2007-08-09 更新
河合龍之介
河合龍之介
1983年5月23日生まれ、東京都出身。2005年、舞台『テニスの王子様』で本格的デビュー。
<代表作>
2006年 映画『真夜中の少女たち』(監督:堀江 慶)
2007年 ショートムービー『歩道橋の海』主演(監督:廣田正興)
2007年 映画『TOPLESS』(監督:内田英治)
2007年 映画『ふぞろいな秘密』主演(監督:石原真理子)
舞台「テニスの王子様」でブレイクした斎藤 工と河合龍之介という今期待の若手俳優が、友情を超える想いで互いに惹かれ合う大学生を瑞々しく演じている『いつかの君へ』。監督は、『ベロニカは死ぬことにした』が話題を呼んだ堀江 慶。『真夜中の少女たち』で仕事をして以来、監督に絶対の信頼を寄せている河合龍之介が、本作と映画全般への想いを語ってくれた。
そうです。父がつけてくれました。僕には妹がいるんですけど、妹の名前は僕がつけたんです。4~5歳の頃でしたが、当時大好きだった絵本があって、それが兄妹の話だったんですよ。その妹の名前をしょっちゅう口にしていたらしくて(笑)。
全く関係ない専攻だったんですよ。ただ、もともと大学に入る前から映画の仕事はしたいと思っていたんです。で、ちょうど高校を卒業する頃にスカウトされたんですが、役者は全然やる気がなくて、どちらかというと作り手側になりたかったので……。だから、役者をやっていたら作り手側の仕事も見られるな、くらいの感じだったんですよね、最初は。今はいろいろと勉強させていただいています。
いや~、それは恐れ多くて言えないですよ。でも、結果論ですね。今、役者を一生懸命やって積み上げていった結果、自分の映画が撮れる機会が生まれたらやってみたいという気持ちはありますけど。「映画監督、やりてー!」だなんて、今はとても言えないです。監督という仕事がとても神聖なものだとよく分かっていますし、一筋縄ではいかない仕事ですよ。多くの責任を負わなくてはいけませんし。
やっぱり人間力じゃないでしょうか。良い作品を撮る技術があっても、映画は一人じゃ作れないですからね。周りのスタッフがついてきてくれるような人でないといけないと思います。
実は、最初に興味があったのが脚本と編集だったんですよ。最近、東京芸大の学生さんと親しくさせてもらっていて、ついこの前、自分が出た短編映画(註:『浅草の姉妹』)の編集作業を見学しに行ってきたんです。これまで編集作業って見たことがなかったんですけど、すごく大変そうで、でも面白くもありましたね。そこで分かったのは、編集ってどれだけ譲歩ができるかなんだなということでした。それぞれの担当の人たちがみんな、ポリシーを持ってやっているわけですよ。編集、脚本家、役者それぞれが。だから、自分はこれがいいと思って作り上げても、それぞれの要求があるわけですから、なかなか思い通りにはいかなくて、また最終的に監督の要求がありますから、それに沿う形でまとめ上げなければならないので、皆さんそれぞれに歯がゆさを感じつつも、最後には納得のいくものに仕上げていくんですね。編集というのは、ワンカットちょっと変えただけで話が全く変わってしまう世界なので、かなりシビアですよ。
僕は、どれだけ短い尺で物語を伝えられるかが勝負だと思っているところがあります。短い尺で良い作品を撮っている監督さんは本当にすごいなと思いますね。
いえいえ、僕なんか全然シネフィルじゃありません。ただの映画バカです。早くシネフィルになりたいですよ(笑)。芸大の人たちと話していると本当にマニアックで、でもああいう環境で勉強できるって、なんかいいですよね。僕も普通の大学じゃなくて、ああいう所に行きたかったなと思いましたよ。僕は大学行ってて、自分の学部の授業なんて全く受けてなかったですから(笑)。映画監督や著名人が講演に来るというときだけ学校に行って、潜り込んで授業を聞いていたりとか、そんなことしかしていなかったですね。
映画サークルや演劇サークルに入ろうかなぁ~と思って、見に行った時期もあったんですけど、なんか肌に合わなかったんでしょうね。全然入る気になれなかったんです。実は、政治経済サークルみたいなところに引っ張り込まれて、一時期入っていたことはあったんですよ(笑)。全く知らない世界に行きたいという気持ちはあったんですけど、日本経済とか政治について延々と語り合ってて、でも僕は全然そういうことには興味ないし、議論することに全く意義を見出せなかったんですよね。「すみません、もう辞めます」って、すぐ辞めてしまいました(笑)。僕、大学2年までバスケットをやってて、引退した後にそういう所をフラフラしていたんですけど、そもそも大学というものに興味がなくなっちゃって。もちろん、素晴らしい人たちもたくさんいて、刺激的な所だったんですけど、思っていた以上に面白くなくて……。当時、車で来ているヤツが一人いて、とりあえず学校までは行くんだけど、「今日、授業出ないで海にでも行こうか」なんて、みんなで遊びに行ってしまったり、そんな記憶しかないですね(笑)。
