2021-09-05 更新
ライムスター宇多丸(ラッパー)、三沢和子(映画プロデューサー、森田芳光夫人)
映画監督・森田芳光の生誕70周年および没後10年を機に「森田芳光70祭」プロジェクトが始動。ほぼ全ての作品をブルーレイボックス化した「生誕70周年記念 森田芳光 全監督作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」が12月に発売されることになり予約受付中、記念本「森田芳光全映画」も出版される。9月4日(土)より、森田監督ゆかりの映画館での特集上映もスタート! 初日には森田監督の実家に近い東京・渋谷のユーロスペースで、初期の自主製作映画『映画』と『工場地帯』が上映され、記念本の編著を担当したライムスター宇多丸と森田監督の妻でありプロデューサーの三沢和子によるトークが行われた。
『映画』、『工場地帯』が作られ、自主上映されたのは1971年、72年で森田監督は日本大学芸術学部に在学していた。三沢さんは当時、早稲田大学ハイソサエティ・オーケストラでジャズを演っていたが「『映画』は渋谷の並木橋にあった寺山修司の『天井桟敷』で上映されていて、友人から『すごく面白いから観た方がいい』と言われて観に行った」という。
三沢さんが観に行った回だけ森田監督が不在だったが、映写機を回している男性を森田監督だと勘違いした三沢さんは「あんまり感じがよくないな、しゃべりたくないなと思って帰ってきちゃったんです(笑)」と明かす。それから3年ほど経って、別の機会に森田監督と顔を合わせ、別人だと判明したという。宇多丸さんから「森田さんはどういう若者でしたか?」と尋ねられると、三沢さんは「理屈っぽくなくて、普通に明るい面白い人でした」と振り返った。
『映画』、『工場地帯』はそれぞれパロディ色、実験性が色濃く出た作品だが、宇多丸さんはその後のデビュー作『の・ようなもの』(1981)から遺作『僕達急行 A列車で行こう』(2012)までの商業映画の中の描写や技法に、随所にこれらデビュー前の実験的映画の影響が見られると強調。「『工場地帯』のヘリコプターのぼやけた画の気持ち悪さは『39 -刑法第三十九条-』(1999)のカモメの画の気持ち悪さに通じるし、『映画』のエンディングで2人が消えたような感じで去っていくところは『未来の想い出 -ラストクリスマス-』(1992)のエンドカットですよね。(初期の自主映画)『遠近術』(1972)の花に着色している描写は、完全に『黒い家』のヒマワリですね。『椿三十郎』でさえ、初期の実験映画に由来することをやっている。意見が分かれますが、決闘のシーンで(敵である)室戸(豊川悦司)の主観ショットを入れていて、あれで『俺の映画にした』という感じがある。自主映画、事件映画出身なんだと強く感じた熱いカットだと思います」と熱弁をふるう。
また、宇多丸さんは、森田監督の“音”に対する感性についても言及。「橋の上を走る電車をスローで撮ったり、『黒い家』のクライマックスのお祭りのシーンでも、回転を遅くするという、ヒップホップで言う“チョップド&スクリュード”をやっている。感覚がヒップホップなんです。もし、ご存命だったら『森田さんはもっとヒップホップを聴くべきです』と説得したかった」と語り「純音楽的というか、生理的な気持ちよさ・気持ち悪さで編集していて、ミュージックビデオ的なセンスだと思う」と語る。
三沢さんも宇多丸さんの言葉に同意し「自主映画でカメラを自分で回していて、カメラの動きにこだわるんですよね。(ブルーレイボックスにも一部収録される初期の自主映画)『天気予報』は(バンドの)ウェザー・リポートに触発された作品ですけど、音楽に合わせる速い編集をしています。編集も好きでしたし、当時大事にしていたのは、物語よりも、タイム感覚と音なんだと思います」と語った。
