2020-11-04 更新
水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、大庭功睦監督
夭折の歌人・萩原慎一郎の遺作となった歌集を原作とした映画『滑走路』が11月20日(金)より全国公開となる。この度、第33回東京国際映画祭<特別招待作品部門正式出品作品>として11月3日(火・祝)に上映され、上映前の舞台挨拶に、水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、大庭功睦監督の4人が登壇した。
映画の上映を前に、MCの呼び込みとともにシックな黒い衣装に身を包んだ水川、浅香、寄川、大庭監督が登壇。
まず全員の挨拶を求められると水川と浅香は「今年も東京国際映画祭の舞台に立つことができて嬉しいです」、「本日はお越しいただきありがとうございます。楽しんでいってください」と客席にほほ笑む。一方で、本日が人生初の舞台挨拶となった寄川は、「本日はお越しいただきありがとうございます。短い時間ですがよろしくお願いします」と少々緊張した面持ちで挨拶し、初々しい様子を見せた。本作が商業映画監督デビューとなった大庭監督は「映画祭の皆さんもこの新型コロナの逆風の中で開催を決定するのはとても勇気のいる行動だったと思います。その決断、私も微力ながら支持させていただきます。そしてこの場にお呼びいただいたことをとても光栄に思います」と喜びを語った。
2020年は新型コロナウイルスが猛威を振るった激動の1年。同時に本作で描かれる内容ともリンクするような、現代社会が抱える問題が改めて浮き彫りとなった年でもある。そして今年の東京国際映画祭のテーマは「信じよう、映画の力」。それにかけてこの映画が公開される意義をどのように考えるかという質問が投げかけられると、大庭監督は「コロナ禍によって、人と人の距離が物理的にも精神的にも離れざるをえない状況になってしまいました。そんな状況の中で編集作業を進めていたのですが、人と人の距離がゼロになる瞬間があり、ドキっとしてしまいました。よく考えれば映画や本などの物語で表現されるものは、いろいろな意味での“人と人の距離がゼロになる時”。それをこの時代に改めて思い知らされた気がします。“ゼロになる”瞬間の尊さを皆さんにも感じてほしい」と考えを語った。水川は「もしこのまま、人と人が距離感を保ったままずっと生活続いていくと思うと、とても心が折れそうになる時がある。その距離感が当たり前になってしまうのも怖いと思いながら生きている節もあります。本作は今日が初披露となるのですが、少しでも怖いと感じている人の心をそっと撫でてくれるような作品になったら嬉しいなと思います」と正直な気持ちを明かした。
本作は、短歌の歌集をもとに作られたオリジナル作品。そこで登壇者はそれぞれ自分のお気に入りの一首を披露。
水川が選んだ歌は「自転車のペダル漕ぎつつ選択の連続である人生をゆけ」。これについて「歌集の中ではシンプルで分かりやすい歌なんですけど、人間って1日の中でも何千通りの選択をして生きているんですよね。人生が常に選択の連続であること、その選択が間違っていたとしても強く生きていく、という確かな意志が見えた歌だと思ったので、選びました」と説明。
浅香が選んだ歌は「破滅するその前にさえ美はあるぞ 例えば太陽が沈むその前」。この歌について浅香は、「実は映画の撮影に入る前に読んだ時に一番響いたのは別の歌だったんです。撮影が終わった後に読み、この歌が一番響いてきて自分でも驚きました。たまたま今のタイミングでこれがしっくりきたのですが、10年後にまた読み返した時にどんな歌を好きになれるのか楽しみです」と語った。
寄川が選んだ歌は「ぼくたちはロボットじゃないからときに飽きたり眠くなったりするさ」という一首。可愛らしい歌の選択に会場からも温かな笑いがこぼれおちたが、寄川は「歌集の中で自分が一番共感できた歌です。自分は飽き性なのであまり物事が続かなくて、すぐに眠くなってしまいます。でもそんな自分でも唯一続いているのはお芝居。芝居をしている間は、他のことは何も考えずにただ芝居だけに集中することができるんです」と隣にいるベテラン俳優陣を脅かすような堂々とした答えを披露した。
大庭監督は「遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから」。その理由は以前に「Twitterで140文字で書いた」と話し、続けざまに「誰しもに存在するであろう自分にとってのかけがえのない人を、手が届きそうな届かなそうな、じれる距離感で見つめる視線の在り方がとても萩原さん的だと思うし、なによりそういう胸がうずくような気持ちを鮮やかに表現してしまう萩原さんの感性と技術が本当に素晴らしいと思う」と息もせずに一気に読み上げた。これには通訳も「前もって教えてほしかった……」と愚痴をこぼし、会場は笑いに包まれた。
短歌の歌集を映画化するにあたり、どのように映画のオリジナルストーリーを構築したのかを問われた監督は「これを映画にしようと思った時に歌集のレビューを読んだのですが、本当に老若男女様々な人が好きな歌を挙げ、自分を投影しながら歌を楽しんでいることに驚きました。ここまで多様に受け止められている歌集なのであれば、映画も多様な人々を登場させて群像劇にしようと考えました。3つのエピソードを考え3人のキャラクターの人生を交錯させていく流れを思いつきました」と明かした。
< イベントの最後にはまたそれぞれの挨拶が。「この映画を観て感じることは人それぞれだと思います。映画を観た後には、自分の正直な気持ちを周りの人にぶつけられるような勇気がもらえると思います」(寄川)、「少し堅苦しいイメージを抱いてしまうかもしれませんが、あまり気負いせずに観てほしいです。歌集と同じようにふっと力を抜いて、背中にあたたかい手を添えられたような気持ちになれる映画だと思いますので、気楽に楽しんでください」(浅香)、「いまのこの世の中って人にとっての豊かさとか、幸福が少し見えにくくなっている時代だなと思います。そんな時代であっても人を救うのは人なんだと、この映画を観て改めて気づいてもらえると思います。そっと寄り添って肩を組んでくれるような映画であって欲しいなと思います」(水川)とキャスト陣が希望に満ちた作品の魅力をアピール。
そして大庭監督は、「とにかく、今ここにいる3人の俳優たちがとても素晴らしい演技を見せてくれて、それを堪能するだけでもこれから2時間映画を観る価値があるのではないかと思います。それをしっかり目に焼き付けていただければと。あとエンディングはSano ibukiさんという素晴らしいアーティストが歌ってくれているのですが、それもこれもすべては萩原慎一郎という一人の歌人が命を削って作ってくれた『滑走路』という歌集がなければ生まれなかった。今日もどこかで萩原さんがこの舞台挨拶を見ているのではないかなという気がしています。改めてありがとうございます、とお伝えしたいです」と熱い思いを語り、イベントは幕を閉じた。
(オフィシャル素材提供)
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