2020-09-07 更新
坂口 拓&下村勇二監督
2011年12月20日に、宮本武蔵と吉岡一門の決闘をモチーフに、坂口 拓が世界初77分ワンシーン・ワンカットで588人を斬った映画『狂武蔵』。坂口の俳優復帰作である下村勇二監督作品『RE:BORN リボーン』(17)を見た旧友・太田誉志がお蔵入りとなっていた『狂武蔵』の権利を買い取り、下村が監督として追撮を敢行して完成した本作。この度、主演・坂口 拓と下村勇二監督の2ショット・インタビューが届いた。
坂口 拓: 園 子温監督の『剣狂-KENKICHI-』という映画の企画がいろんな理由で出来ないとなった時に、そのまま終わりにしたくなくて、当時、10分間だけワンカットでリアルにやろうと言っていたので、70分以上にして1本の長編にしたいと思いました。(本来はアクション・マンが実際に役者さんを狙って刀を振るということは、怪我に繋がるのでしないけれど、)アクション・チームZEROSの皆に、俺のリアルなアクションのために1年間「俺の頭を殴れ、目を突け」と練習させておいて、「映画が潰れました」って言ったら、「何のためにやったのか」ってなるじゃないですか。だから、男気というか、かぶいたんです。「長編を1日でやるから、やってみませんか?」って言ったら、全スタッフが快く受けてくれて、やるに至りました。
坂口 拓: 作品でいうと、『極道兵器』とかだよね?
下村勇二監督: そうだよね。6分20秒位の長回しはやったりしていました。俺は「リアリズムのアクションにこだわっている」と言うけれど、『極道兵器』とかもCGだとかを使ったら、俺のやり方がリアルかどうかは観客にはわからないですよね。ただ、(『狂武蔵』の撮影後、零距離戦闘術の創始者・稲川義貴氏に師事し)技術が伴ってきたというか、(肩甲骨を柔軟に回すことにより力を波のように伝達させる)ウェイブをやるようになって、やっとリアリズムと掛け算になってきた。リアリズムだけでもだめで、ウェイブだけでもだめで、ガチンとはまって誕生したのがこの『RE:BORN リボーン』って映画なんです。
下村勇二監督: 『RE:BORN』じゃない(笑)!
坂口 拓: (笑)。『狂武蔵』は『RE:BORN』の前だから、青い感じの自分がいます。
坂口 拓: そうです。
坂口 拓: 僕にはなかったです。ただ、失敗したらもう1回ということを考えると、午前中1回やって、ダメだったら午後もう1回やるのかなと思ったら、ずっと始まらなかったんです。ずーっと1人で黄昏ていて、ある時に、「これ、皆、腹決めて、1回勝負でやりたいんだな」って思いました。特にカメラマンの長野(泰隆)さんが夕景を狙ってるんじゃないかなと感づきました。よくよく考えたら、1発やったら俺もボロボロになっていただろうし、無傷でいられるとは思っていなかったんで、1発勝負で正解でした。やり切れはすると思っていたけれど、撮影が始まって開始5分で、「やっぱやれねーわ。体力ゼロだ」と思いました。『極道兵器』の6分だってゼーゼー言ってたよね。
下村勇二監督: 言ってた、言ってた。
坂口 拓: 9年前のことで、『狂武蔵』を撮影をしている間の記憶は残ってるんですが、やる前とやった後の記憶がないんです。覚えていないけれど、何かは話していたはず。しばらくは後ろ(バックショット)でひっぱろうかだとか。
坂口 拓: 休憩しないでやれないだろうと思ったんですね。刀って切れなくなるんで、刀を変えたり、水を飲んだりと考えていたんですけど、見たら分かる通り、喉がふさがって水も飲めなかったです。
坂口 拓: そうです。セリフは1個もなかったです。
下村勇二監督: 『狂武蔵』で、彼が全てを出し切った後、刀を持つと吐き気がして、刀を見たくないっていう時期があり、精神的にも不安定だった。ある時彼に、「その映像が家にあるから1回見てよ」って言われて、まだ効果音が入っていない元素材の映像を見せてもらったんです。実は当時は、ただやんちゃに暴れているようなイメージしかなくて、彼が言っているリアル・アクションがあんまり好きじゃなかったんです。当時は、お互いリスペクトし合っているのかって言ったら、そうでもなかったし、「すげーアクションを撮った」って言ってても、「またパンチ連打だろ?」みたいなそんな感覚だったんです。
坂口 拓: 「パンチ連打」を作り出したのはお前だけどね。
