2007-08-10 更新
飯塚 健監督
飯塚 健
1979年、群馬県生まれ。
2002年に自主映画『サマーヌード』で監督デビュー。
中編『金髪スリーデイズ35℃』(03)、オムニバス『天使が降りた日』(05)に続き発表した『放浪物語』(06)では同名の小説も執筆。
07年には、新進映像クリエーター18名が1日をテーマに24時間で撮り上げるインターネット発のオムニバス作品『ハヴァ、ナイスデイ』に参加する。
また、お笑いコンビの“あさりど”としても知られている川本 成、俳優の平沼紀久と共に、演劇ユニット“時速246”を結成。その旗揚げ公演『ファニーバニー』では脚本と演出を担当し、話題を呼んでいる。
関めぐみ、貫地谷しほり、徳永えりが主演のラブ・コメディ『彩恋(さいれん)』が公開された。メガホンを取ったのは弱冠28歳の新鋭・飯塚 健。演劇、文芸の世界でも活躍するマルチなクリエーターが、自らの創作活動と『彩恋』の魅力を語ってくれた。
特に理由はないですが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という映画がとても大好きで、中学生の頃から漠然と映画監督になろうと思っていました。理由があるからやろうというよりも、やってみたかったという気持ちのほうが強かったですね。正直なところ、監督は何をする人なのか分かりませんでしたが、とりあえず撮ってみたかったわけです。
特に映画の勉強はしないで、自主映画を作り始めました。
いえ、PFFに応募したことはないですね。
『サマーヌード』という作品ですが、本当にゼロから自分たちでやり、公開まで持っていきました。とにかく、賞に出すという発想があまりなく、1800円いただけるものを作ろうと思っていました。劇場で公開されるのが映画だと思っていたので、それを作りたかったのですね。
いえ、35mmで撮ったのでフィルム代もかかりました。
そうですね。今ならハイビジョンで撮るかもしれませんが、撮影当時は僕が22歳のとき(2001年)だったので。フィルムで撮ろうと言い出したのは『ウォーターボーイズ』などを撮られた撮影監督の長田勇市さんで、「後のことを考えると、デビュー作を35mmで撮ったか撮らないかはすごく大きい。フィルムのことは俺がちゃんとやるから、35mmで撮れ」という話でした。でも、それ以来、35mmで撮ったことはありませんが(笑)。もし『彩恋』をフィルムで撮っていたら、おそらくスケジュール内では撮り切れませんでした。
たぶん、“愛”だと思います。
すごく夢のない答えをすると、そういう企画だったからです(笑)。(プロデューサーに)前作(『放郷物語』)を見ていただいたところ、女子高校生モノをオリジナルで撮って欲しいということになりました。“また女子高校生か、困ったなぁ”と思いながら脚本を書き進めたので、なぜ女子高校生3人なのか?と聞かれるのはすごく困りますね(笑)。一番困ります。特に理由はないですが、2人より3人のほうが、トリオ構造のほうが出来事を起こしやすいだろうなとは思いました。
まず日本語のタイトルにしたい、そして字面が美しく文学的な匂いがする、縦書きにしたときに趣があるような漢字が良いなと思いました。
関の出演作は事前に1本も見ていませんでしたし、貫地谷は『スウィングガールズ』だけ、徳永も(監督作品『放郷物語』以外は)1本も見ていません。プロデューサーとのキャスティング会議でオファーを出して、オーディションというほどではないですが、とりあえず1回会って決めました。皆芯が一本通っていて役柄にマッチしているのが選んだ根本的な理由です。並んだときのバランスやお会いしたときの直感もありますが、3人とも感性が同じで、日本語や台本のとらえ方がすごく面白い子たちです。
関は、とても面白い女性ですね。例えば、NOという意味での「いえ」という台詞があるのですが、演出を説明していると、「あぁ、なるほどなるほど、ということはピヨっていう感じですかね?」といって、台本に“ピヨ”と書き込んでいました。そういうところがチョット面白いし、変わっているなと思いました。変わっているというよりも、関は男前の人ですね。貫地谷はすごく自由な人間です。いつもチョロチョロチョロチョロしている感じなんですよ。徳永は、良い意味で考えて芝居をするようになったし、本人にも言ったのですが考えすぎるようにもなりました。彼女とは2作目ですが、保護者のような気持ちでしたね。関と貫地谷は同い年で撮影当時は20歳、徳永は2歳ぐらい下です。そこの二つの差って、すごく微妙だと思いませんか? 例えば、30歳と28歳での二つの差と比べると、20歳と18歳でのしかも女優さんの二つの差ってすごく大きいですよね。
