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トップページ > インタビュー > 『ビルと動物園』坂井真紀 インタビュー

坂井真紀 インタビュー

2008-07-19 更新

初めて脚本を読んだ時、“頑張って!”と香子の背中を強く押したくなりました

ビルと動物園

坂井真紀

1970年生まれ。92年デビュー。『私の運命』(94)など多くのテレビドラマに出演。映画には『ユーリ』(96)で進出、『OL忠臣蔵』(97)、『青春☆金属バット』(2006)、『ドルフィンブルー フジ、もう1度宙(そら)へ』(07)、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)など、多くの作品に出演。公開待機作は『死にぞこないの青』(08)、『ノン子36歳(家事手伝い)』など。9月には、NYLON100℃の舞台『シャープさんフラットさん』に参加するなど多彩な活動が続く。

配給:アートポート
7月19日より渋谷ユーロスペース他にて公開

 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を始め、今年も話題の映画への出演が続く坂井真紀。7月に公開される最新主演作『ビルと動物園』では、新鋭・齋藤 孝監督のメガホンの元、年下の恋人との葛藤に揺れるOL役に挑み、等身大の女性像を見事に演じている。本作での役どころを応援しながら演じたという坂井に、『ビルと動物園』の魅力を聞いてみた。

この映画の脚本を最初に読んだ時、ご自身が演じた香子という女性を、どのように捉えましたか?

 初めて脚本を読んだ時、“頑張って!”と強く背中を押したくなりました。自分と香子とは違いますが、彼女と同じ29歳だった頃を振り返ると、立ち止まりたくなる瞬間とか共通点を見いだすことができました。

そういう細かいことまで書かれた脚本だったのですか?

 香子のバックグラウンドについては、充分な時間を作ってもらい、監督さんとたくさん話しました。

-----アクションシーンもありますが、撮影前に体を鍛えたりしましたか?

 元々運動は得意で普段からしているので、撮影前に特に鍛えたことはありません。

香子に共感できるところ、自分と似ている部分はどこですか?

 頑固なところが似ているなと思いました(笑)。

坂井さん自身と年齢も近い役どころなので、香子の役作りにあたって身近の友人や知り合いにリサーチしましたか?

 日頃から一般的な意識を持って普通に暮らすことがテーマなのですが、女優をやっていますから、どうしても生じてしまうギャップについては、妹や妹の友達・高校の友達に「こういう時の気持ちはどうなの?」と聞いて、ヒントをもらうことはよくありますね。例えば、自分にとっては強い気持ちで進められるようなことでも、皆にはできなかったり。そのように紐解いていくことは、この作品に限らずあります。今回の役OLさんということでしたが、私にとってOLの日々の痛さには判らない部分が多いですから、そこを聞きました。上司との関係や友人との関係と、普段は何をしているのとか、会社が終わったらどうしているのとか(笑)。

その中でも、一番印象深かった新しい発見は?

 あらためて、皆楽しみにしてくれているから雑誌やテレビに出させてもらう時には頑張らないといけないなと思いました。作品とは関係ありませんが、結果としてそれを意識しましたね。

最近は少なくなりましたが、香子を演じるにあたって29歳という年齢による焦りのようなものは感じましたか? ご自身が29歳の時にはどんな心境でしたか?

 自分自身、焦りはありましたね。不思議なことに、20代の頃には30代の自分が想像できず異様に年寄りのイメージもありましたが、いざ30代になろうとすると、“あれ? 大人になっているのかな”と、自分のバランスがとれない感じがありましたね。実際に30代になると、うれしくてすごく楽になるというか、“女って30代じゃん!”と思ったところはありました。

楽になるということは?

 覚悟みたいなものでしょうか? あとは良い意味で諦めるというか、年を重ねることが現実味を帯びていくというか、生きることを意識した部分はありました。更に、この映画にも香子の父親が出てきますが、親が年老いてくることも自分の中にリアルに入ってくるので、年齢を意識せざるを得ません。固定観念もありますし、“こんなことが起きるの?”といった先入観もありますが、意外とそして全然30代は恐くないということでしょうね。

年の離れた彼とのラブ・ストーリーですが、相手役の小林且弥さんと共演されていかがでしたか? 本当にドキドキしたとか……。

 そうですね、ドキドキはしましたね(笑)。可愛いなぁと思う瞬間がいっぱいあって、甘酸っぱいなと思う瞬間もいっぱいありました。

この映画の二人のような10歳程度の年齢差は、坂井さんは大丈夫ですか?