下村勇二監督: そうだ!『VERSUS』。彼も俺のことを、「どうせワイヤー使って偽物のアクションをやってるんだろ」っていう感じで。
坂口 拓: 俺は「マジ当て」、勇ちゃんは「ワイヤー」っていう感じで、親友だけど、お互い絶対歩み寄らなかったんです。
下村勇二監督: そうだったんですけど、77分の映像を見た時に、前半は段取り臭いところもあって、面白くなかったんですけど、30分〜40分位してから彼の目が変わってくるんです。体も脱力して、剣の振り方も、構えるというよりも、腕に剣が生えているような螺旋の回し方になったり、明らかに絡んでいるスタントマンもビビっているのが分かって、ドキュメントとしてすごいなと思った。格闘技とか武道とかを少しでもかじっている方が見ると、面白いと思います。この瞬間この動きをするんだとか。前半は1人ひとり相手を見ながら立ち回っていたのが、後半は誰も見ていないんです。気配だけで、来たらそっちに反応しています。それまでは彼が言っていたリアル・アクションというのがよく分かっていなかったんですが、その時に新しいものを見たなという感覚がありました。その時は全く関わっていなかったんで、「完成するのが楽しみだね」で終わったんです。
坂口 拓: あの頃って、自分は新しいアクションで何か変えたいと思っているんだけど、何も変えれないと迷走していた時期。自分が例えば「命懸けてやります」って言っても、言葉で言うと安っぽくて、迷走していて、答えが見つからなかった。何をしたらこの世界が変わるのかが分からなかった。空回りしていた。俺は立ち回りを全体で捉えて、覚えない。(相手を怪我させないよう、)自分の攻撃だけ覚えて、相手の攻撃は覚えないで、攻撃されたら本能的に避ける。リアリズム・アクションをわかってもらうには、多分『狂武蔵』しかなかった。当初は10分間のシーンのために練習していたけれど、多分10分じゃ表現できなかったんだと思う。リアルになればなるほど、段取りっぽくなるんです。アクションは決まりがあって、「はい、君から行って」と動きが出る。でもリアルにやるってことは、動きを作っていないから、皆誰が行くか分からなく、動かない間ができちゃうと、段取りに見えちゃうんです。通常のアクションは、間を埋めて、段取りに見せなくするもの。本作には、「リアルって、実際は段取りっぽいな」っていうのが分かる面白さがある。リアルだからこそ、俺も最初は得意なことしかやらないし、向こうもそうだし。それが、その法則が全員ぶっ壊れていくから、変わっていく。多分一番ぶっ壊れたのはもちろん俺なんですけど。リアルすぎるんだけど、今度はリアルの先の進化が後半見えるのが面白いんです。
下村勇二監督: 合戦の途中から芝居や計算ではなく、本当に強くなっている。77分の中で、進化していく過程が見えるっていうのは斬新でした。
下村勇二監督: 冒頭を見た時に、アクション映画としては面白みがないのではないかと思いました。普通だったら、途中で派手なスタントを入れたり、ワイヤーを入れたり、壊しものを入れたり、観ているお客さんにサプライズを入れるっていうのがあるんですけれど、『狂武蔵』に関しては、そういうエンターテイニングなアクション要素が全くない。リアルになればなるほど、派手な動きはないし、地味になっていくんです。でも、その地味さが後半どんどんリアルに見えてきて、そして彼が覚醒することによって、本当に彼の生き様を見ている感覚で、アクション映画というジャンルではもうない、「坂口 拓の生き様を見届ける映画」っていう感覚になったんです。
下村勇二監督: 『RE:BORN』を公開した時に、10代の時に倉田アクションクラブで同期だった太田に奇跡的に再会できたんです。久しぶりの再会が嬉しくて、朝まで二人で飲みました。その時『RE:BORN』を観てくれた太田に、なぜか、坂口 拓と『狂武蔵』のことを熱く語りました。坂口が命を削って闘った『狂武蔵』が未完成のままお蔵入りになっている。どうにかして復活させたい。太田はその想いに賛同してくれて、すぐに動いてくれました。そして、太田が権利を買い取って、僕たちで映画を完成させようっていう流れになりました。映像素材には音楽も効果音もCGも何もなかったんで、まず完成するためにクラウドファンディングを始めたんですけれど、予想以上に目標額を超えたんです。本作にドラマを足したいという想いがあったので、追加撮影をしました。坂口が左慈役で出た『キングダム』で親しい関係になった山﨑賢人君が、僕たちが『狂武蔵』という作品を完成させようとしているっていう熱い想いを聞いて、出てくれることになりました。
