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2017-09-04 更新
世界中で愛されている溝口健二監督の名作『近松物語』の4Kデジタル修復版が、第74回ヴェネチア国際映画祭で上映され、上映前には株式会社KADOKAWA取締役会長の角川歴彦氏、溝口監督の撮影監督を務めた宮川一夫に師事した宮島正弘氏、その宮川一夫のご子息・宮川一郎氏が舞台挨拶を行い、修復に尽力した溝口作品への思いを語った。
角川歴彦氏(株式会社KADOKAWA取締役会長)の挨拶
ご紹介いただきましてありがとうございます。ヴェネチア映画祭のディレクター、アルベルト(・バルベーラ)さん、このプロジェクトに貢献してくださいました方々に心から感謝いたします。
このヴェネチア映画祭は80年の歴史の中で、世界の映画界に非常に大きな貢献を果たしてきたと思います。また、日本の映画界にも大きな貢献をしてくれました。黒澤 明監督の『羅生門』がこの映画祭で受賞したことで、太平洋戦争で傷ついていた日本人に大きな勇気を与えてくれました。
大映は国際的に大きく貢献してきましたが、その大映の名作、『羅生門』を含めて、本日上映される溝口健二監督の『近松物語』も角川が預かっています。角川が大映作品を預かって以来、フィルムの洗浄を含めた修復に努力してまいりました。
また、角川は4Kによる修復および管理に非常に力を入れております。アメリカのアカデミー、とりわけニューヨークのマーティン・スコセッシ監督はじめ、今回も修復に多大な貢献をしてくれました。ニューヨークのシネリック社、そして日本の国際交流金などの協力の下に、今回溝口監督作品の修復が完成いたしました。
今回皆様に観ていただく『近松物語』は、60年前の作品とは思えないモダンな作品です。日本の古い因習の中で日本人がどうやって愛情を貫いてきたか、皆さんきっと感動していただけると信じております。どうか楽しんでいただけることを心から願っております。
宮島正弘氏の挨拶
おはようございます。宮島正弘です。
63年前、僕は12歳、小学校6年生の時でした、その当時、『羅生門』、『雨月物語』、『山椒大夫』、『近松物語』……全て観ていました。そのおかげで、一人の男の子の人生が変わりました。何故なら、そこに映し出されている宮川一夫の映像に惚れてしまったのです。その後、宮川さんの下で一緒に仕事をするようになりました。その結果が今日、観ていただく『近松物語』です。
ですが、このフィルムはオリジナルではありません。復元したものです。63年前のフィルムは非常にひどい状態になっていました。アメリカの技術者と一緒に、1コマ1コマ修復していきました。私が恋焦がれた宮川一夫の作品を、その弟子である私が修復できたことを非常に喜んでいます。この復元版はあと100年は持つと思います。宮川一夫と溝口健二監督の芸術、日本の文化をぜひ未来の人々にも観ていただきたいと思います。鑑賞してください。楽しんでください。
宮川一郎氏の挨拶
私は宮川一夫の息子で、グラフィックデザイナーなんですが、宮島さんからこの修復にお誘いいただき、もう70歳ですが、映画の勉強を一からやっている状態です。今回修復に始めから参加しましたが、一番大事なことは、修復作業をデジタルでやるので、映像が均一になってしまう可能性が高いということでした。それで宮島さんがやられたことは、全編修復用絵コンテを起こすことでした。これは、マーティン・スコセッシ監督も驚かれていましたが、そういう風に映画をよく読み込んで修復をするという作業で出来上がっています。
日本で上映したときには「フィルムとは違った」と記憶の話をされる方たちが多かったのです。今回イタリアで上映できることになったので、この観客席の中からもご意見を頂けると非常にありがたいです。修復に関わっている方もいらっしゃるかと思いますが、できましたら映画を作るように、宮島さんのように絵コンテまで描けとは言いませんが、ストーリーをちゃんと読みこんだうえで修復にあたっていただきたいと思いました。それも、宮島さんは75歳、僕が息子で70歳、僕たちがいる間でしたら何らかの形で援助することはできますが、僕たちはいなくなったら、技術だけで修復が進められてしまう可能性があります。それを宮島さんととても懸念しています。
今日は非常にたくさんの方に観ていただけますので、いろいろなご意見もあるかと存じます。僕も今勉強していますが、修復に関しては皆、同じスタート地点にある気がします。ですから、今日僕はお客さんの反応が知りたくて来ていますので、ぜひ楽しんでもらって、ご意見がございましたら、いろいろなところで発信していただけるとありがたいと思います。父の作品、溝口さんの作品を楽しんでください。よろしくお願いいたします。
溝口監督と名撮影監督が残した名作が、息を飲むような美しいモノクロ映像となって蘇った。全コマ、絵コンテまで描いて、可能な限りオリジナルに近づけようと尽力する宮島正弘氏らの命を削るような執念には頭が下がるばかり。私たちが過去の名作を目にできるのは、こういう方たちの尽力があってこそなのだと忘れてはいけない。
(取材・文:Maori Matsuura、写真:オフィシャル素材提供 - ©La Biennale di Venezia 2017)
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