そうですね。僕自身、ちょっと早瀬くんに似ている部分もありましたし。
う~ん、性格的にはそうですね。酒でも飲めばこれくらい陽気にもなれるんですけど、普段はそんなには明るくないんで(笑)。
作っていくというよりも、自分の中から引き出していくのが大変でしたね。僕も思い返してみると、小学生の頃はすごくヤンチャで、この早瀬という役に近い部分はあったんですよ。結構人の中に土足でガンガン入っていったりして。早瀬と違っていたのは、僕の場合、そうやって嫌われるっていう(笑)。でも早瀬は、他人の心に踏み入っても、受け入れてくれる仲間がいて恵まれていましたよね。そういう人柄ということもあったんでしょうが。憎めない男の子ですから、そういう純真さを表現するのが大変でした。
そうですね。工くんや他の役者さんに影響されながら芝居をやらなければいけませんでしたから。早瀬って、この作品におけるストーリーテラーなので、彼がどれくらい揺さぶられるかでこの物語の運命が決まってきてしまうと、監督にも念を押されました。監督は僕に対して、一番注文が多かったんじゃないかな。他に言われたのは、相手によって早瀬のリアクションは微妙に変わっていくので、その時々でテンションのメリハリをしっかりつけてくれ、ということでした。ちょっと気が抜けるとテンションが低くなっちゃうんで(笑)。
もう、それだけですね(笑)。堀江監督、斎藤 工くんという2人の人間が関わったということで、「オレ、やりたい!」と、即出演を決めました。作品の内容とかも全く聞いていない段階だったんですけど(笑)。どういう作品であれ、堀江さんが必ず良い作品に仕上げてくれると信じていましたし、工くんとやれば良い作品が出来るという信頼があったんです。
堀江さんはもともと役者をやっていたので、役者の目線に立ち返られる人です。工くんも一役者として面白い人だし、彼も最初、作り手志望だったんですよね。目線が僕と一緒ですし、地に足をつけてやっている役者さんという印象があります。だから僕、彼とは業界の中でも一番親しいんじゃないかな。プライベートでベタベタと遊ぶような関係ではないんですけど、こうやって一緒に仕事をする機会があったり、たまにフットサルとかやるんですが、そういうときでも気兼ねなく遊べるし、本当に良い関係なんですよね。
僕、ないんですよ(笑)。全然なくて、「もうちょっとハングリーになったほうがいいよ」といろいろな方に言われたりはするんですけどね。「僕は……いいです」って感じで(笑)。
ええ。最終的には堀江さんと脚本家のなるせゆうせいさんが、大幅に書き換えたんです。最初は結構ベタベタな“男と男”の話だったんですけど(笑)、間口をもっと広げたいという思いがあったんですよね。今、BL(ボーイズ・ラブ)ものが流行っていますよね? 最初の脚本は、まさにそういったジャンルが好きな女性たちに客層を限定してしまうような内容だったんですが、もっと幅広い方たちに観ていただき共感を抱ける話にしたいということで、堀江さんとなるせさんで書き換えた結果が今回の作品になったわけです。
そうなんです。これ、原案があって、僕も全部は読んでいなくて大体の内容を伺っていたんですけど、やっぱり結構リアルに描かれていまして。でも、それ以外にもっと伝えていくべきところがあって、僕らはそれをすべきだろうと思ったんです。結果的に仕上がったものは、男の目から見てもしっくりするものがありましたね。見る前は“恥ずかしいかなぁ”という懸念もあったんですけど、全然違和感がなかったので安心しました。むしろ、すごく切ない気持ちになったので、これは成功だなと思いました。
撮影に入る前はありましたよ、確かに。工くんと「照れるよな」って(笑)。でも逆に、信頼しているからこそ出来たシーンというのがほとんどだったと実感しました。キス・シーンだったり、指をバクッ!とくわえちゃうシーンもあるんですけど、ああいうのはもう、ノリノリでやりました(笑)。
ええ、皆さんがそう思ってくださるのはありがたいですね。
やっぱり、僕もそうなんですけど、同性に惹かれる瞬間ってあるんですよ。それは主に尊敬からなんですけど。愛ではないし、僕は男性を好きになったことはないんですけど、その人がすごく特別な存在に見えたりとか、強い想いを感じたりした経験はあります。