坂口 拓: 想いだけでやってくれました。この作品は想いの映画です。勇ちゃんから始まって、太田に伝わって、賢人に伝わってと、皆の想いでできた作品です。
下村勇二監督: 吉岡一門側にもいろいろな理由はあったと思うんです。清十郎が殺され、伝七郎が殺され、後がないということで、又七郎という10歳にも満たない少年を当主において、その裏では何百人が面目を潰されたから武蔵を倒そうとする。そういう状況だと、組織の中ではいろいろなものが崩れているじゃないですか。同じ目標に向かっていない人たちもいると思うんです。その中で、賢人君が演じた忠助だけは自分が信じた侍というか、そこに向かって生きているっていうのを見せたかったんです。最後の7年後の武蔵を見た時に、敵討ちのはずなんだけど、自分が求めている侍ってこういうことなのかっていう羨望の眼差しにもなるかなと思いました。
下村勇二監督: まさに進化した坂口 拓でしたね。
坂口 拓: 77分の合戦というものを経験して、その後ウェイブマスターになって、『RE:BORN』を撮影して、進化した俺を表現したいって思ったの(笑)?
下村勇二監督: それもありますよね。9年前と後の坂口 拓って、佇まいも全然違うんです。立っているだけ、座っているだけでオーラ、存在感が全く違うんです。宮本武蔵も7年の間に何かを悟って強くなったっていうのを、坂口 拓の生き様で描いているようにも取れるのかなと思っています。
下村勇二監督: 賢人君は、爽やかな好青年のイメージがありますが、ああ見えて心の奥はすごく熱い男なんです。坂口 拓や僕が言っている熱い想いを彼が汲み取ってくれて、想いで参加してくれたので、彼の熱い部分を映像として出したいと思いました。ただキレイな男を演じるのではなく、心の底からの叫びだとか、いろいろなしがらみに抑えられて苦しんでいる表情など、普段見られない彼を見せたいという想いもあって、そういう演出をしました。
下村勇二監督: 前作『RE:BORN』の本編の音楽は川井憲次さんにお願いしたんですが、『RE:BORN』の予告編の音楽は甥っ子さんのカワイヒデヒロさんに作っていただいたんです。その後いつかカワイヒデヒロさんともご一緒したいなという想いがあって、今回『狂武蔵』でお願いしました。普通のアクション映画は、音楽も起承転結をつけられるんですが、77分のシーンは単調に斬り続けているので、大きな展開がなく、抑揚をつけると、音楽が浮いてしまうんです。それで、この映画は時代劇だし、世界に発信したいという想いで和楽器を取り入れて、後半に坂口が覚醒してからがドラマチックになるので、ピアノで心情を表現して、そこからの逆算で作っていきました。
坂口 拓: 77分カメラを持ってくれた長野さんだったり、スタッフだったり、77分俺と絡んでくれたアクション部だったり、ZEROSのメンバーだったり、映画にしてくれた太田だったり、勇ちゃんに対する感謝の気持ちが先に出てきました。こんなリアリズムを突き通した人間のわがままに時間と体力を費やしてもらったことへの感謝を感じました。
下村勇二監督: 1回観ただけじゃ伝わらない部分が多々あるので、2回観ると冷静に見られると思うんです。「あっここで体力がなくなって、もしかしたらここで指の骨が折れたのかな」「ここで覚醒したんだ」っていうのが2回目以降わかってくると思います。すると、改めて坂口 拓のクレイジーさが伝わると思います。
坂口 拓: 今、映画館もソーシャルディスタンスが守られているので、観に行けたらぜひ映画館に観に行ってください。
下村勇二監督: 一人の人間が命を削って戦う、こんな映画はなかなかないですよね。普通のエンターテイメントのアクション映画を求めて来ると、全然違うものだと思います。本当にドキュメントで、宮本武蔵というよりも坂口 拓の生き様がここに映し出されているんで、これを見て、何か感じてもらえたらと思います。ぜひ劇場でご覧ください。
(オフィシャル素材提供)
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