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2007-11-24 更新
小林政広監督(右)、渡辺真起子(左)
製作・配給:モンキータウンプロダクション、配給協力:バイオタイド
11月24日よりポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次公開
(C)2007 MONKEY TOWN PRODUCTIONS
14歳の少女が同級生を刺殺するという事件が起こった。世間やマスコミの目から逃れた被害者の父と加害者の母が、新天地を求めた北海道で再会。二人に起きる奇跡の愛の物語。スイスで開催された第60回ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)を受賞した『愛の予感』。監督・脚本・主演の3役を務めた小林政広と出演者の渡辺真起子が出席し、凱旋試写とティーチイン記者会見が行われた。
『愛の予感』はグランプリの他にCICAE賞(国際芸術映画評論連盟賞)、ヤング審査員賞、ダニエル・シュミット賞を受賞し、4冠に輝いた。日本人監督によるグランプリ受賞は1961年市川昆監督『野火』、1970年実相寺昭雄監督『無情』以来、37年ぶりの快挙となった。
小林政広監督:皆さん、暑い中をお越しいただいてありがとうございます。今回の映画はまったく自信がなくて、ロカルノにかかるというのが決まった後、他の映画祭の方にも観てもらったりしたのですが、「テンポがのろい」とかいろいろ言われて断られたりしたので、「こういう映画は難しいんだろうなあ」と思って、編集の人と78分まで短くしたのを作ったりしてみたんです。ロカルノに行っても、発表まで死んだような思いでしたので、まだ喜びというか驚いている状態が続いています。
渡辺真起子:今回滞在期間が長かったので、楽しめるかなと思っていたのですが、長い分だけ神経が張り詰めてしまい、身が細るような思いだったのでほっとしたというのが大きいですね。
小林政広監督:ないですね。というのは、プレス関係で受けても駄目なときもありますから……。公式上映の前に、関係者から「プレス試写では誰も席を立たなかった。終わったとたんに“もうこれしかない”という言葉が多く聞かれた」と聞かされましたが“ほんとかな”と思いました。ある評論家からマスコミの評判は良かったけれど、こういうタイプの映画は一般の公式上映での反応は分からないと言われ、ガッカリしたりしていました。
渡辺真起子:他の映画祭で、上映中に人が出て行くという光景を見たことがあるので怖かったですね。上映が終わった後に「これは面白い」と言ってくれる人がいて、どういうことかな、と思ったりしていました。
小林政広監督:前にロカルノに行ったときには特別賞を頂いたのですが、聞いたのは当日でした。今回は前日に電話が入って聞いたんです。他にも賞を貰えると聞きました。
渡辺真起子:「ホントかな、ホントかな」と言って一緒に疑っていたんですよ(笑)。
小林政広監督:イレーヌ(ジャコブ)さんから「フイルム(映画)はたくさんあるけれど、フイルムじゃないのが多い。久しぶりにフイルムを観た」と言っていただいて、うれしかったですね。
小林政広監督:台本を書いたのが随分前で、ある俳優さんにやらないかと聞いたところ、「1年待ってくれ」と言われて待ったんですが、さらに「もう1年待ってくれ」と言われてしまいました。プロの役者さんは台詞がない映画は役作りの準備が大変なようで、この映画は簡単に撮れるもんじゃないということもあったようです。いつものように短期間で撮ろうと思っていたので(註:本作は9人のスタッフで11日間で撮られたという)、自分でやろうと思いました。渡辺さんなら相手役をやってくれるんじゃないかと思って台本を送って、逃げられないように(笑)、家に来てもらったんですよ。一緒に食事をしながら「これをやってくれますか?」と聞いたら、「う〜ん」と言うんだよね、この人(笑)。
渡辺真起子:「相手は誰ですか?」と聞いたら、まさかとは思ったんですが「僕です」と言われ、大丈夫なのかなと思い、「ちょっと考えさせてください」と言いました(笑)。
小林政広監督:最初に見せた台本には絡み(ラブ・シーン)があったんですよ。“マジかよ、コイツ”って目で見られてしまって(笑)。