才能ですね。人間性もありますが。その才能に嫉妬するということもあります。役者をやっていると、尊敬する人というのはたくさん現れますよ。だから、その延長線上にある感情なんじゃないかな、今回の場合も。これがまた、愛に変わってくると描き方も変えざるを得ないと思いますが、僕が演じていた方向性はそっちのほうだという意識だったんです。
工くんと僕で「あぁ、良かったね」と言い合ったシーンはカメラ・バトルだったんですけど、僕自身だとすると、ノボルが海外留学の話をされているときに早瀬が部屋の外で一人聞いているという、ただそれだけのシーンが一番忘れられないんです。やっていて、客観的にいろいろとイメージできたんですよね。意外と、自分で“良い芝居が出来たなぁ”と思ったときはダメで、逆に“ダメだ……”と思ったときほど良かったりして、結構そういう矛盾の中で芝居していたんですけど、そのシーンだけは珍しく自分がイメージしていたものに近づけることが出来ました。ただ一瞬のことだったんですけど、その状態をどうやって作ったのか自分でも分からないんですよね。やっぱり客観的に自分を見ていて、バランス良く芝居が出来ていたのかな、と。あれはそういうシーンだったので、その経験が本当に今回、自分の糧になりましたね。本来はいつも、あれぐらいの余裕を持って芝居をしたいものです。熱演したわけじゃないし、芝居をサボっていたわけでもなく、ちょうどその中間くらいな感じでやれましたから。
僕ね、正直言うと、あまり役柄の気持ちというものを意識しなくなったんですよ。“オレ、気持ちできてるぞ”と思ったときほど、表には出ていなかったりしたことが多かったんですよね。それはたぶん、技術的な問題でもあったと思うんですけど。気持ちは本当に大事ですが、気持ちというより、役に対する想いというものは大事にしたいですね。僕は気持ちって、後付けだと思うんですよ。芝居をやった結果、後から来るものだと思うので、気持ちから入ると僕の場合はあまり良いことがありません(笑)。
芝居は本当に難しいですよ。僕はまだ分かっていない部分がたくさんあります。だから、僕自身の現在のベストなやり方は、客観的な目を持つということなんですよ。自分がどう見えているかというのが少しでも分かると、やれる気がするので。最近はもう、脚本も気持ちでは全然読まないですね。“この監督だったらどう撮るのかな”とか“自分だったら……”とか、まず絵を浮かべて入ります。気持ちというのは本当に厄介なものですよ。
そうですね。最初は簡単な段取りを監督につけてもらったんですけど、途中から結構アドリブが入ってきました。ホント、あのシーンは見るまで心配で心配で(笑)。
やってないですね。残しておくものに、最近全然興味がなくて……って、結構矛盾してますよね、映画が好きとか言ってるくせに(笑)。
これこれのテーマで撮ってみてとか言われたら、僕は一生懸命撮るんですよ、きっと。でも、普段からカメラを持ち歩いているということはありませんね。
あぁ(笑)。最初、新宿ゴールデン街に行ってハマったんですよ。新宿はもともと通り道でしたし、あの町の面白さは分かっていたんですけど、ゴールデン街に行ったときに一気に目覚めました、“何なんだ、この街は!?”と思って。東口、西口、南口でそれぞれ違いますよね? 西口もビル街に行けばサラリーマンの街だし、駅のほうに行けば“しょんべん横丁”とかあるし、どこに行っても雰囲気が違うので、“こんな面白い街、ないな”と思って、結構ブラブラ歩き回ったりしていたんですけど、最近引っ越したので新宿を通らなくなったんですよ。なかなか行けなくなっちゃいました。
今回、『いつかの君へ』という映画に出演させていただきました河合龍之介です。大好きな監督、大好きな役者さんとお仕事をさせていただき、すごく切ない良いお話になりましたので、男女年齢問わず、いろいろな方々に観ていただきたいと思っています。そして、映画館で観てくださることをお勧めしますので、ぜひ足をお運びください。渋谷のQ-AXでやっています。よろしくお願いいたします。
河合龍之介さんを初めてお見かけしたのは、『ふぞろいな秘密』の製作発表記者会見だった。あのときにはちょっと硬い表情を浮かべていた河合さんだったが、直接お会いしてお話をさせていただくと、とっても笑顔の素敵な好青年で、しかも本当に映画というものを愛している方だということがよく分かった。同じ映画好きとして気楽に話をさせていただけたような、楽しいインタビューだった。
(取材・文・写真:Maori Matsuura)
関連記事