実はこの作品は3人一緒のシーンはそれほど多くないのですが、カメラが回っていないときも割とつるんで和気藹々としていました。3人とも頭の回転は速いですね。余り多くを語らなくても、脚本の字面からいろいろなものをキャッチしてくれる。役者さんは脚本の段階でキャラクターを掴み、面白いと感じるから出てくれるのだと思いますが、現場やリハーサルでけっこう大きなズレが生じる場合もあります。でも、今回はそういうことはなかったです。カットの都合で間をもっと詰めてくれということはあったとしても、現場でのキャラクター作りの大幅修正はほとんどありませんでした。すごく勘の良い人たちでしたね。
犬吠埼の観光ホテルに皆で泊まっていましたが、露店風呂がある良い環境でした。昼間のいろいろな疲れを落とそうと風呂に行くと、必然的に皆が顔を合わせるので、そういった点もタイトなスケジュールの中での癒しになりました。
普通に生きていると思いますし、これは宣伝ですが、小説(小学館より発売中)に少しだけ書いてあるので読んで下さい(笑)。小説では、12年後の視点から映画の舞台となった頃を振り返っていますから。
きたろうさんと奥貫さんは、台本を書いている段階からご一緒したいなと思っていました。温水さんと高杉さんは、テレビなどで活躍ぶりを拝見しているときからいつか仕事をしたいなと思っていて、ようやく実現しました。
音楽は好きですね。サントラを出す関係で、この映画の立ち上げの段階から歌モノは8曲以上入れてくれというプロデュース側からの要請がありました。GOING UNDER GROUND の「サンキュー」とくるりの「ばらの花」は、脚本を書いている段階から聞き、絶対にこれは使いたいなと思っていましたが、他の曲は編集段階で捜してきました。サウナのシーン以外はPV的なつなぎではないので、ハマる曲を捜すのは大変な作業でした。歌モノを入れると、台詞をつぶすなどいろいろなデメリットがあるにもかかわらず、すごく良い曲を選ぶことが出来たと思います。歌モノを使うと、その曲を聴いていた頃を郷愁しやすいですよね。
はい、そうです。
そうですね。家では、だいたい音楽がずっと流れていますね。
ここは、僕が大変でしたよと言ってはいけないのですが、本当に大変でしたね。プロデューサーに頑張っていただきました。
たまにPVなどはやっています。スケジュール的に監督は無理だったのでやっていませんが、AAA(トリプルエー)の次の新曲のショート・フィルムの脚本をやっています。こういった仕事をイレギュラーでやったりしています。
もともと演劇はきたろうさんに誘われて一緒のユニットでやっていましたが、別のところからもお話をいただいき、演劇ユニット“時速246”の立ちあげに参加しました。演劇は年に2回はやっていますが、次回は来年の10月17日からシアターVでやります。以前は自分で演劇のチケットを買って観たこともなかったですが、この業界で仕事をさせていただくようになってからは、いろいろな事務所さんから招待券やご案内をいただいて観させていただくようになりました。何が面白いのか余り分からなかったのですが、やっているうちに、映画とはとらえ方が全然違うし、映画では出来ないことが出来るなとすごく感じました。制限はありますが、ある意味では映画より自由度が高いですし、今は年に2本だったらライフワーク的にもちょうど良いかなと思っています。今後は映画の撮りつつ、演劇もやりつつ、小説も書きつつみたいな感じです。
覚えることはそれほど難しくはないという役者さんは、結構多いですね。「やれば覚えられますよ」とよく言われます。すごく膨大な量であっても、覚えることは覚えられるらしいんですよ。ただ、それを生で、あれだけ客がいる前で同じことが出来るのは、やはり役者ってすごいなと思いますし、そこに敬意を払うべきだなと思います。こちらは好き勝手に書いて、好き勝手に演出しているだけですから、客前に立つわけではないので。すごいですよね、あの緊張感は。
最近では『リトル・ミス・サンシャイン』が好きでしたね。ミニバスでアメリカを移動していく話ですが、日本では絶対に通らない企画だな、やはりすごい国だなと思いました。『季節の中で』はご存知ですか? ベトナム生まれでアメリカ育ちのトニー・ブイ監督の作品で、ハーヴェイ・カイテルが出演兼製作総指揮をやった映画ですが、これもとても好きです。
具体的な予定もありますが、まだ言えません。相変わらず、生きることをテーマにいろいろな切り口で撮れれば良いかなと思っています。コンスタントに発表することが大事だと思うので、次々にといった感じで、“いつ脚本を書いているんだ?”と思われるぐらいのペースでやりたいなと思っています(笑)。
難しいことは一切ない映画なので、何も考えずにスパッと楽しんでいただけたらいいなと思います。90分強の上映時間の間に、現実を忘れて元気になっていただけたらすごくうれしいですね。
映画のみならず、舞台活動でも小説家としても実績を残してきた飯塚 健監督。今後もマルチな活動は続けていくとのことだが、今後はジャンルの壁を越えた斬新な作品も楽しめそうだ。
(取材・文・写真:Kei Hirai)
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