2022-09-19 更新
黒井文太郎(軍事評論家)、藤原亮司(ジャーナリスト、ジャパンプレス所属)
MC:南 圭介
ドキュメンタリー『ウクライナから平和を叫ぶ~ Peace to You All ~』のトークイベントが9月18日(日)、アップリンク吉祥寺で実施され、軍事評論家の黒井文太郎氏と、2016年に本作監督と同じくドネツク側取材したジャーナリストの藤原亮司氏(ジャパンプレス所属)が登壇。日本人が知るべきウクライナ・ロシアの真実について語った。
本作の感想を聞かれた黒井は、「行ける場所、行けない場所とあったと思うんですけれど、監督の方針だと思うんですけれど、政治的メッセージというよりは、プロパガンダを叫ぶ人の映像は使わないで、一般の人たちの話をフラットにまとめたと思います」と話した。藤原は「慎重に作られていると思いました。ロシア語を話すウクライナの住民は、被害についての話はするけれど、誰が行なったかは言わない。私もロシア側の許可を得て、ロシア人の通訳とロシア人のドライバーを連れてドネツクに入り、街の住民の声を拾って行こうとしたんですけれど、『ロシア系住民が迫害されている』という表現には行き着けなく、取材にならなかったんです」と、自身の経験を交え、本作の映像の解説をした。
藤原は「ウクライナは取材のしにくい現場でして、他の紛争地帯では、軍だとか部隊に当たりをつければ行けるんですけれど、今回のウクライナは情報管理が徹底していた」と話し、黒井は「ウクライナ側はウクライナ側がロシア側を撃破した被害の映像をどんどん出してくる。それに対してウクライナ側の被害の状況は徹底して出さない。情報の出し方に関してウクライナ側は気を遣ってやっている」と、日本でニュースを見ている私たちへの注意点を挙げた。藤原は「病院の取材もだんだんできなくなった。負傷兵や一般市民など、自分たちが被害を受けているという情報が出ると士気が下がるからではないか」と指摘した。
いつ終結するかを聞かれた黒井は、「2014年の頃とちがって、今はロシア軍の正規軍が来ているので、ウクライナ軍が引き上げるか、ロシア軍を完全にやっつけてしまえば終わる。攻め手のプーチン大統領はウクライナ側を降伏させると宣言しているので、途中で終わることはないのではないかと見ている」と話すと、藤原も「最初の頃にブチャでの虐殺があって、その後も東部や南部で激しい戦闘があるが、ウクライナ軍が領土を取り戻したイジュームの町で400何十人の虐殺が見つかった。どこかのラインで停戦してしまったら、そういう戦争犯罪が隠蔽されかねない。停戦している間にロシア軍の占領が既成事実化されてしまうので、停戦というのは現実的ではないと思っている」と持論を展開した。
最後のメッセージとして藤原は「この映画は非常に慎重に作られていて、見る側の慎重な見方も問われると思う。なんとなく見ると、『親ロシア派が支配したドンバスで被害を受けた人がこんなにいるんだな』と見てしまうんですが、監督はどっちがやったとはあえて言っていない。この意味を考えて、もう一度頭の中で反芻していただければと思います。また、ウクライナ侵攻というのは、今年の2月24日に始まったわけではないんです。2014年のクリミア・ドンバスの前に、シリアにロシアが加担していったことを西側世界が何も止めようとしなかった。2008年のジョージア侵攻、第二次チェチェン紛争と全部繋がっていて、ロシアが成功体験を得て、今回の戦争に繋がっていった。ウクライナはヨーロッパで起きている話でもあるので大きく取り上げられているんですが、大きく取り上げられていないことにも目を向けていかなくてはいけないと自分自身も思っています」と戒めた。
黒井は「(今回の戦争は)プーチン・ロシアによる犯罪行為で、ウクライナ側はレジスタンスをやっているという構図は明確なんです。侵略軍の中では、戦争犯罪をしている人も多い。暴力的な行為で主導権を握る戦争犯罪は断罪すべき。この映画を観て気づかされたところは、マイダン革命から始まって、ドネツク・ドンバスの住民は半分くらいは逃げて、半分くらいは残った。ドンバスに残った人の中でも理不尽な目に遭っている人もたくさんいて、ドンバスに残っている人たちがロシアの中で一番過酷なところに捨て駒として使われている。敵側でも悲しみがあるなと思う」と裏まで知ることの大切さを訴えた。
(オフィシャル素材提供)