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2008-06-21 更新
役者には様々な表現が要求されますが、演じる度に要求の多さが楽しみになりますね
尚玄
1978年6月20日生まれ。沖縄県出身。トップモデルとして世界各国のコレクションやファッション誌のグラビアで活躍し、倖田來未、Dream Come TrueらのPVに参加。浅野忠信監督作品『トーリ/心の刀』(2004)で映画デビュー。CM、舞台、連ドラと活動の幅を更に広げながら、『風之舞』(主演、07)、『アロークロー』(07)などに出演。『カフーを待ちわびて』(09)が最新作。
配給:ナインエンタテインメント
6月21日よりユーロスペース、K’s cinemaにて公開
2007年の東京国際映画祭で大きな反響を呼んだ『ハブと拳骨』が、いよいよ公開される。
返還前の沖縄を舞台に、血の繋がらない家族の熱い愛情を描いた本作で、主役を演じたのが尚玄。国際的なモデルとして評価されながら、近年は演技の世界に軸足を移しつつある彼に、本作の魅力を聞いた。
まず、原案の田中雄一郎さんに会い、この作品のプロット、アイデアを聞きました。戦後の沖縄は、アメリカの占領下でとてもエネルギッシュな時代でしたが、そういった時代を生きていた、アメリカ軍の物資を盗んで闇で売っては遊んで暮らしている良のキャラクターにすごく惹かれました。三線を弾く役だと言われましたが、それまで触ったこともなかったので、逆に自分にとっての挑戦となりましたね。吹き替えも出来ると言われましたが、やはりちゃんと自分で弾きたかったのでがんばろうと思いました。
たまに弾きます。特に、沖縄に帰った時に。沖縄の飲み屋にはたいてい三線が置いてあるので、そういう時に弾くことがあります。
元々運動は得意で普段からしているので、撮影前に特に鍛えたことはありません。
それもありましたね。シナリオ・ハンティングの段階から参加させていただき、当時のやくざの親分さんや、アンダーグラウンドの世界で生きてきた方たちからいろいろな話を聞かせていただきました。自分自身の親戚から昔の話を聞く機会はなかなかありませんが、祖父母からも昔の話を聞いている内に、ノンフィクションの要素もたくさん含まれている話なので、使命感とまでは言いませんが、やらせていただきたいという強い意志は持ちました。
厳密に言えば劇中では沖縄の言葉を使っていませんし、撮影場所もタイなのですが、僕らが描きたかったのは、当時の混沌とした世界や生活の匂い、埃っぽさです。そういうことを優先してフィルムに残したいと最初から話し合っていたので、無理をして方言を使い違和感を感じるよりも、もっと優先するものがあると思いました。ですから、今の観光地化された沖縄で撮影するよりも、当時の沖縄の匂いが今も感じられるタイで撮影しようということになりました。ストーリーは戦後の沖縄が舞台ですが、僕らが描きたかったのは普遍的な家族愛ですから、どこの国がロケ地となっても変わらないと思います。>
興味深いお話はたくさんありましたし、実際に伺ったお話からこの映画のストーリーに盛り込んだものもあります。一番印象的だったのは、祖父母から話を聞けたことです。もちろん、僕たちは学校で沖縄の歴史を学ぶので当時のことについては本土の人より詳しいですが、自分の親族の体験談として聞くことができたのは貴重でした。
普段は聞く機会がないアンダーグラウンドの人たちの話も聞くことができたのですが、当時の沖縄のやくざは自警団から発展した歴史の影響がまだ残っていて、今の抗争のように下の者が拳銃でドンパチやるようなことはなく、皆が空手の段持ちだった組長同志が素手で戦ったそうです。でも、その後は本土のやくざが銃と共に進出し、戦い方も含めたいろいろな風習が崩れたそうです。この話が、興味深かったですね。
タイには約1ヵ月いました。一度嵐が来たことがありましたが、その日は、海辺で三線を弾きながら家族で宴を開く大事なシーンの撮影予定でした。しかも、宮崎あおいさんは滞在できるのがあと1日しかなくて、皆が頭を抱えてしまいました。でも2時間後に嵐が去り、その瞬間に水平線の雲の隙間からとても綺麗な夕日が顔を出したので、急いでセットを組んでそのシーンを撮影しました。自然に翻弄されながらも、奇跡を感じられるような良い思い出となりました。
