2022-05-30 更新
是枝裕和監督
第75回カンヌ国際映画祭において、現地時間5月28日(土)夜(日本時間:29日未明)に「コンペティション部門」の授賞式が行われ、是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』の主演ソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞、是枝監督は本作品で「エキュメニカル審査員賞」も受賞しており、本賞と合わせて2冠の快挙となった。授賞式後に是枝監督の日本用囲み取材が行われた。
是枝裕和監督: 自分の映画に出た役者が褒められるのが一番嬉しい。素直に嬉しいです! 自分が褒められると疑ってかかりますけれど(笑)、役者が褒められる時は本当に嬉しいです。特に今回はソン・ガンホさん。予想はしていなかったのですが、このプロジェクトにとって彼の男優賞というのは、さっきティエリー・フレモー(カンヌ映画祭総代表)にも話しましたけれど、この作品にとっての最高のゴール、とても美しいゴールだなと思って、そのご挨拶をしてきました。
是枝裕和監督: はい、僕が言いました。
是枝裕和監督: 受賞の後は、トロフィーを持って抱き合っただけです。まだそんな言葉を交わすというよりは、本当に良かったと抱き合いました。
是枝裕和監督: そうですね。それは日本でやる時も変わらないから。どう信頼関係を築いてお互いが何を求めるのか、言葉を尽くして話すということも大事ですし、撮りながらそれをどういうふうに、関係を深めていくかという。彼が積極的にアプローチをしてくれたので、本当に助けられましたし、良い関係が築けたのかなと。
是枝裕和監督: 話しました。授賞式の前に立ち話ですけど。ただこちらに来ているのは分かっていたので。少し早めに入ったので、2人で話す時間をいただいたので、褒め称えて(笑)。長編デビューでここに来られて、本当に素晴らしいスタートだなと。心からおめでとうを伝えました。
本当は『十年』の短編でご一緒して、その企画を時間をかけて長編に仕上げてのデビューなので、自分としては長編へ向かうための背中を押すような関わり方ができたほうが本当は良かったなとちょっと反省したものですから、せめてここで少し僕の後押しが何かプラスになるか分かりませんけれど、エールを送りました。でももうきっと彼女はこれで、学生部門で来て、長編デビューで受賞して、このあとコンペが待っているという形だと思いますので、どんどんこういう形で、去年濱口さんが獲って、今年早川さんがこういう形で続いていくというのは日本映画にとってもいい流れだなと思います。
是枝裕和監督: 『誰も知らない』の時にも授賞式に呼ばれて一体何の賞なんだろうなと思っていたら、全く予想をしていなかった男優賞というのをいただいて、頭が真っ白になって何を言ったらいいのか分からなくなりましたけれども、結果的にはいろいろな意味でとても良かった。
今回、この日韓の合同チームで主演の役者が男優賞というのは、韓国映画界でも男優賞初なので、ソン・ガンホさんも国際賞で単独というのは初だと思うので、そういう意味でも、今韓国国内でも結構盛り上がっているはずですし、僕ら……多分共演した役者たちもスタッフももらって一番嬉しい賞だと思う。彼がこの作品のキモだったし、本当にムードメーカーだったし、チームリーダーだったし、彼がこういう形で評価されたのは何よりでした。
是枝裕和監督: いい演技をさせるという感じではないんですけど……。ただ、今回は本当にお互いに僕も彼の演技を観ながら脚本を現場で直していく、編集を見てもらって、というか彼が見るので(笑)、観て意見が戻ってきて、そういうフィードバックが撮影の裏で毎日あった。そのことがやっぱ僕にとって判断の基準になりましたし、そういう信頼関係の中で進められたというか、結果的に作品の中に残っている彼の芝居の質も上げたと思いますし、そういうことなんじゃないかなと。僕が何か引き出したというよりは、そういう感じなのかなと。
是枝裕和監督: パク・チャヌクさんとも話していて、これをきっかけに、もっと日韓のスタッフとかキャストとかの交流が進むといいねと。お互いにお互いから学ぶことがたくさんあるだろうし、そこからまた新しいものも生まれてくるだろうから、そういうことが進むといいなという話を今していました。
