないかな”と思うので、私にとっては珍しいことだったわ(笑)。私は彼女が自分に対して完全な自信を持っているところが好きなの。役者によくありがちなんだけど、「自分はダメな人間だ。愛してくれる人なんて誰もいない」と、つまらない自己憐憫に陥るような不安定さが彼女には全くない。自分に対する確信があるし勇気もある。そういった部分が、私にはとても魅力だったの。
皆さん、こんにちは。『エンジェル』に主演したロモーラ・ガライです。映画を観に行ってくださったらうれしいです。とても楽しく撮影できた映画です。
本作では、スカーレット・オハラを彷彿とさせる、絶対に友達にはなりたくないけど、遠巻きには愛さずにいられないキャラクターを見事なまでに演じきったロモーラ。その素顔は、キュートだけれども普通の英国の女の子といった感じなのに、スクリーンの中のあの圧倒的な存在感はやっぱり女優。役者はすごい、とあらためて実感させられた。
(文・写真:Maori Matsuura)