そうですね。でも、僕は出演するシーンも多かったので、撮影の後に共演者の皆さんと飲みに行くようなことはありませんでした。普段はある程度飲むのですが、この1ヵ月間は飲むような余裕は全くありませんでした。翌日の台詞を勉強する合間にちょっと散歩をしたぐらいで、みっちりタイトにやらせていただきました。
普段の自分は、輪の中で率先して自分を主張することはないのですが、良は周囲のことをあまり考えず自分の思いをそのまま外に出すストレートな人間で、喜怒哀楽もはっきりしています。場の空気を読めない部分もありますが、そういう率直さ、感情をストレートに出すことに、最初は抵抗がありました。泣くシーンや怒りを爆発させるシーンでは特に注意するよう、監督から指摘されました。逆に、良の人間が好きだったり素直な部分は、自分自身と似ていると思います。僕の持っている部分をもっと広げていけば、良というキャラクターになると思いました。
虎牙さんはもともとボクサーで、体育会系の真面目な方でストイックな方です。ですから、この映画で演じた銀のキャラクターにぴったりだと思います。僕は1人っ子なので、最初は兄と弟という親密な関係をなかなか出すことができませんでした。ですから、クランクイン前には虎牙さんの家に泊まりに行ったり、本読みも二人でやったり、極力一緒に過ごすようにしました。そのような僕の気持ちも受け入れてくれる兄貴だったので、そういうところも映画の中でお見せすることができたと思います。
以前から面識もあって知っていたのですが、彼女は本当にキュートな人です。普段から周囲が見えていて、スタッフの人たちへの気配りも欠かさず、すごくできている人です。現場で一緒に仕事をするのは今回が初めてだったので、すごく勉強になりました。特に、僕や虎牙さんは、重いシーンの撮影の前には気持ちを作るために撮影の前からその世界に入っていってしまいます。でも、宮﨑さんは淡々としていて、急にスイッチを変える。さすがはプロだなというか、やはり先輩ですよね。その辺は、本当にすごいと思いました。
モデルの仕事は、役者を始める7年以上前からやらせていただいていますが、やっているうちにだんだんと物足りなさを感じるようになりました。役者には様々な表現が要求されますが、演じる度に要求の多さが楽しみになりますね。今では、役者はライフワークだと思ってやらせていただいていますし、日常生活の中でも役者の考え方に変わってきましたね。例えば、電車に乗っている時でも、知らない人物を観察しながら、自分がサラリーマンを演じる時にはあの人のようなくたびれ顔を出そうと考えたりしています。モデルとしての表面的なものよりも人間として取り組んでいける仕事なので、とても楽しんでやっています。
本作の中井監督の次回作『カフーを待ちわびて』に出演します。2006年に第1回日本ラブストーリー大賞を受賞した原田マハさんの小説が原作です。共演は玉山鉄二さんとマイコさんで、沖縄を舞台としたラブ・ストーリーです。また沖縄ですが(笑)。
僕の周囲の人からも、「母親に会いたくなった」「兄弟のことを思い出した」といった熱いメールが何本も来ました。そういった反響があるとやって良かったなと思いますね。ちょっと偏りがある映画なので、中には受け入れられなかった人もいましたが、好きな人はとても好きになれる映画なので、いろいろな人に観てもらえたらと思います。
とにかくたくさんの人に観てもらい、どんな意見でも聞きたいですね。
一つひとつ言葉を選びながら、エネルギッシュかつ丁寧に自らの想いを語る尚玄。本作では、大部分の本土の人間には想像すらつかない占領下の沖縄に生きた若者を、熱く演じている。ファッション界での経験などを通じて得た引き出しは多いはず。沖縄が舞台の作品に限らず、これからの日本映画で様々な役どころに挑戦してくれそうだ。
(取材・文・写真:Kei Hirai / Maori Matsuura)
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