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2007-12-21 更新
マイク・バインダー監督
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
12月22日(土)より恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
(C)2007 Sony Pictures Entertainment (J) Inc. All Rights Reserved.
愛する者を失ったとき、人はどう生きていけばいいのか――? 生きていれば誰もが経験する可能性のある愛する者の死が、あまりに突然に悲劇的な形で訪れ、全てに心を閉ざしてしまった男と、人がうらやむような人生を送りながらも心満たされていない男。大学時代のルームメイトだった二人が、9.11後のニューヨークの街角で出会い、心を通わせていく『再会の街で』。本作が、第20回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されたのに合わせて、監督のマイク・バインダーが来日、記者会見では本作を作るに至った想いなどを語った。
皆さん、今日はお越しくださいまして本当にありがとうございます。アダム・サンドラー、ドン・チードルらキャストとスタッフを代表しまして、東京国際映画祭に参加できましたことを心から喜んでいます。私にとっては、今回が初来日となりました。
この映画のために非常に多くのリサーチをしたが、とても心奪われる体験だった。興味深いと同時に心が締め付けられたよ。遺族の方たちはアダム・サンドラーと私に、本当に詳細に多くのことを語ってくださった。9.11の被害者遺族だけでなく、他の大事故や事件に遭遇した被害者の家族の方々や、突然家族を失った経験のある方々にもお話を聞かせていただいた。そうして伺ったたくさんの話から(アダム・サンドラーが演じた)このチャーリーというキャラクターを作っていったので、誰か一人をモデルにしたというわけではないんだ。とても悲しいが真実味をもって心に響いた話の断片をつなぎ合わせて、チャーリーという人物を作り上げた。
あるエピソードをここで披露すると、伺っていてとても心が痛んだお話なんだけど、それはワールド・トレード・センターに激突した飛行機に乗っていたフライト・アテンダントのことだった。彼女はその日の朝、夫とケンカをしたんだそうだ。その彼女がもう駄目だと悟ったときに、夫に電話を入れて、「私はおそらく死ぬことになると思う。あなたを愛しているわ。あなたが私を愛していることも分かってる。今朝ケンカをしたけど、そのことは気にしないでね」と言ったらしいんだ。そういうお話も参考にしたよ。
まず、先ほども申し上げたように、かなりのリサーチをした中で、生存者の方々、また愛する人を失った方々にインタビューをしたということがある。それから今回、監督として俳優に要求したのは、「出来るだけ自分自身を役柄に投影してほしい」ということだった。というのは、脚本を書いているときにもかなり私は自分自身の気持ちを投影したからね。もちろん、アダムは妻や子供を失った経験はないわけだが、そういう状況にあったらと想像してもらったし、ドン・チードルもすごくうまい役者だから、魂を役柄に注ぎ込んで欲しいと私は強く言ったんだ。 (通訳さんのほうを向いて)彼女はすごいね。本当に私が言ったことを通訳しているかどうかは分からないけど、とにかくすごいね(笑)。
あの日何をしていたかというと、ちょうど私のテレビ番組が次の日にスタートする予定だったので、「Good Morning America」という朝の人気番組に生で出演していたんだ。ダイアン・ソーヤーというとても有名なキャスターのインタビューを受けていたんだよ。そのインタビュー中に臨時ニュースが入り、それによると、小さな飛行機がワールド・トレード・センターに追突したということだったんだけど、誰もそれほど大きな事故とは思っていなかったんだ。そのインタビューが終わって、次のインタビューを受けるために違うビルに向かっていたところ、そのビルに入ることができなかった。「どうしてなんだ?」と聞くと、「あれを見てみろ」と言われ、その方向を見るとワールド・トレード・センターが燃えていたんだよ。タワーが両方共ね。「これはテロだ」と言われたものの、私の妻のように家でテレビを見ていた人たちは状況が把握できたようだが、私みたいにニューヨークの街中にいた者は何が起こっているのかまるで検討もつかなくて、ワシントンにも飛行機が墜落したとか、ペンタゴンやホワイトハウスにも突っ込んだとか、あと8機来るとか、さまざまな情報が入り乱れていてすごく恐ろしかったね。