是枝裕和監督: えー進むんじゃないですかね。ポン・ジュノさんとかと話していても、日本の役者で撮りたいという気持ちをすごく感じるし、いろいろな役者さんの中でもおそらく韓国の監督たちとやってみたいと思っている人はすごく多いと思いますよ。そういうことが進んでいくのを僕はとてもいいことだと思いますけれどね。
是枝裕和監督: もちろん直接的な何かに加担していくということへの映画の力はあると思いますけど。今回感じていたのはコロナ禍を乗り越えて3年ぶりに通常のこの時期に開催されて、もちろんいろいろな事情で参加することができない監督や方たちがいらっしゃったと思いますが、そこに集った人たちが、みんな映画というものを信じて、みんな映画の愛でつながっているということを示す、発信するということが一番大事で、それが一番大きな力だと思います、間接的かもしれないですけど。
是枝裕和監督: レッドカーペットって別に誇らしいだけの場所じゃないよとしゃべったりしてましたけど、今回あのキャストとあの場所に立ってみて、撮影のカメラマンが“ソン・ガン・ホ”っていうんですね、あちこちから、何だか分からないけど(笑)。それにソン・ガンホさんが応じてくれるので、それに合わせて歩いているのがとても楽しかった。みんなあれで和んだ。緊張が一気にほぐれた。掛け声みたいに名前をソン・ガン・ホって呼ぶんです。あの瞬間は楽しかったです。
是枝裕和監督: 泣いてないです(笑)。白いので拭いてましたけど。3度下がるやつを一本もっていて、半分まで来たら拭こうと思っていました。泣いてないです(笑)、でもうれしかったですよ、本当に名前を「ソン・ガンホ」って呼ばれたときは。みんな、ソン・ガンホさんが評価されるのは納得だから、本当にうれしかったですね。泣いてはいないですよ。
是枝裕和監督: 学ぶこともたくさんありましたし、そのことで日本の映画の、映画だけに限らないかもしれませんが映像産業、映画文化も含めて変えなければいけないところは明解になってきているはずで。でもそれは監督だけではできないので、日本の映画界全体が危機感を持つべきだと僕は思いますし、多分もう何年かこのままいくと手遅れになるなと個人的には思っていますので、何かしらのアクションを促し、自分自身は今回のことをいろいろな勉強と反省を持ち帰って、また日本で撮りながら、またチャンスがあれば海外でいろんな方たちと組んで吸収して持ち帰って、その繰り返しですね。
是枝裕和監督: あります(笑)。声をかけられることが増えました。うれしいですけどね、単純に。今海辺のパーティ会場にいて、ソン・ガンホさんに会いに行って、ティエリーに挨拶して、ハビエル・バルデムがいたので、ずっと追い掛け回して(笑)、一緒に写真撮ってもらおうと思ったんですけど。そしたら振り向いて「あっ」って言われたんです。あ、俺のこと知っていると、ちょっとうれしかったです(笑)。そしてキュアロンもいたので、4年ぶりだから久しぶりですねって、3人で一緒に写真撮りました。
是枝裕和監督: スペインかぁ……大変だな……(笑)。夢は広がりますね。
是枝裕和監督: それを目指してどうやればそうなるのか? 監督だけではできないので、スタッフ、キャストの協力の下にチャレンジしているものではあるんですけど……。本当にできているかどうかは、まだ自分でも確信はないので。試行錯誤ですね。
是枝裕和監督: そうですね、一つの結果ではあるとは思いますけど、まだもうちょっと自分で検証が済んでいないので、もう少し自分でやれたことと、やれてないことをチェックしないと、本当に言葉の分からない国で撮っても大丈夫だよと自分で言えるかはまだ分からないです。
是枝裕和監督: ハリウッドというと大きくなってしまいますが、英語圏で撮ってみたいというのはあるので、いつになるか分かりませんけど今回の総括がすんだら考えてみようと思います。
是枝裕和監督: いえ、撮りたい役者がいるからです(笑)!
是枝裕和監督: それは内緒です(笑)。
是枝裕和監督: まだそこの段階まではいかないのですけど、いろいろ働きかけもあるので、それは役者ではなくても。いろいろな動きがあるので。それはチャンスがあるならば。
(オフィシャル素材提供)
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