2019-11-07 更新
マッツ・ミケルセン
マッツ・ミケルセン MADS MIKKELSEN
デンマークを代表する国際派俳優。
プロのダンサーとしてキャリアをスタートさせ、デンマークのオーフスの国立演劇学校で学び、31歳のときにニコラス・ウィディング・レフン監督のデビュー作『プッシャー』(96)で俳優デビュー。続編『プッシャー2』(04)では主演を務めた。
スサンネ・ビア監督の『しあわせな孤独』(02)やTVドラマ「Unit 1」(00~04)などに出演し、母国で活躍を続ける一方で、04年の『キング・アーサー』で米国に進出。『007 カジノ・ロワイヤル』(06)、『タイタンの戦い』(10)といったハリウッド作品にも出演する。
12年は、『偽りなき者』でカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(12)ではアカデミー外国語映画賞にノミネートされた。
13年から放送された米TVシリーズ「ハンニバル」でハンニバル・レクターを演じ世界的にブレイク。『ドクター・ストレンジ』(16)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)、『永遠の門 ゴッホの見た未来』(18)、『ポーラー 狙われた暗殺者』(19)など話題作に出演し続けている。
“北欧の至宝”マッツ・ミケルセン主演作、『残された者-北の極地-』が11月8日(金)より、新宿バルト9ほか全国公開となる。この度、来日したマッツ・ミケルセンのオフィシャル・インタビューをお届けしよう。
エージェントから、いくつか読んでほしい脚本が送られてくるんですけど、今回は『ハンニバル』のマーサ・デ・ラウレンティスから電話があり「今読むべき脚本だ」と言われて。他の脚本の束の中からそれを一番上に持ってきて読んだんです。すごいな、美しいなと。シンプルで誠実に書かれているなと思いました。それから監督のジョー・ペナとミーティングをしましたが、僕が感じたことを彼も同じように感じていました。2ヵ月後にはアイスランドで撮影をしていました。ただラッキーだったのは、この企画は最初は火星が舞台だったので、そのままならアメリカ人の役者が配役されたかもしれないので、よかったなと思いました。
彼はサバイバルの達人というわけではなくて、エンジニアなんです。毎日のルーティーンでただ生き延びている。劇中、あまり表情を作りませんが、ちょっとした感情が見えた瞬間に彼という人物を一気に感じられると思います。
セリフが多くても少なくても作品が成立していればいいのです。僕はセリフが少ない作品も楽しめるほうです。この作品はセリフが少ないほうが正解だと思います。実際にこういったシチュエーションになったらほとんど独り言さえ言わないと思いますね。リアルですよ。作品の終盤で「ハロー」というセリフがありますが、セリフが少ない分とても意味があるんですよね。もしかしたらこの作品で一番重要な言葉かもしれません。
これまでクレイジーな作品をたくさんやってきましたが、今回がこれまで経験した中で最も過酷な撮影でした。自然、風、雪、寒さというものが常に付きまとっていたんです。撮影に何時間もかかってしまうような作品で僕は出ずっぱりでしたからね。身体的だけでなく、心情的にも大変でした。
常に事件が起きているという状況で、35日間の予定が、19日しか撮影できなかったんです。例えば作品で嵐のシーンを撮ろうとすれば、突然お日様が出てきたり。天気の中で撮影しようとすると雪が降ってきたりして。だから途中からあきらめて、天気に合わせてフレキシブルにやろうということになりました。北極圏では、寒さよりも風の強さのほうが大変でした。風が吹くととても寒くなるんです。
監督はブレないビジョンを持っていました。エネルギーとビジョンについては初監督のほうがいい時があると思います。過酷な撮影環境にも関わらず、流れるように撮影は進み、一度も新人監督だなと思うことはありませんでした。
孤独というのは、自ら選んでそういう状況に自分を置いていることが私の場合多いです。子どもの頃、別荘の近くに大きな森があって、その中で迷子になるのがとても好きでした。“誰も自分を見つけられなくなる”、その感覚が自分にとってすごく魅力的なものでした。その感覚が楽しかったですし、何かこう自分が消失するということにすごく魅力を感じていました。しかしこの映画の主人公と一緒で、そういう場に身を置いたとしても、いつだって自分が行動すればそこから出られると思っていました。
スタッフ自体も少人数でみんなが仲間同士という感覚はありました。でもスタッフは僕からかなり離れての撮影が多く、嵐や吹雪が始まるとスタッフのところに戻れず自分は消えてしまうんじゃないかと思うこともありました。でも逆に良いなと思ったのは、この巨大な世界の中で人間は大きな存在ではないと実感できたこと。地球という惑星が僕一人のことなんて気にかけないということを改めて感じられました。でも吹雪の中、雪原の中を歩くと自分自身も自然の一部になるんです。
今となっては止めてくれて良かったと思っていますが、山の上のほうでの撮影に向かっているときに、車から降りようとしてドアを開けたらそのドアが風で谷底のほうまで吹き飛ばされたことです。とても美しい場所なので私も監督もそこで撮影しようとしましたけど、危険だということでプロデューサーがその場所での撮影を許可しませんでした。
自分が気づいてないだけでそういう危険な状況というのは経験しているんじゃないかと思いますが、それはそれでいいんじゃないでしょうか。だってずっと何か起きるんじゃないかって考え続けていたら、進めないと思います。
今回のアイスランドの撮影では、今自分が行動しなければ誰も自分を見つけられないとう状況は何度かあったが、それを感じることは良いことだと思います。何度も言いますが、大きな自然の中で自分がいかにちっぽけな存在なのか、重要じゃないのかが分かります。それを改めて自覚することができますからね。
体を動かすことが好きで、基本的には自転車に何時間も乗ってます。何も考えないようにして空っぽにする、肉体的な行動が好きなので、それを通して頭をクリアにします。あとは、殺風景なところを一人で眺めているのも好きです。
この作品を終わって、次の作品の撮影も終わった後は8ヵ月間何もしませんでした。何もしないのは得意なんです。オフの時はスポーツが大好きなので、テニスや自転車、そして家族と過ごすことがご褒美でした。
注目してほしいのは、表面的にはオボァガードが女性を救うように見えているかもしれませんが、少し深く掘り下げて観てほしいのです。すると、女性のほうが彼を救ったのだと読み取ることができます。彼はそこから動けずに何の選択もすることができないまま、そこに座って死を待つだけのルーティーンを繰り返しているだけだったのが、彼女が登場したことによって行動することになったのです。この映画は、生き残ることと生きることの違いを描いた作品です。やはり人は一人では生きていけない。誰かがいないと駄目なんです。
クライマックスはいくつかあります。もちろん女性の登場というのもその一つです。作品自体にとっても彼女が登場した瞬間からギアが変わったと思います。
(オフィシャル素材提供)
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