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『名付けようのない踊り』
第34回東京国際映画祭Q&A

2021-11-07 更新

田中 泯、犬童一心監督

名付けようのない踊りunnameable-dance ©2021「名付けようのない踊り」製作委員会
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2022年1月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマほかにて全国公開

 第34回東京国際映画祭の「Nippon Cinema Now」部門に出品された映画『名付けようのない踊り』が東京・角川シネマ有楽町で上映された。世界的ダンサーであり俳優の田中 泯とメガホンを取った犬童一心監督が登壇し、上映後のトークQ&Aで制作秘話を語った。


 本作は、ダンスとアニメーションの至福のグルーヴ五感が覚醒する<体感型ダンス映画>。『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『のぼうの城』などで知られる犬童監督が、世界的ダンサーとして活躍する田中の踊りと生き様を追う。ポルトガル、パリ、山梨、東京、福島、広島、愛媛などを巡りながら撮影した。

 1978年にパリ・デビューを果たした田中は、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現させ、ダンスの公演歴は現在までに3000回を超えている。映画『たそがれ清兵衛』(2002)から始まった映像作品への出演も、ハリウッドからアジアまで広がっている。

 観客の前に姿を見せた田中は会場を見渡し、「皆さん、観たんですよね?」と問いかけ、「映画、暗いですよね?」とちょっと不安げな眼差しを見せたが、会場からは大きな拍手が沸き、田中は笑顔となった。


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 犬童監督は、作品について「編集し始めて3年がたちます。編集しても編集してもなかなか完成しない映画。皆さんに観ていただくことになり、やっと完成したなという気持ちです。嬉しいです」と会場に笑顔を向けた。


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 犬童監督が出演交渉に田中が住む山梨に行ったとき、農業にいそしむ田中の姿があった。『メゾン・ド・ヒミコ』でコラボしてから15年が経つ。

 「泯さんは真っ黒に日焼けされていて、農民そのものでした(笑)。出演のオファーをすると、シナリオは気に入ってくれたのですが、『僕は、演技をすることができません。それでもいいですか?』と聞かれたんです。そして、『撮影する場所で一生懸命居ることはできる。それでいいですか? それが、ダンスでやってきたことだから……』と言われました」とオファー時を振り返った。


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 犬童監督はそんな田中の踊りについて「泯さんが一生懸命その場所で居ることができるのか、泯さんの話した言葉の意味をちゃんと確かめたい」と撮影し始めたことを明かした。

 74歳になった田中は40歳の頃から畑仕事“農業”から自らの肉体を鍛え、心のままに生きる素晴らしさを体感してきた。そんな独自の存在であり続ける田中の踊りを、親交のある犬童監督が撮影。さらに、『頭山』でアカデミー賞短編アニメーション部門に日本人で初めてノミネーションされた山村浩二のアニメーションが、田中の幼少期を情感豊かに描く。

 田中は、自身の踊りが映像化されたことについて、「私は映像のために踊ったつもりはなくて、その場所、その場所で踊っていた踊りは、その場所のためのものなんです。私の踊りを、皆さんが惹きつけられるように、釘付けになるように犬童監督が再現してくださったんです」とコメントし、犬童監督に感謝を伝えた。


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 田中の踊りは独特で、「僕は、一度として、踊ったときの感覚に戻れた試しがないんです。踊ったときの私の体に押し寄せてくる、体が感じ取ったさまざまな物事は、映像になると消えてしまう。踊った踊りの再現(映像で観ること)に嫌悪さえ抱いていたんです。犬童監督が編集したこの映画の踊りは犬童監督が作り上げたものです。かっこよくて、僕には嬉しいことです」と話した。


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 田中の踊りをカメラにおさめた犬童監督は、「本作は踊りをいっぱい撮影していって、脚本を書いて、編集しています。『こういうふうにしよう』と思って撮ることはせず、インタビューもしないで、とにかく行って踊りを撮る、ということをしていました」と撮影時について話す。また、「泯さんの踊りはイマジネーションが連なってはいますが、僕のなかでは、メタモルフォーゼしているという感覚がすごく強いんですね。泯さんのなかでイマジネーションが変形している面白さを感じるんです」と説明した。

 最後に客席から、「劇中では多様な時間の重要性が語られていました。犬童監督が映像を編集するときに、時間について意識されたことはありますか?」という質問があり、犬童監督は、「泯さんの踊りを見に行って、その場所から帰ってくる、という一連の時間を表現したかった。効率で進めるのではなく、時間をかけないと生まれないものの輝きや重さを感じました」と応えていた。

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 田中の顔のアップが切り取られた2枚のポスター(実写とアニメ)にも注目が集まっている。実写は、写真家の操上和美が撮影。アニメは山村浩二。2枚とも素晴らしい仕上がりで、ずっと見ていられる。

 本作には、田中のほか石原 淋、中村達也、大友良英、ライコー・フェリックス、松岡正剛らが出演している。



(取材・文・写真:福住佐知子)



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