2020-07-17 更新
速水萌巴監督、稲本弥生、小野みゆき
女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落を舞台に、速水萌巴監督自身の過去の体験に根ざした母と娘の物語を描いた映画『クシナ』が日本外国特派員協会で記者会見を開催、速水監督、稲本弥生、小野みゆきが登壇した。
始めに4年前撮影された本作をどうしてこの度公開することになったのか聞かれた速水監督は、「この映画は2016年に撮って、完成するのに2年かかっていて、2018年に(大阪アジアン)映画祭で上映された際に配給のオファーもいただいていたけれど、その時に受けたインタビューの内容を私の母が読んでショックを受けました。そういうつもりで撮ったわけではなかったのに、「辛い思いをさせていたんだね。育て方を間違っていたのかな」と苦しんでいる母の姿を見て、この作品と距離を取れて、向き合い方が分かってから公開した方がいいと思って、公開するまで2年間かかりました」と本作公開までのエピソードを告白。
監督のお母さんの象徴でもあるオニクマ役を演じた小野は、「本作に出演した理由は?」と聞かれ、「そもそも自分自身が子どもを作りまして、20年ほど撮影の仕事から離れていました。(撮影は4年前なので、)子どもを育てている16年間の間は映画を観るほうに回っていました。面白い日本映画が増えていて、今の若い、これからどんどん映画を作る人たちと仕事をしてみたいというのが第一の理由でした」と回答。
外国の記者から「ポスタービジュアルにインパクトがあるのですが、撮影前にイメージがあったのか?」と聞かれた監督は、「寝そべっている少女や映画のイメージは、撮影前に絵画や画像の検索をしたりして、イメージを集めて、作っていきました」と話した。
「なぜこのコミュニティについての映画を作ったのか?」と聞かれ、監督は「よく聞かれるけれど、コミュニティを(設定の)最初に設置したのではなく、まずはお母さんと娘の物語を描きたいと思っていて、その舞台を考えていきました。それがたまたま森の中になりました。日本だと、若くして妊娠して出産した人たちに対して厳しい考えがあるので、生きづらい人もたくさんいると思うんですけれど、もしそういう人たちが樹海に入ってこういうコミュニティを見つけたら、おそらく皆住み着いていくんではないかと想像したんです。男性が行き着いてもそこにとどまることはないだろうなと思い、キャラクターをまず作って、それを動かしていくことで、物語を作っていったら、自然と女性だけの集落になりました」と物語の成り立ちについて説明。
衣装について聞かれ、監督は「この物語では、各キャラクターは心境がはっきりしない部分があるので、まず脚本の段階でそれぞれのキャラクターの役割をしっかり決めようと思って、それに伴い、それぞれの色を決めていきました。ただ、私1人で全てを決めたわけでなく、衣装合わせに小野さんも自前の衣装を持ってきてくださって、スタッフ皆で考えました」とチームワークを強調。
「小野さん演じるオニクマの衣装は、森では青や黒などダークで力強い色だけれど、町のシーンでは、黄色の明るいワンピースを着てハイヒールを履いていたのは、外の世界に溶け込むために意図的にイメージを変えていたのか?」と聞かれた小野は、「おっしゃるように町に溶けこむために着替えるんですけれど、本作の衣装はありもので、本作のために何も作っていなく、監督のお家にあるものを持ってきているんです。エキストラの方が着る着物も、出演者の小沼君が縫っていました。撮影前に「こういうイメージの衣装です」と衣装の絵を頂いていたので、私はそれに合わせられるように家であるだけのマフラーや長い薄手のコート等を準備して、衣装合わせに行きました。監督のお母様のワンピースを着たら、小さくて、息ができなかったです!」と笑いを取りつつ、「本作は、衣装を作り込んでいないんです。『女の人たちが逃げて、女の人たちだけが住む集落ができました』となるように、普通に昔からあるお洋服を使っているから、リアリティがあるはずだと思っています」と太鼓判を押した。