 全然大丈夫です。

この映画を観てこういう恋愛もありなんだなと思いましたね。

 うあぁ、うれしい!

その慎くん役の小林且弥さんはどんな人でしたか?

 (演じた)慎くんに近い感じの男の子で、すごく優しくて、のんびりしています。とても背が高いのですが、それだけで頼れることがあるじゃないですか? どうしようもなく見上げる感じというか。だから、つい寄りかかりたくなることはありましたね。

他にも、性格的に慎くんと似ている部分はありましたか?

 窓ふきの先輩の一太さんと話している時にはあどけない表情を見せることもありましたが、撮影の合間に馬鹿話をしている時にも、同じようなあどけない笑顔を見せてくれましたね。

坂井さんが一番お好きなシーンは?

 香子の唯一の楽しみがお酒を飲むことですが、だんだん演じている私自身の楽しみに近づいてきて……。お酒を飲むシーンはとても好きです。

日本酒という点に妙なリアリティを感じましたが、ご自身は一人で飲んだりしますか?

 意外と一人では飲まないんですよね。皆さん、そういうイメージを持っていらっしゃるようで(笑)、「飲んでいるんでしょ?」ってよく言われるのですが、ひとり酒は飲まないんですよ。だから、映画の中だけですけれど楽しかったです。ちょっと高い日本酒を買ってきて、ゆったりした時間を過ごすのも良いなと思いました。

東山動物園でのロケでの面白いエピソードはありましたか?

 動物が思いどおりの動きをしてくれないというのはよくある話ですが、見事にそんな感じで監督は苦戦していました。動物の鳴き声で慎くんの絶対音感を表現したかったシーンがあるのですが、なかなか駄目でしたね。急に目の前の象が元気になってしまい、泥を飛ばされたことがありました。

その他、ロケ地の名古屋ならではのエピソードは?

 名古屋には面白い家がいっぱいありました。名古屋は結婚式が派手で、お金持ちの人が多いといわれますが、住宅街で撮影をしていても豪華な家が多くて。玄関が2ヵ所にあったり、屋根がすごく凝っていたり、お金をかけるところが違うなと思いました。屋根に鯱のような人形が乗っている家もあり、さすが名古屋だなとずっと言っていたのを覚えています。 。

普通の映画と比較すると台詞が少ない作品ですが、これは監督の意図ですか?

 監督は空気感や行間を大切にして、私たちが見過ごしている時間をきちんと描きたかったのだと思います。

会話が少ないからこそ、香子さんと慎くんのぎこちなさがとてもよく伝わっていました。

 普通はどうしても言わなければならない説明台詞は出てきますが、今回はそういったことがないのはありがたく、台詞が少ないとことに関してはとてもやりがいがありました。

台詞が少ない分を演技でカバーしないといけないという難しさはありましたか?

 自分が発した言葉で大きな広がりを見せることができたらいいなということは、考えました。ですから、香子のバックグラウンドを理解するため、監督との話し合いの時間をすごくたくさん取りました。

二人のビルの窓越しの出会いは、ありそうでないことだと思いますが、この点についてはどう感じましたか?

 とても面白いなと思いました。慎くんがガラスにぶつかったり、すごく印象的な出会いをすることになるのですが、現実にはあのような仕事の人は「見てはいけませんよ」と指示されていると思います。だからこそ、あのように出会ってみたいと考えたりするじゃないですか?

主題歌を歌っている持田香織さんは、以前から坂井さんと親しくされていると聞いていますが、今回のコラボレーションは坂井さんからお声をかけたのですか?

 プロデューサーさんの意向で私は後から知りましたが、その時はとてもうれしかったですね。大切な友人である香織ちゃんの仕事はとても尊敬しているので、いつか一緒に仕事ができたらなということはぼんやりと考えていましたが、簡単には言えないことなので、こういうチャンスをいただけてすごくうれしかったです。

この曲について、持田さんから何かメッセージがありましたか?

