2022-01-21 更新
廣津留すみれ
世界中の映画祭で観客賞を受賞した感動作、映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』が1月28日(金)より全国公開となる。劇場公開に先駆け、ヴァイオリニストの廣津留すみれをゲストに招いたアフタートークショー付き特別試写会が実施された。本作の舞台であるイスラエルとパレスチナに、ハーバード大学のオーケストラとしてツアーで訪問した経験がある廣津留。音楽家としての視点から、本作の感想などを交えつつ語った。
本作へ「多くの人に届いてほしい」とコメントを寄せた廣津留。まず初めに映画の感想について「胸にグッと込み上げるものがありました。やはり“対話の大切さ”ということが音楽を通して表現されているなと思いました」とコメント。続けて海外の学校に通っていた自身の体験をふまえて「本当にたくさんのバックグラウンドを持った人たちがいる中で、何も話さないと始まらない。対話をすることでお互いのことが分かり合えてくるのです。こんなに知らないことがあったんだということが増えていく、そんな様子が手に取るように伝わってくる映画でした」と絶賛した。
大分の公立高校からハーバード大学、ジュリアード音楽院をそれぞれ首席で卒業している廣津留。初めての海外でもあったハーバード大学での様子について「一旦楽器を持つと、音楽という共通言語で言葉を使わなくても通じ合えるというのが、すごく印象的で楽しかったです」と振り返る。さらに大学在籍時には、当時在籍していた「ハーバード・ラドクリフ・オーケストラ」のツアーで、本作の舞台であるイスラエルとパレスチナを訪れたという。イスラエルでのコンサート後、パレスチナの音楽院へ現地の学生とセッションをするために向かった廣津留だが、そこで驚きの出来事を経験する。「イスラエルで演奏してきたあなたたちとは一緒に演奏することができませんとお断りをされてしまいました。計画になかったことで、すごく衝撃的でした」、「音楽でその問題を解決できるのではないかと希望を持っていましたが、反対に音楽は共通言語だという考えが覆されてしまった、音楽を持ってしてもかなわないことがあるのだと感じました」と、映画でも描かれるイスラエルとパレスチナ問題の根深さについて語った。
続いて話題は、本作に登場する和平オーケストラのモデルとなった実在の民族混合オーケストラを率いる、巨匠指揮者のダニエル・バレンボイムについて。「世界の和平を目指すという根本的なところがまったくブレない人。忖度がないですよね。世界平和のために間違っていると思うことに対して自分の意見を言える、それってすごい難しいことだと思います」と感心の様子。さらに廣津留がこれまでに出会った、カリスマ的な指揮者や奏者は?と質問されると「世界的チェリストのヨーヨー・マさんが私のロールモデルです。ハーバードの先輩でもあるのですが、休憩時間には日本語で話しかけてくれるなど、みんなのテンションを上げてくれる人です」、「その姿を見ているので、人柄や性格が音楽作りにも出てくるんだなと思いました。ずっと憧れている存在です」とエピソードを明かし、「音楽をツールとして教育に使ったり、難民キャンプで演奏したりと、ただ音楽が楽しいから弾くということだけでなく、その先が見えている人」と語り、ゆくゆくはそういった活動もしていきたいと話した。
劇中では誰もが耳にしたことのあるような有名なクラシックの音楽が多く使われている。その曲の中で特に廣津留が印象的に感じたのはラヴェルの「ボレロ」だそう。「ボレロなしでこの映画は語れないですよね。みんなが同じメロディを弾くので、みんなが心を通わせないと演奏できない曲です」とし、“世界一長いクレッシェンド”と呼ばれ、本作のタイトルにも通ずる象徴的な1曲についてコメントした。
音楽がパレスチナとイスラエルの対立する民族同士の架け橋となってゆく様子が描かれている本作だが、コロナ禍の今、日本に住む私たちにとってもその物語には共感することができる。最後に廣津留は「コロナが長引く中で、私たちは段々と自分の国のことしか考えられなくなってしまいがちです。しかし自分の周りにはいろいろなバックグラウンドの人、いろいろな民族、国籍の人がいます。相手を理解しようとする姿勢、対話をしようとする姿勢を忘れずにいきたいと思います」とコメント。廣津留の世界での、リアルで豊かな経験談に会場は大いに盛り上がり、トークイベントは終了した。
(オフィシャル素材提供)
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