渡辺真起子:激しい絡みが書かれていたので“マジかよ、コイツ”って思いましたね(笑)。
渡辺真起子:そんなことは言えない(笑)。出演を決めたのは、「撮らなければいけない」という監督の言葉を聞いて、一緒にやらせてもらおうという気持ちになりました。撮らなきゃいけないというのは、辛いけれど楽しいんですよ。
小林政広監督:カメラのこっち側にいると、なるほどな、と思うことがいろいろありましたよ。今まで「こうしてくれ」とか「ああしてくれ」と言われてきましたが、役者ってやっぱり、よく映りたいんだなとか、いろんなことを考えました(笑)。役者の気持ちがよく分かりました。
小林政広監督:シリアスなんですよ〜。いつもそうなんですが、作っていると、喜劇にしたくなっていくんですが、これは映画祭にかけるものだから、笑いは映画祭では受けないんだから、そこをグッとガマンしました(笑)。自分が出ちゃうと、どうしてもやりすぎてしまうんです(笑)。
小林政広監督:映画を作っていると、1本1本作っていくごとに突き詰めていくというか……。普通の商業映画でスポンサーのいるものはプロデューサーにしてもリスキーなことはさせたがらないし、なかなか出来ないものなんですが、僕の場合は自主映画が多くてそういう感覚がないんですよ。どのくらい映画作りを突き詰めて考えられるかというと、余分な部分を全部削ってみたいとか、音楽を入れて主人公の気持ちを説明したり、あおっていくといった部分とかを全部なくしてやってみたいなと思うんです。サイレント映画みたいなところに一度戻って作ってみたいなと思ったり、最初のもの(ラッシュ)を観たときに感じた変な間を大事にしたりとか、絵づくりなんかも自由に撮りたいと考えました。役者の柄本明さんが「ホントは素人が一番いい芝居をするんだ」とよく言っていますが、そういうことなんだなと思います。プロになってしまうと素人には戻れないけれど、8mmで撮っているような、原点に返りたいという気持ちになるんですね。
渡辺真起子:シーンが繰り返されること自体には大変さはあまり感じないんですが、ただ順番が……。これは何日目だったんだろうかとか、これは何があった後のことだったのかとか……。卵なんて何個割ったのか忘れちゃいましたよ、もう(笑)。それくらい割りました。ニワトリサンごめんなさい、みたいな……(笑)。
小林政広監督:この映画を書くきっかけは九州で実際に起きた事件ですが、それは最初のインスピレーションで、映画はフィクションですからそこからどんな風に映画としてのストーリーになっていくかということですね。ドキュメンタリーと混同されることは困るんです。現代的な題材を扱ってはいても自分の映画を作っていくのが僕のやり方で、あまり社会的なメッセージとかいうのはないんですね。映画としてどのくらい自分は納得できるのか、過去の映画作家の人たちにどれだけ追いつけるのかということ。社会的なテーマとかじゃなくて映画は画だと思うんですよ。(海外向けに)『the REBIRTH』というタイトルをつけたんですが、もう一回生きていくためには何かパッションがないと生きていくこともできない、ということを何となく言いたかったんです。部屋に閉じこもって何もしない、出来ないとか、外に出ても妄想に駆られて人を刺してしまったりする人がいて、そういう人たちがもう一回生きていくためには、誰か人を愛することとか、何かエネルギーを持たないといけないということを、自分に向けて作りました。
渡辺真起子:いろいろ考えましたが、社会に向けてのメッセージの答えが出せるはずもなく、俳優として出会ったものに真摯向かうということ、作品に参加することが答えにつながるんじゃないかなと思います。
監督自らが主演し、冒頭とラスト以外セリフも音楽もないという斬新な構成で撮られた本作は、観る側の想像力を大きくかきたてる。映画の中に観客も参加できてしまうという不思議な感覚がある。「受賞の喜びの実感もまだあまりない」と飄々とした表情で語った監督だが、新しい映画表現を実現し、大きな賞を受賞したことで今後の作品への期待は大きい。繰り返しの演技を深みのある演技で魅せた、女優・渡辺真起子への興味もより深まる映画だ。
(文・写真:Sachiko Fukuzumi)
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