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2007-10-16 更新
恐らく近い将来には、警察がテレビに頼らざるを得ないようなことが出てくると思います
瀧本智行監督
1966年10月23日生まれ。早稲田大学政治経済学部除籍後、フリーの助監督として、『鉄道員(ぽっぽや)』(降旗康男監督・99)、『破線のマリス』(井坂聡監督・2000)、『光の雨』(高橋伴明監督・01)、『陽はまた昇る』(佐々部清監督・02)など、多くの監督の作品に参加。また、「月曜ミステリー劇場」「火曜サスペンス劇場」や豊川悦司主演の『弁護士のくず』(06)など、多くのテレビドラマの脚本も手がける。2004年の東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞・特別賞などを受賞した『樹の海』で監督デビュー、本作は第2作目となる。
配給:ショウゲート
10月27日より全国順次ロードショー
(C)2007「犯人に告ぐ」製作委員会
2005年に発表された人気作家・雫井脩介によるミステリー小説『犯人に告ぐ』が、豊川悦司の主演で映画化された。児童連続殺人事件の捜査を巡り錯綜する人間関係を一流のエンタテインメント映画として見事に描いたのは、本作が長編第2作目の瀧本智行監督。撮影に至る経緯から現代社会や組織の問題まで、本作で描かれた世界の背景を語ってもらった。
あのラストシーンは脚本に書いてあったわけではありませんが、最初から決めていました。見開いた眼のアップで終わり、メインタイトルは最後にしか出さないというのは、だいぶ前から決めていました。
僕は“負のオーラ”と呼んでいますが、どこかに影があるところが豊川さんの最大の魅力だと思います。自分なりに原作をかみ砕いて、脚本の福田靖さんと一緒にシナリオを作っていく過程で、この作品の世界観と豊川さんのお持ちになっている要素がピッタリ重なるということで、豊川さんしかいないということになりました
豊川さんが主演された『弁護士のくず』という連続ドラマのシナリオを何本か書きましたが、現場に顔を出してご挨拶したぐらいの関係で、ご一緒したのは今回が初めてです。あのクラスの俳優さんなら当たり前かもしれませんが、ご自分をすごく客観的に見ることが出来る。作品に対する自分なりのビジョンや、どのようにスクリーンで見えているのかを、演じるのと同時に客観的に見る眼を持っていらっしゃる俳優さんだなということは、随所で感じましたね。長髪であったり髭を伸ばしていたりといった巻島刑事の外見は、豊川さんからの提案でした。最初は、“刑事がロン毛?”と思っていたのですが、実際に衣装あわせをしてすっと立たれた時に、なるほどなと見えてくるものがありました。そのように、自分のビジュアルを含めて非常に客観的に作品を判断できる俳優さんです。
たまたま原作を出版直後に読みましたが、ひとりの読者として“面白いな、きっと誰かが撮るだろうな”と思いました。それが巡り巡って自分のところに話が来たわけです。1本目に撮った作品が『樹の海』という樹海で自殺する人たちの話なのですが、エンタテインメントというようなジャンルではなかったので、これを見て僕の名前を挙げたとプロデューサーから聞いた時には少し意外でした。『クローズド・ノート』は拝見していませんが、雫井さんの魅力には、ダイナミックなストーリー展開といったプロットの面白さもあるかと思いますが、僕は人物描写のリアリティ、非常にリアリティを感じられるようなひと癖、ふた癖を持った人物を配置する絶妙さだと思います。長い原作をどうするかということでは、予告編でも売り文句にしていますが、あえて言うと“劇場型犯罪vs劇場型捜査”という部分をずいぶん漉(す)きましたね。そこをもっと強く押し出すことも出来たのかもしれませんし、そうすればハリウッド・タッチの作品になったのかもしれませんが、ぼくが原作を読んで興味を持ったのは生身の人間同士のぶつかり合いです。見えない犯人をテレビを通じてあぶり出すという頭脳戦に焦点をあてる手もあったのでしょうが、警察という組織の中での人間関係を色濃く反映させるようにしました。
最低限のリアリティを求めて、キャリア組の人から話を聞いたりする普通の取材はしました。それよりは、これは横山秀夫さんが「全ての組織は保身と野心と邪心のせめぎ合いで成り立っている」と言われていましたが、保身と野心と邪心は、それぞれに濃淡はありますが、警察内部だけではなく皆が持っていると思います。豊川さんが演じた巻島もただの正義漢ではなく、野心もあるだろうし、6年前の事件のことでは保身の部分もあっただろうし、邪な心もあったと思います。警察は“組織の中の組織”ですから、そういうことのぶつかり合いは面白いと思ったので強く押し出そうとしましたが、キャリアvsノン・キャリア、警視庁vs神奈川県警といった図式の中では捕まえていなかったです。登場人物の心の中でのぶつかり合いのほうを描きたいと思いました。
