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トップページ > インタビュー > 『世界で一番美しい夜』田口トモロヲ 単独インタビュー

田口トモロヲ 単独インタビュー

2008-04-30 更新

よくも作ることができたなと思うほどの壮大な物語。これこそ映画表現の醍醐味なので、ぜひ劇場で観て下さい。

世界で一番美しい夜

田口トモロヲ

1957年生まれ、東京都出身。大学中退後、漫画家・ライター・イラストレーター・ミュージシャンなどをしながら、サブカルチャー・シーンの中で過ごす。82年に『俗物図鑑』(内藤誠監督)で映画デビュー。出演作『鉄男』(塚本晋也監督)の一般劇場公開と、タモリのバラエティ番組「今夜は最高」(NTV系)のレギュラー入りをきっかけに、俳優を生業とすることを決意。以降、様々な作品に出演する。また、2000年4月から2005年12月にNHKで放送された「プロジェクトX」のナレーションでは一躍国民的人気に。『クライマーズ・ハイ』(原田眞人監督)、『きみの友達』(廣木隆一監督)がまもなく公開。現在『少年メリケンサック』(宮藤官九郎監督)を撮影中。今夏には、監督第2作『色即ぜねれいしょん』(原作:みうらじゅん)のクランクインが控えている。

配給:ファントム・フィルム
5月24日より渋谷シネ・アミューズ他にて公開

 『暗いところで待ち合わせ』の天願大介監督が、原作と脚本も携わった最新作『世界で一番美しい夜』が完成した。閉塞感溢れる現代社会からの解放を大胆な手法で描いた本作で、主役の新聞記者を演じたのが田口トモロヲ。「プロジェクトX」で国民的人気者になった多彩な演技派が、天願ワールドの魅力を語ってくれた。

-----いろいろなものが詰め込まれた作品ですが、最初にこの映画の脚本を読んだ時の感想は?

 すごい! 面白い! 出演すると言っておいて良かった! ここまで面白い脚本に出会える機会は稀だと思います。読み物としても面白かったので、現場が楽しみでした。

-----観た人それぞれにいろいろな感じ方ができる作品だと思いますが、田口さんが観客の皆さんに一番伝えたい、あるいは一番伝わるであろうと思うことは?

 今、自分たちを囲む環境がこのようになっている中で、“これから先、いかに生きるか? どういう風に生きるか?”というテーマは、誰もが持っていると思いますが、その解答を、この映画は「誰も死なないテロ」という形で提示しています。エンタテインメントとして作ってありますが、大げさに言うと“ちょっと立ち止まり、一緒に生き方を考えてみませんか?”という大きなテーマを持った映画だと思います。

-----本作について“ピース・レボリューション・ファンタジー”と表現されていますが、閉塞感が高まっている現代から未来に向けて脱皮するためには、革命のような劇的な手段が必要だと思いますか?

 この映画の中で僕が演じている一八が、美知枝さんが演じている〆子に「幸福になる方法を知っている?」と訊かれ、「死ぬほど知りたいよ」と答えると、「満足の水準を下げること」と答えていますが、本当にその通りだと思いますね。ここまで人間の欲望が高くなった世の中で暮らしていますが、どこかで何かをストップさせていかないといけない。今はものすごく“やった者勝ち、勝った者勝ち”ということになっているじゃないですか? 勝ちは勝ちなのですが、視点を変えればそうではない考え方もできるのではないか? という価値観の提示だと思います。

-----それは物質的な面のみではなく、いろいろな面でということですか?

 そうですね。やはり、ビジネス中心になりすぎていますよね。そんなに世界の中心にいなくても良いじゃないですか? ということなのでしょうか。

-----やはり、そういったことのために、徐々にではなくドラスティックな転換点が必要だとお考えですか?

 僕らは映画に関わっている人間なので、それは映画で発信していくことだと思います。今村昌平監督の『11′09″11/セプテンバー11』の時もそうでした。“9・11を監督たちがどう思ったか?”という視点から撮られたオムニバス映画ですが、そのように、自分のやるべき仕事を通じて発言していくことが大切なのではないか? と思います。今回、この映画のテーマに共感したからこそ出演したいと思いましたし、出演していること自体が俳優としてのある種のメッセージだと思います。そして、映画はどういう風に観ても自由なので、この作品を観た後は好きに考えて感じて欲しいと思っています。

-----では、映画俳優としては蛇でもエロでもなく、映画を通してメッセージを?

 蛇もエロもテロも含めてですね(笑)。

-----蛇になりきって演じられていましたが、人間を演じる際と一番違うこと、難しいことは何ですか?