この日、上映が行われたユーロスペースの歩いてすぐのところに、料亭だった森田監督の実家があり、このあたりの風景は自主映画の中にもたびたび登場する。三沢さん、宇多丸さんは、映画監督・森田芳光の誕生には、育った環境も深く影響していると言及。三沢さんは「実家は料亭で、帳場には芸者衆がいて、あれこれ悪口を言ってる。子どもなのに大人の裏側を見ていたし、近くの百軒店には映画館もジャズ喫茶もあった」と語り、さらに森田さんが自身の作品を実家で上映する際に「森田の部屋と庭を挟んで隣がソープランドで、そこの白い壁に映して8ミリを見てました(笑)」とのエピソードを明かし、会場は笑いに包まれた。
宇多丸さんは、森田作品における水商売で働く人々の描かれ方などにも触れつつ「こんなに情報が圧縮されたところに住んでた人はなかなかいない。単なる“東京っ子”ではなく、“渋谷・円山町っ子”ですよ。“東京”と一般化できない凄みがある」と語り、自身も東京育ちの三沢さんも「同じ東京でも『森田くん、ズルいな』と思いました(笑)」と語っていた。
トークの最後に三沢さんは、この日、上映された作品を含め、初期の森田監督について「映画館でかかっている映画のマネはしていない」と語り、「いまの若い監督は洗練されていて、当時とは違って学生でもスタジオを使って音入れをしたり、デジタルの良い機材を使えるかもしれないけど、若い時は個性を持って撮られたらいいかなと思います。それが今回、これらの作品を観ていただきたい一番の理由です」と語り、トークは幕を閉じた。
~森田芳光70祭~関連情報
★ 絶賛予約受付中!「生誕70周年記念 森田芳光 全監督作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」(完全限定版)(12/20発売)
■発売元:日活株式会社
■販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
■企画協力:ニューズ・コーポレイション(森田芳光事務所)
■協力:森田芳光監督70周年記念ブルーレイボックス製作委員会
★ 森田芳光全映画』2021年9月16日、リトルモアより発売!
「一貫性のある自己変革」を繰り返した稀代の映画監督。その全キャリアを一望する。
宇多丸・三沢和子編著 超豪華書き下ろし原稿+インタビュー等収録
★ ゆかりの映画館で森田芳光の映画人生を辿る特集上映の旅
森田芳光が生まれ育った渋谷円山町から学生時代アルバイトをした劇場、才能が世に知られたPFF、そして18年に全作品上映し連日大盛況となった名画座まで、森田の映画人生を共に辿る旅をしよう!
※今後の上映
9月4日(土)~10日(金) ユーロスペース eurospace.co.jp(外部サイト)
9月12日(日)&19日(日) 「第43回ぴあフィルムフェスティバル」 pff.jp(外部サイト)
10月2日(土)~ 新文芸坐 shin-bungeiza.com(外部サイト)
11月3日(水・祝) 飯田橋ギンレイホール ginreihall.com(外部サイト)
【大阪】10月22日(金)~11月11日(木) シネ・リーブル梅田 ttcg.jp(外部サイト)
★ CS各局での森田作品特集放映
9月~10月 日本映画専門チャンネル、東映チャンネル、映画・チャンネルNECO 、衛星劇場にて特集放映
※ 放送の詳細は、各チャンネルの公式HPをご参照ください。
★ 海外でのレトロスペクティブ上映
2022年に、パリ、ニューヨーク、ソウル、モスクワ他にて特集上映
主催:国際交流基金(詳細は近日発表/新型コロナ拡大状況による変更もあり)
【最新情報は公式ホームページまたはSNSにて】
■「森田芳光70祭」公式ホームページ:https://tarimo70.com(外部サイト)
■Twitter:「森田芳光と“わたし”」@tarimo_70
■facebook:@tarimo70
■Instagram:@tarimo.70
■主催:ニューズ・コーポレイション(森田芳光事務所)
■協力:日活/ハピネット・メディアマーケティング/リトルモア/サルーテ
2021年9月4日(土)よりユーロスペースにて上映開始!
(オフィシャル素材提供)
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