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『サルバドールの朝』単独インタビュー

2007-09-24 更新

マヌエル・ウエルガ監督


サルバドールの朝salvador
© Mediapro- Future Films

マヌエル・ウエルガ監督

 1957年スペイン、バルセロナ生まれ。
 若い頃からビデオ制作に関わり、その手腕を発揮してきたが、1995年に映画『Antarida』を初監督、その後も様々なメディアでジャンルを問わず活動している。2004年にはオペラ監督も努めた。
 『サルバドールの朝』は劇映画2作目となる。



 フランス支配体制末期の1974年、警官殺しの罪で投獄されたサルバドールは、正義をゆがめられ、不当な裁判によって処刑されてしまう。国家を大きく変えたこの事件は、今も人々の心に多くを語りかけている。その史実を映画化した『サルバドールの朝』のマヌエル・ウエルガ監督が来日、インタビューに応えてくれた。


サルバトールの事件から35年を経て、今何故この映画を作られたのでしょうか?

 今でもこの映画から様々な教訓を学ぶことが出来ると思うんだ。今の若者たちはサルバドールが持っていたような批判的なエネルギーが希薄なような気がしているが、それは危険な傾向だ。若者たちが体制的になっていることは問題だと思っている。再度、若者たちに意識の覚醒をして欲しいという気持ちから、この映画を作ったんだ。


いつ頃から映画を作りたいと思っていたのですか?

 若いときから映画は大好きだった。本作は劇映画の2作目になるが、1作目も2作目も偶然の出会いから作ることになったんだ。プロデューサーが以前からサルバトールの映画を作りたいと思っていて、私に提案してきたんだよ。


主要キャストはどんな点を重視して選ばれましたか?

 第一に、いい俳優であるということ。それ以外の付加価値としては、ダニエル・ブリュール(サルバドール役)は、バルセロナ生まれでスペイン語とカタロニア語を完璧に話すことができたということがある。それと、この映画で国際的な市場を狙って行きたいと考えていたので、国際的に知られている俳優のほうがいいと考えたんだ。(看守ヘスス役の)レオナルド・スバラグリアはラテン・アメリカで、(弁護士役の)トリスタン・ウヨアはスペインでとても有名な俳優なんだよ。


現場では若い俳優たちにどのような指導をされたのでしょうか?

 様々な資料や文書もあったが、俳優たちは自分が演じる役の人に実際に会いに行き、話を聞いたりしていたようだ。


サルバドールの雨の葬儀シーンが感動的でしたが、現場ではどのように撮影されたのでしょうか?

salvador 普通、手品師(監督)というのは手の内にある技は見せないものなんだが……(笑)。あのシーンが感動的に映ったとすれば、映画のマジックが成功したんだね。現場では人工の雨を降らしたので、その雨に濡れながら演じる俳優やスタッフたちは必ずしも快適な状況ではなかったと思う。他のシーンだが、サルバドールが処刑される前に家族が集まるシーンでは俳優たちの感情が高ぶってしまい、涙を見せてほしくないシーンで泣き出したりして、感情をあまり出さないでくれと、私のほうから抑える場面があったね。


サルバドールが刑務所に入っているときに小さな妹が面会に来るシーンで、鉄格子をへだてながら、妹に目を閉じさせ、二人で架空の旅をするところが印象に残りました。どのような意図で描かれたのでしょうか?

 サルバドールは下の妹に深い愛情を注いでいた。自分が複雑な状況に置かれていることで妹を悲しませたくないと思い、面会で会うたびにファンタジックな話を二人でしていた、と妹さんから聞いたので、あのシーンを入れたんだ。


サルバドールは戦争で死刑の判決を受けたけれど、恩赦で出てきた父親をどのように見ていたと思われますか?

salvador 母親が父親のことを「自分が結婚した男が、戦争が終わったら別人になって帰ってきた」と言う場面があるが、サルバドールは父親のことを、赦免されて帰っては来たが、死刑の恐怖からは抜け出すことができずに生きてきた人と、見ているのではないかな。お互いのコミュニケーションをなかなか持てなかったことにも関係があると思われるけど、サルバドールは刑務所から出ても、父親のように恐怖心にさいなまれながら生きるよりは、毅然とした気持ちで死んだほうがいい、と考えたのではないだろうか。


本作の中に『卒業』と『大人は判ってくれない』という映画のタイトルが出てきますが、どのような意図で取り入れられたのですか?

 『卒業』は時代背景を分かって欲しくて取り入れたんだ。『大人は判ってくれない』という映画はサルバドールのお姉さんが実際に、そのときに観に行っていた映画なんだ。


鉄環処刑される際に、サルバドールは一切取れ乱したりしなかったのは強い意志の表れだと思いますが、人はどんなときにそのように強くなれると思われますか?

salvador サルバドールが処刑されたときは、多くの人が見ていた。全ての人が「サルバドールは、取り乱すこともエキセントリックになることもなく、毅然とした態度で、強さを見せた」と言っていたんだ。サルバドールは一度も後悔を口にすることはなかった。思うに、どうしようもない、全く可能性もない世の中で生きているよりは、死んだほうがいいと思っていたと想像できるんだ。だからこそ、死に強く直面できたんだと思う。


今の時代、暴力を使わずに体制側に打撃を与えるにはどのような方法があると思われますか?

salvador テロというのは自分たちの暴力行為によって、社会に無差別に恐怖を植えつけることが目的で行われる行為だと思う。サルバトールの行為は労働闘争をしている人たちを助けようとする行為で、ロビン・フッドのようなものだ。世の中を変えるためには、社会(市民)自体が変わる必要を強く感じなければいけないのではないかな。変えるための情報や明晰な頭脳、強い意志も必要だろう。今の社会は快楽に溺れる傾向が見られ、犠牲になっているものに目をつぶってしまっている。意識を覚醒させることが、変わるための第一歩だと思うよ。

ファクトリー・ティータイム

自由を得るために、勇敢に戦った若者たちの思想や行為を支持できない人もこの映画から目を背けることはできない。不当な裁判で正義を歪められ、処刑されていった一人の若者=サルバトールの存在は国を大きく変えた。この真実の物語は私たちにも多くを語り、人間としての真実の強さを教えてくれる。責任ときちんと向き合う自分というものを確立させることの必要性を教えてくれる。この映画をしっかりと受け止めて欲しい。

(取材・文・写真:Sachiko Fukuzumi)


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