 香織ちゃんもこの映画を見てからイメージして歌ってくれたことは聞いていましたが、できあがったものが全てなので、聞いた時には涙が出ました。

主題歌を含めて、おおはた雄一さんの音楽についての印象は?

 昔からの齋藤 孝監督と知り合いだということもあると思いますが、すごく監督のつぼを判っていらっしゃる方で、本当に風のような音楽にしてくれたなと思いました。

勝村政信さんや津田寛治さんといった個性的な共演者の皆さんとのお芝居はいかがでしたか?

 すごく楽しかったですね。勝村さんからは力の抜き方を学びました。勝村さん個人は、力の抜きすぎみたいな(笑)。勝村さんとはシリアスなシーンばかりでしたが、カットの声がかかるとすぐに笑いたくなってしまうみたいな感じでした。でも、やはり勝村さんはさすが。1秒前までふざけていたのに、すごい集中力はさすがだなと思いました。

馬淵英俚可さんや犬山イヌコさんといった同僚のOL役の皆さんとは、カメラがまわっていない時にガールズ・トークのようなことはありましたか?

 犬山イヌコさんのお局さんぶりはかなり素敵でしたね。馬淵さんや犬山さんを含めてガールズ・トークをするようなタイプではないので、残念ながらそういう話はなかったですね。ただし、皆舞台をやるので、舞台の話をしていました。

齋藤 孝監督はどのようなタイプの監督さんでしたか?

 本当にこの映画の雰囲気そのままの方ですね。すごく優しくてあんな感じの方です。でも、芯はとても強い監督です。

齋藤監督はこの映画の脚本も書かれていますし、女性の心理を掴んでいる方だと思いましたが、そういう部分も感じましたか?

 感じましたね。どんな女性と付き合っているのか気になりましたし、そういう話もしましたよ。

監督の恋愛観も、この映画に組み込まれているのでしょうか?

 私たちも演じる時も、自分の経験を引っ張り出しているつもりはなくても、どこかで何となくその色が出ることがありますから、きっとそういうこともあるのではないかなと思っているのですが。でも、全くなかったりして(笑)。判らないですね。

慎くんは香子さんに一目惚れしますが、坂井さんは一目惚れの経験は?

 あります。多いです。

そういった話題を、小林さんと現場で話したことはありますか?

 男女がこういうことになったら“じゃあどうする?”といった行間の話や、“きっとこういうことを言うのではないのかな?”ということは、話し合いました。小林君のプライベートな話は、あまりできなかったですね。

今年は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』に始まり、出演映画の公開が続きますが、今後の活動も映画中心でとお考えですか?

 自分の中では映画中心にといった意識はなくて、のんびりと一緒にやりたいなという方はたくさんいるので、そういう方たちと舞台もドラマも一緒にできるように頑張っていきたいなと、本当にシンプルにそう思っています。

この後の活動予定は?

 熊切和嘉監督の『青春☆金属バット』が、たぶん年内に公開になります。9月には、NYLON100℃の舞台があります。

そろそろアラフォーも気になる年代ですが、どんな40代を過ごしたいですか?

 そうですね。そんなに変わらないかなと思うのですが、40代ですからね。より女性らしく生きたいな、より女性であることを意識して自分自身を高めていけたらと思っています。

今38歳ですが、以前には38歳はどんな年だと思っていましたか?

 以前は“中年”“お母さん”というイメージでしたが、現実には“女はまだまだでしょうと言い続けるぞ!”みたいな(笑)。そんな感じになりますね。私の周囲にも年上の素敵な女性がたくさんいらっしゃいますが。

最後に、この映画を観ていただきたい皆さんにメッセージをお願いします。

 私たちが過ごしている日々がとてもドラマチックであることを、すごく感じてもらえる映画です。とても温かい気持ちになれる映画だと思います。女性に観てもらいたいと思いますが、男性にも観てもらいたいですね。たくさんの人に観てもらえたらうれしいです。よろしくお願いします。
ファクトリー・ティータイム

最近は、質の高さで話題となる作品で名前を見ることが多い坂井真紀。本作では平凡なOL役に挑戦し、同世代の女性たちから強い共感を得たキャラクターを好演している。連ドラの主役続投時代から約10年、ますます演技に磨きがかかってきただけに、これからも映画界からのオファーが続きそうだ。
(文・写真:Kei Hirai)


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