崔さんは大先輩ですし、助監督として付いたことはありませんが、当然面識はありました。あの役は、普通の俳優さんにはお願いしたくないなと思っていました。いろいろな人を考えても“帯に短し襷に長し”といった状況でしたが、まさに“灯台もと暗し”でふっと崔さんに気が付きました。崔さんは映画監督協会の理事長で、すぐ側にいらっしゃったわけです。ワイドショーなどのコメンテイターとして多くの番組に出演されていますし、あえて失礼な言い方をさせていただくと、テレビに出演されている時にはテレビ屋特有の胡散臭さも何となく醸し出しています。そういうことも含めて、崔さんにお願いしようということになりました。出演をお願いした時には、「スケジュールの調整さえ付けば喜んで!」と快諾していただきましたが、撮影の時にはものすごく緊張されていました。特に、撮影初日にはまっとうな会話も成立しないぐらい緊張されて、ずっとご自分の台詞をブツブツブツブツ呟いていました(笑)。
何ですかねぇ……。映画は好きでしたが、映画監督になろうとは思いませんでした。新聞記者になりたかったのですが、大学に7年在籍したあげくに除籍になって、当然就職試験も受けられないし……。当時は赤坂のクラブ、女の人がいるほうのクラブのマネージャーみたいなバイトをやっていて、このままこういう世界で生きていくのかなと思っていた頃に、大学の映画サークルの先輩から「そんなことをやっているのなら、助監督をやらないか?」みたいなことになり、「はぁ」みたいな感じでこの世界に足を踏み入れました。それから十何年か経って今に至っているわけです。ですから、“映画監督になるぞ!”“映画監督になるのが夢です!”みたいなことは全くなかったです。もちろん映画サークルに入っていましたから、映画は好きで見ていましたが、映画監督は、この世界に入っての現実的な目標というようなことでしょうか。
どうなんでしょうね。まだ2本しか撮っていないので、そういうことは5本、10本撮ってから初めて言えることだと思いますが。若輩の身であえて言うとすると、新聞記者になりたかったことからも現実の世の中に興味を持っているので、ファンタジーには興味はありません。現実の世の中とどう向き合うとか、よく“時代と寝る”みたいな言い回しをする監督もいますが、そういう感覚はずっと持っていると思います。
HD24Pで撮影しています。色の調整には現場の作業と仕上げの作業がありますが、通常は仕上げで全部やってしまいます。今回のカメラマンがすごくこだわりのある人で、もちろん仕上げの段階でも色は調整しましたが。カメラ・テストを3~4回やってからトーンを決めるための試行錯誤を繰り返しました。本当はフィルムで撮れれば良かったのですが、予算の関係で許されないということになり、それならばビデオで考えられる最高のクオリティ、映像世界の製作をということになりました。恐らく、こういったストーリーは映像がものすごく世界観を決めていくと思ったので、その世界観のトーンはカメラマンも探ったし、僕も随分探ったような気がします。
見ることは出来ますが、僕はモニターをほとんど見ないので、カメラマンがモニターで確認しながら色が落ちたような感じを現場である程度出しました。仕上げだけで色を調整するとおそらくすごくビデオっぽい画像になるのでしょうが、そういった画像は現場の試行錯誤を経ていないのです。現場でやれる最善のことを尽くした上で、仕上げで最終的な色を決めていきました。どういうトーンがこの作品に合うのかというところから、逆算して仕上げていきました。ここは現場でやらないと出来ないということも、カメラマンがきっちり計算してくれました。
巻島みたいなことまでやる人はいないでしょうが、おそらく近い将来には、警察がテレビに頼らざるを得ないようなことが出てくると思います。それぐらい、世の中の人と人との繋がりが希薄になり、人の顔が見えなくなってきています。こういうことでもしない限り、犯人にたどり着くのが難しいような種類の犯罪が、おそらく増えてくると思います。功罪という意味でいえば、この映画ではテレビというメディアを割と批判的に描いていますし、僕の意識の中にもどこかにそういう部分があります。テレビは、必ず自分で持ち上げて自分で叩くという、新聞もそうですが、メディアというのはそういうものだと思います。メディアが自分でたきつけて、自分で火消しをする繰り返しみたいなことで、事件を消費しています。いろいろなことを消費することがメディアの本質で、そのことについては止めようがないのではないか? この点については、非常に悲観的に考えています。今のようなインターネットの時代になってくると、モグラ叩きではないけれど、祭り上げて叩くことは人間の本能の中にあるのでしょうか? そういった人間の本能がこういったメディアを生んだのか、鶏と卵のどちらが先かは判りませんが、そういうことがあるような気がして、これに対してはある種の絶望的な気分を持っています。
『犯人に告ぐ』は、今年の邦画でトップ・クラスに入るだろうと思われるクオリティの骨太な娯楽作品だが、お話を伺った瀧本智行監督も、落ち着いた語り口の中から社会や映画に対する腰の据わった視点が感じられた。本作を1人でも多くの方に観てもらいたいのはもちろんだが、今から次回作以降での活躍が楽しみな監督だ。
(文・写真:Kei Hirai)
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