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『オフィサー・アンド・スパイ』トークイベント

2022-05-20 更新

黒沢 清監督
MC:松崎健夫(映画評論家)

オフィサー・アンド・スパイofficer-spy ©Guy Ferrandis-Tous droits réservés
ロングライド
6月3日(金) TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開

 第76回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞した巨匠ロマン・ポランスキー監督最新作、19世紀のフランスで起きた歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化した『オフィサー・アンド・スパイ』が、6月3日(金)より全国公開となる。この度、劇場公開に先駆けて行われる一般試写会にて、ポランスキー監督の『フランティック』を好きな作品の一つに挙げ、本作に絶賛コメントを寄せていた黒沢 清(映画監督)がゲストのトークイベントが実施された。


 上映後の熱気に包まれた会場。観客と共に作品を鑑賞した黒沢 清監督は、大きな拍手に迎えられ登壇。トークは、監督が『スパイの妻』でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した前年に、本作が同賞を受賞していたことから始まり、まずポランスキー監督について聞かれると、「長いキャリアの中で、大作からお金のかかっていない作品、サスペンスから歴史物まで、自由自在に撮っている。そういう監督ってなかなかいない」と語る。ポランスキー監督作品との出合いについては、「『ローズマリーの赤ちゃん』。当時大ヒットしていたから観た。怪奇映画は好きだから、その流れで『吸血鬼』も観にいった。監督作品では『フランティック』が一番好き。(自身が教壇に立つ)東京芸大の授業でも必ず取り上げ、何度も分析した」と振り返る。

 そこから話題は本作の感想について。黒沢監督は「ある真実を貫くために、権力システムの恐ろしさとある意味執拗な“面倒くささ”が描かれている。後半、すごいなと思うのがこれだけ真実を暴くのに苦労したピカール自身がその権力システムの中に取り込まれているところ。彼は、ある場面でついに真犯人と対峙するが、その時点で、彼の目的がそこにはないのでもう無関心。さらに、その後、ある人物が目の前で襲撃され、犯人を追いかけて捕まえようとするけども、森の中に逃げたらそれ以上は追おうとしない。任務=目的に忠実。そして、最後に、そんな自身がすでに権力のシステムに絡め取られている。実は、物語の中で真実というのはとても単純なことなのに、それを証明するために、非常に面倒なことを繰り返して、なんとかたどり着いても、実は権力に埋もれて何も解決していない」と、独自の目線で作品に隠された深いテーマを語る。


officer-spy

 松崎は「真実に興味があるのであれば、ドレフュスの視点になる。でも、ピカールの視点にしているのが作品として面白いところですよね」と話すと、黒沢監督は「ドレフュスの視点であれば、もう少し何か感情的なこととか、真実を強く訴える部分が全面に出てくると思う。でも、物語をピカールの視点で描く時点でそこに関心はない。ピカールはこの事件に義務のようにとりつかれて、押し通していく。ドレフュスに対する同情や感情的な部分は描写されないし、関心もない。それがこの映画の面白いところ。ドレフュス事件を客観的に、その特異性と、巻き込まれる人々を描いている。すごくかわいそうな犠牲者の話としては描きたくないんだなと思った」と鋭い視点でピカールという男の読み解きポランスキーの意図を分析する。

 そして話題はポランスキー監督が描く主人公について。黒沢監督は「主人公の行動が描き方によっては感情移入できるけど、監督が主人公を描く視点は冷めているところがある。それが彼の物語に対する姿勢なんでしょうね」と分析する。さらにそんな世界観を生み出すポランスキーの画づくりについて、松崎は「常に張り詰めた感じがする画面作りで、緊張するところがある」と語ると、黒沢監督は「この映画はピカールがいちいち歩いてドアをガチャッ開ける。そのさきに嫌な手続き=システムが一つある。いちいち歩いて行ってドア開ける描写の積み重ね。さらに中盤に命を狙われているかのような不穏で緊迫感溢れるシーンがあって、またドアを開ける描写が来るが、実は……という感じで、何気ないシーンを利用する演出がうまい。その向こうに何が?何があるのか……?。何気ない描写なのに、気づいたら観客が惹きつけられるように描いている。ポランスキーはそこが本当にうまい」と作り手ならではの目線で語る。


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 それが意識して描いた演出なのかとズバり尋ねられると、黒沢監督は「そうしたシーンを取り入れるのは本当に難しい。何か起こるんじゃないかと、ドアに向かってずっと歩いていく間が怖いんじゃないかな。でも、編集でつないでみると、その部分は長いと思って真っ先にカットする対象になる。でも、何が起こるんだろうかと思うその間が実はとても良くて。ただ、そうしたシーンは編集で使うのには結構勇気がいる。この映画でも冒頭をあんなに長く見せるのはすごい、そこで聴かせる足音が後半で別の意味を持って権力の象徴として聴こえてくるように、後で効いてくる」と自身の映画作りとも重ねながらコメント。

 最後にこの映画について、「一見は、紙をつぎはぎしたりして、証拠を見つける古い話だけど、それをインターネットやスマホに置き換えれば全部現代になる。様々なシステムに絡め取られていて、なんでもない簡単な真実を公表することがどれだけ難しいか。一度決められた事実を覆すのがいかに難しいか。本当に現代に通じる話」と語り、イベントを締めくくった。



(オフィシャル素材提供)



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