ニューヨークでの撮影に関しては、東京と同じで難しいよ。ただし、すごく撮影し甲斐はある。とても生き生きした雰囲気があるからね。私はヘリコプターを使った撮影や、摩天楼のような観光客が見るニューヨークではなくて、道端から見たニューヨークの街を撮りたかったんだ。
遺族の方々にこの映画を観ていただいたが、実はその日が私にとってもアダムにとっても、この映画を製作する中で一番幸せな日だったんだ。“9.11家族会”という組織があるんだが、200~300人くらいの方々が参加していて、彼らは皆ワールド・トレード・センターに激突した飛行機のご遺族たちだ。はじめの頃は彼らから、ソニー・ピクチャーズにもいろいろな問い合わせがあって、例えば、「アダム・サンドラーは9.11で家族を失いながら、その家族のことを全く思い出せないそうじゃないか」とか言われ、とにかく、そういうことに懸念を感じられていたようだ。私としては、「まずは脚本を読んでください」とお願いをした。そして出来上がった作品を観ていただきたかったので、彼らのために試写会を開いて観ていただいたところ、非常にこの映画を気に入り、これが出来たことを心から喜んでいただいたんだよ。皆さんが「この映画が作られてうれしい」と言ってくださったので、この映画に関わる中で、その日は私にとって最高に幸せを感じた日だったんだ。
おそらく、皆さんがご覧になっていて、とっても良い台詞だ、とても知的だと思われた台詞は全て私が書いたもので、あまり良くないなと思われたのは彼らのアドリブだと思っていただければいい(笑)。
アダム・サンドラーは確かにボブ・ディランに似ている。アダムが数年髪を切らないでいたら、ああいう風に見えるわけだ。僕たちもそれに気づいたよ。顔は似ているし、鼻の形も……。彼に3~4年髪を切っていないような鬘をかぶせたら、本当にボブ・ディランに似ていたんだよね。あまりにそっくりで驚いた。私も気に入っていて、変えてみようかという話も出たけど、逆に、ロックンロールのアイドルであるボブ・ディランに似ているというのは良いと思った。ヴィレッジの彷徨える詩人という感じだね。
エディ・ヴェターにザ・フーの名曲のカバーを頼みに行ったのは、彼が素晴らしいシンガーだからだ。でも最初、彼に頼みに行ったときには断られたんだ。「ザ・フーのロジャー・ダルトリーが歌った曲を僕がカバーするなんて、とてもじゃないが出来ない」と言ったんだけど、ロジャー・ダルトリー自身が一緒に彼を説得してくれたので、最終的には引き受けてくれたんだ。エディのバージョンはラジオですごく人気が出たんだよ。
特に理由はなかったけど、現実でも私は女性たちに取り巻かれているからね(笑)。ストーリー上、特にアダム・サンドラーの役は妻と3人の娘がいたので、女性の存在は常にそばにあったわけだよね。彼の面倒を見る大家さんも女性だし、さまざまな女性たちが何かしら彼に関わってくる。またドン・チードル演じるアランにとっても妻はとても大きな存在なんだけど、なかなか彼女には心を開けず思ったことを話せないというところがあるので、彼も問題を抱えているね。
私が捉えたかったニューヨークの街というのは、人々が歩く歩道から見た街なんだ。ヘリコプターの上からだったり、観光客向けのパンフレットに出ているニューヨークとは違う。チャーリーがスクーターに乗って街を走るわけだが、ビルの谷間を走っているという感じがあるね。当初、この映画のタイトルとして私は『Enpty City(空っぽの街)』というのを考えていたんだが、まさにそういうイメージが欲しかったんだよね。1500万人が住む街だとしても、家族を失ったチャーリーにとっては誰もいないような景色にしたかったので、日曜の深夜、ほとんど車が通っていないときに撮影をした。ニューヨーカーたちは、「こんなに車がないニューヨークは見たことがない」と言うけど、まさしくそれを狙ったんだからね。
私自身はニューヨーカーではないんだ。今はロサンゼルスに住んでいるけど、もともとはデトロイト出身だ。そんな私の目からも、9.11の前と後ではニューヨークは大きく変わったと思う。一番大きく変わったのは、こういう衝撃があったことで、他の国の人々や他人の痛み、苦しみに、より共感できるようになったのではないかという気がするよ。
もともとスタンダップ・コメディアンだったというだけあって、フォト・セッションではおどけてみせたりとなかなかお茶目なマイク・バインダー監督だったが、そんな監督が送り出した『再会の街で』は、愛する人を失った経験のある人もない人も、この冬一番心が締め付けられる映画かもしれない。
(文・写真:Maori Matsuura)
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