「稲本さんは、現実の世界から集落にやってくるキャラクターで、衣装もファンタジックな村民たちと対照的に自分だけつまらない短パンにシャツでしたが、自分はアウトサイダーのように感じましたか?」と聞かれた稲本は、「服装や環境も用意されたもの全てが役作りにすごく助けになりましたし、監督と一緒にこういう学者はこういう行動をするだとか、登山の時はこういうのは間違いだということを話し合って、服装を含めて監督と一緒にリアリティを深めていきました」と話した。
本作のインスピレーションが自分だとお母さんが知ったのは、お母さんが作品を観た時なのか、インタビューを読んでからだったのかと聞かれ、監督は「インタビューを読む前にまず映画を観て、意味が分からなかったらしいです。インタビューを読んで自分の話だったと知ってショックを受け、また観たけれど、やはり意味が分からないとのことでした。私の姉も観たけれど、姉は号泣していて、姉妹では通じるものがあったんだなと思いました。この映画でも描きましたけれど、やはり母親と考え方や想いが食い違っていた部分が確かにあるんだなと改めて感じました」と述懐。
ジョン・ユンカーマン監督からは「(撮影後の)ポスプロに2年もかけたと聞いて、納得しました。音楽だとか音響に相当こだわりがあったように感じたけれど、2年のポスプロの間に奥行きが広がったのか?」と聞かれ、速水監督は、「撮影の前にカメラマンと『必要最低限の意味のあるショットを撮っていこう』と話し合っていました。現場では、撮ったショットだけでこのシーンは成り立つと思うけれど、編集すると足りなかったりして、すごく悩みました。1人の作業なので、終わりを見つけるのも難しかったです。現場の音がうまく録れていなかったところがあって、半分くらいアフレコです。そのおかげで、整音の方と話し合って、映画の舞台のサウンド・デザインも考えるきっかけになり、1から音を作りました。それが作品を深めてくれたなと思います」と驚きの事実が語られた。
最後に「この映画を観終わったお客さんにどういった感情を持って帰ってほしいか?」と聞かれ、稲本は「監督の想いもそうですし、お母様とのわだかまりだったり、いろいろなことが描かれているんですが、その他にも部外者を演じた私としては、女性しかいない村に足を踏み入れるという男性の目線であったり、村を壊さないようにしているのに自分が一番壊してしまう人など、いろいろな人の愛の形があるので、いろいろな方が自分の目線で楽しんでいただけたらと思います。」とメッセージを伝えた。
小野は、「さっき取材を受けた時に、男性のインタビュアーさんで『母親に会いに行こうかな』とおっしゃった方がいらっしゃいました。本作は説教じみた映画ではないです。ただ、日本では20年前私が20代30代だった頃は、女の人が意思を持たないというか、男の人が守らなくてはいけない生き物として描かれていて、ステレオタイプにはめられるのがとても気持ち悪かったんですけれど、この映画を観ると、本当の愛の深さは、「かわいい、いい子ね」ではないので、そういうことを含めて、女の人の見方が変わるかもしれないですし、お母さんが化粧もせず自分たちが育てられたことの強さや美しさは、か弱いだけじゃないという、日本の古くさい女の人のイメージじゃないものが届けばと思います。昔の女の人たちがいけないのではなく、今まですごく弱いものとして描かれてきたと思います。女の人が強くてたくましくて、生き様が美しいということが感じられる、ちょっとファンタジーに見えるけれど、リアルなファンタジーの映画かなと思います」と今までの経験を踏まえ、力説。
監督は、「私たちは人生の中でいろいろな決断をしていくわけですけれど、愛によって決断する時も何回か訪れると思います。愛を伴った決断はすごく力強いものだと思っています。ただその愛というものが、他者に、自分が思うように届いているかどうかは分からない。そこも考えて欲しいなという想いもあります。あと、私はファンタジーがすごく好きで、世界中のファンタジーの映画を見て育っているんですけれど、日本のファンタジー映画で目立ったものがないと思っています。日本にはせっかく風景、文化、物語があるので、それをもっと活かしたファンタジーを世界に輸出できたらなという想いで作りました」と話し、会見は終了した。
(オフィシャル素材提供)
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