2022-08-05 更新
山内マリコ<リアル登壇>、ケリー・オサリヴァン<オンライン登壇>
これまでタブー視されることの多かった、生理、避妊、中絶――女性の身体にのしかかるさまざまな負担や精神的プレッシャー、セクシャル・マイノリティーの人々が直面する社会的な差別といったリアルをユーモアと軽やかさをもって見事なバランスで描き、グレタ・ガーウィグに続く才能と絶賛され、アメリカで開催された世界最大のエンタメカンファレンスイベント「SXSWフィルムフェスティバル2019」では観客賞と審査員特別賞受賞した『セイント・フランシス』(8/19公開)。本作の公開を記念し、作家の山内マリコが登壇、本作の主演&脚本を務めるケリー・オサリヴァンとの海を越えたトークイベントが開催された。
「主人公との共通点は本当にたくさんある」というケリー・オサリヴァン。本作の主人公ブリジットと同じく「実際にナニーを経験したということ、そして中絶を経験した」というこれまでの人生における2つの大きな出来事を映画にするという特性上、ある程度は誇張しつつも「非常にリアルな真実味を持ってこの作品に取り組むことができた」と明かす。
<アメリカの名門校(ノースウエスタン大学)のクリエイティブ・ライティングプログラムに1年だけ通っていた>というブリジットの“秀才”キャラクター設定について言及した山内。「そこで彼女はネクスト<シルヴィア・プラス(アメリカの女流詩人)>と同級生から言われていたという設定ですが、でもこの夏彼女はずっとハリーポッターを読んでいるっていう設定が、すごくギャップがあって面白いなと思いました」と言及。
そのことについてケリーは「(ハリー・ポッターは)実は当時、本作の脚本を書きながら私が読んでいたんです。だから登場するのがハリー・ポッターだったんです(笑)」と述べ、しかし「ブリジットにとっては、子どもの感情に戻るというひと夏だった、ということをある意味示していますね。確かにブリジットは、シルヴィア・プラスであったり、ある意味で詩といった<高尚>と言われるものを読んでいたけれど、でもそういったものが、劣るのかというともちろんそうではなく、同様に深みのあるものだと思います。ですからこの夏は、ブリジットにとって社会が、ある意味レッテルを貼るというか、これは高尚なものだとか、これが成功だとか決めつけたものから少し外れて考えるというための夏だったのかな」と語った。
ブリジットの<親友>が電話でしか登場しないことにも山内は着目。「本作は、ブリジットとフランシスの物語ですが、この2人を結びつける親友のダナが、スクリーンには一度も登場しない。ブリジットの親友ですよね? ダナが登場しないことに何か意味があるのかな?と思いました」と伝えると、ケリーは「ダナを出さなかったというのは、ブリジットがいかに孤立しているのかというのを見せたかったため」だと明かした。「だからブリジットが中絶をしたということは、ダナを含め誰にも相談はしていないです。友達の多くが、子育てや仕事など彼女と別の次元にいて忙しいわけですよね」とリアルな現実を描写。「最初はダナもブリジットをサポートしてナニーになるように、紹介はしてはくれるものの、その後は自分の子育てて忙しくて構えないのです。だから、ブリジットは頼れる人が誰もいない」。でも、だからこそ「彼女がナニーとして関わることになるフランシスの家族に深く結びつくことができる、とも言えます」とその意図を語った。
山内はケリーに対して「ブリジットが中学生までカトリックだったということと、でも彼女が当たり前のように中絶を選択するということについて、そこにこめた想いなどを聞かせてください」と、劇中登場する中絶シーンについても質問。ケリーは「私は幼稚園から14歳くらいまでアイルランド系のカトリックの学校に通っていました。ただ、私は聖母マリアの処女受胎を信じていたかというと、そういうわけではないです。ですからこの作品を通してずっとカトリックというものが影のようについて回って存在してるんですよね。カトリックではもちろん中絶は罪と言われ、大罪なわけですよね。でもブリジットはそういう背景を持っていても、今はもう信じていない。反して、ナニー先の家族であるマヤはカトリックを信じて非常に愛着を持っている。そのため、この2人の関係を通じて、その宗教観というものが明らかになり、ブリジットは大人になるにつれ中絶は罪という気持ちを持ちながらも現実的な人生の選択というものを考え、あと知的レベルではそれは罪ではないと分かっていても、どこか心の奥底にある自分と向き合わなければという部分があった」と思い返した。
最後、日本の観客に向けて「来てくださってありがとう! 今日のディスカッションを楽しみました」と日本の観客に向けてメッセージを送ったケリー。「心の中で何度もスタンディングオベーションを送りました。女子のリアルがこんなにも自然に詰まった映画は、ちょっと他にない」と絶賛の声を送る山内マリコと共に、その見どころを本音で語り合った貴重な機会となった。
<山内マリコ(作家)による本作へ寄せたコメント>
Bravaaaaa!!! 心の中で何度もスタンディングオベーションを送りました。
女子のリアルがこんなにも自然に詰まった映画は、ちょっと他にない。
月に一度の生理、産む性であることの憂鬱、中絶。
それをこんなふうに描けるなんて、魔法だし、発明だ。
私たちを抱きしめてくれる映画。傑作。
(オフィシャル素材提供)
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