 蛇は何も考えないことですね。本当に無心というか、心がないと言って良いと思います。最初に(『11′09″11/セプテンバー11』の“おとなしい日本人”編で)「蛇人間をやってください」と言われた時には、試行錯誤のために上野動物園の爬虫類館まで蛇を見に行きました。その時に、2時間も見ていて気がついたのは「あっ、何も考えていないんだ」ということです。だから、蛇になるためには何も考えずに這う、前に進む瞬間を作っていこうというのが、唯一の役作りでした。

-----実際に観察をされたのは上野動物園で?

 はい、上野に爬虫類館があることを調べて、すぐに行きました。

-----他に行かれた場所は? 自宅で飼ってみようとは思いませんでしたか?

 蛇の図鑑は買いましたし、ベリーダンスの腰使いは蛇の動き方が由来だと聞いたので、ベリーダンスをしている人のところに行ったりしました。普通、ここまでやることはめったにないのですが、自分でビデオをセットし、蛇のように這った姿を撮影し、“これで蛇に見えるか?”と研究もしました。“これは俳優の仕事なのかな?”という疑問を抱きながらですが(笑)。『うなぎ』の時から、今村監督は「何も言わなくても、プロなのだから、それぞれのパートの人がベストを尽くすのは当たり前だ」という方なので、とにかく、今村監督の前に立つ時には蛇になっていないといけないという一念でやりました。その蛇の役を、また今回出来ることは役者冥利、蛇冥利に尽きますね(笑)。

-----そのような長年にわたる研究で、蛇を好きになりましたか?

 『11′09″11/セプテンバー11』に入っている時はものすごく愛着を感じましたが、これが俳優という仕事の不思議なところで、終わってしまうとまた次の役にのめり込んでしまいますから、撮影が終わった時点で蛇は卒業しました。ですから、今回の『世界で一番美しい夜』でも、また蛇熱がちょっと上がって、撮影が終わったら卒業しました(笑)。

-----所々にスズキコージさんの個性的なアニメーションが登場しますが、漫画家でもある田口さんから見て、どのような印象でしたか?

 スズキコージさんは以前から好きな画家だったので、今回ご一緒出来ると聞き、すごく世界観が合うのではないかと思いました。僕は情報量の多い、書き込みの多い絵が好きなので、出来上がった作品を見て、すごく世界観が共通しているな、さすが天願監督だなと思いました。

-----作家性の強い作品から娯楽大作まで様々な映画に出演されていますが、出演作を選ぶ時の決め手はありますか?

 まず、脚本ありきだと思います。最初のテキストが脚本だと思っているので、それを読ませていただいてから出演を決めるということにしています。面白い脚本だったら、どんなに小さな役でも出演するスタンスでいたいですね。もちろん、経済面でも伴っていければなお良いですが(笑)。

-----NHKテレビの「プロジェクトX」でのナレーション以降、世間が田口さんを見る目は確実に変わったと思いますが、田口さんご自身は何か変化はありましたか?

 あると思います。好感度がとにかく上がりましたね。それまでの“この人は何をやっているのか判らない、ちょっと犯罪でも犯しているんじゃないの?”的な近所の目が、“あの人は良いわね、あの人は『プロジェクトX』の人でしょ?”みたいに。引っ越しする時の不動産屋さんの対応も全然違いました。不動産屋さんが大家さんに話す時も、「ほら、あの『プロジェクトX』のナレーションの人ですよ」と言うと、大家さんも「この人だったら家賃はいらないわ!」ぐらいな勢いでした(笑)。周囲の反応がものすごく変化したので、自分としてはびっくりしましたね。同時に、“これが良い作品に関わった時のプレッシャーと責任だとしたら、それを裏切らないようにしなければ”といった些細な自分改革運動みたいなこともありました(笑)。

-----では、最後にこれからこの映画をご覧になろうとしている皆さんにメッセージをお願いします。

 この作品は、ひとことで説明するのが非常に難しい、奇妙奇天烈、エロありテロあり、サスペンスあり、何でもありのごった煮映画で、よくも作ることができたなというような壮大な物語です。これこそ映画表現の醍醐味なので、ぜひ劇場で観ていただきたいと思います。そして、観た後に、皆で今の世の中に関して飲みながら語りたくなるような映画だと思います。たぶん僕の説明だと一切内容が判らないでしょうが、やはり映画は劇場で観てもらい、観ていただいた方が自由に捉えるのが一番良いと思います。あまり事前に知識を詰め込むのではなく、白紙の状態で観て何かを感じていただけたらと思います。『世界で一番美しい夜』、よろしくお願いします!

ファクトリー・ティータイム

癖のある作品の癖のある役柄が多かったにもかかわらず、人気番組のナレーションで一気に全国区の人気者となってしまった田口トモロヲ。だが、自らの視点とペースで魅力ある作品を選び、スクリーンを通じて素晴らしい演技を見せていこうという姿勢は健在だ。ここではちょっとご紹介出来ないような内容を含め、楽しいお話をうかがうことができたひとときだった。
(文・写真:Kei Hirai)


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