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2008-02-29 更新
イントロダクション
1988年の公開直後から、毀誉褒貶(きよほうへん)激しく物議を醸し、いまや伝説となったインディペンデントの極北『追悼のざわめき』。86年の完成から実に22年、あの松井良彦が遂に沈黙を破った。その待望の新作は、性的トラウマを抱え、ホモ・セクシュアルになった青年とニューハーフとの究極の“初恋”の物語だ。生のままの激情を曝け出すこの無鉄砲さは、邦画バブルのぬるま湯でふやけつつある我々の魂を巨大な鈍器で殴りつける。かつてのATG映画が担っていたような剥き出しのエネルギー、その泥くさいまでの真摯さが、観る者に決して消えないしこりを残す。そして何より恐ろしいのは、この衝撃作を松井良彦自身は、「非常にかわいらしい青春ラブ・ストーリー」と語っていることだ!! 覚悟無き者、観るべからず。
主人公アキラを演じるのは、『月の砂漠』(03)、『カミュなんて知らない』(06)の柏原収史。超過激な松井映画の中で、ときに妖しく、ときに残酷に魅せる性と暴力。ヒロイン香里には、新宿で人気のニューハーフ・あんずが抜擢され、ミステリアスなキャラクターの苦悩と葛藤を身ひとつで体現。そして、松井組の常連俳優、ピンク四天王の佐野和宏が圧倒的な存在感で松井組復活の狼煙をあげる。特殊メイク・造形には『追悼のざわめき』からキャリアをスタートさせ、いまや『妖怪大戦争』(05)や『インプリント~ぼっけえ、きょうてえ~』(05)、『叫』(07)を手がける松井祐一。さらに、『追悼のざわめき』に共鳴し、デジタルリマスター版では音楽も担当したミュージシャン上田 現によるエンディング・テーマ「水の記憶」は、道端にひっそりと咲く、ひなぎくの花のようにかすかな救いを感じさせる。
作品紹介
木下鋳工で働く立花アキラ(柏原収史)は、幼い頃から父親代わりでもあった工場の社長・木下(朱 源実)から受け続けた性的虐待がトラウマとなり、今でもうまく人を愛することができない。工場の外では一回数万円で刑事の福田(佐野和宏)の相手をしている。高熱で溶かされた鉄、地味できつい労働……アキラの中にはやり場のない鬱屈がたまっていた。
そんなある日、バイクを飛ばしていたアキラはトンネルを曲がったはずみで赤いワンピースの女をはねてしまう。道に投げ出された彼女を家に連れ帰り看病するが、目覚めた女は何も言わずに立ち去る。それが山本香里(あんず)との出会いだった。
数日後、香里は忘れ物のバッグを取りにアキラの住むアパートを訪れる。その名は「いづこ荘」……。アキラはいつになく心を開いて香里に話しかけるが、玄関の外では嫉妬に燃えた福田が聞き耳をたてていた。物音に気づいて立ち上がろうとしたアキラの腕を香里は無言でつかむ。
「意外と力、強いんだ」。
やがて夫の気持ちに気づいた木下の妻(村松恭子)はアキラに一方的な解雇を言い渡す。連れ戻そうと家まで押しかけてきた木下と争ううちに、運悪く包丁が落ちた。事の重大さに怯えるアキラは、その日、やってきた香里と衝動的に結ばれる――。
(2007年、日本、上映時間:100分)
キャスト&スタッフ
監督・脚本:松井良彦
出演:柏原収史、あんず、朱 源実、村松恭子、三浦誠己、長澤奈央、佐野和宏
配給
バイオタイド
3月1日(土)よりユーロスペースにてレイトショーほか全国順次公開
オフィシャルサイト
http://dokoniikuno.com(外部リンク)