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『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』公開記念トークイベント

2022-08-16 更新

マライ・メントライン、吉田美奈子

ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言finalaccount ©2021 Focus Features LLC.
パルコ ユニバーサル映画
全国絶賛公開中

 “第三帝国”にかかわった市井の人々の証言を記録したドキュメンタリー『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』が絶賛全国公開中。8月15日(月)の終戦記念日には、公開館である渋谷シネクイントにて、ドイツ第2テレビプロデューサーの他、翻訳、通訳、エッセイスト、TVコメンテーターなど多方面で日本とドイツを繋ぐ活動をしており「職業はドイツ人」を自称しているマライ・メントライン氏と、日本で公開されるドイツ映画の日本語字幕を多数手掛け、本作の字幕翻訳も担当したドイツ語翻訳者の吉川美奈子氏をゲストに迎えたトークイベントが開催された。字幕では表現しきれなかったものとは何なのか、そしてドイツの若い世代に本作はどのように映ったのかなど、興味深い話の数々が次々と飛び出した。


 まずは吉川氏が「この作品を翻訳したのが今年の2月でした。そして試写や、チェックをしていただいたのが3月。まさにウクライナ危機と同時並行という感じで。本当に歴史は繰り返すんだなと思いました」と切り出すと、本作の感想について「皆さん、カメラに向かって赤裸々に話していますが、こうした証言をよく監督が引き出したなと思いました」と感心した様子でコメント。メントライン氏も「わたしはドイツ人ですから、この映画の中に登場する人たちと同じような環境で育っています。なので、こんな感じはあるよな、という感覚で観ていました。そして映画としては、終戦後、こんなに時間が経っているのに、当事者の中では未だに『あれはなんだったのか』『自分の責任はどこにあるのか』『自分が加害者だった場合はどこまで加害者だったのか』と。その境目についてずっと考えてきたはずなのに、いまだに決着がついてないんだなと思いました」と語るなど、思うところも多かった様子。

 吉川氏は、本作の字幕を担当して「辛かった」と感じたそう。「やはり証言者の方は一人称で話すんですけど、一人称の場合は一回、自分の中に言葉を取り込んで、消化してから、日本語に出すので、自分の中で衝突してしまうんですよ。この人は噓をついてるなとか、これは違うでしょとか。そういった葛藤が私の中にあって辛かった」と振り返ると、「皆さん、判で押したように、私は知らなかったけど、みんなは知っていたと言っているんですね。これはドイツ語で見ると“彼らは知っていた”ということ。これはものすごく曖昧で、決して“私たちは知っていた”とは言っているわけではない。それはつまり、自分と犯罪者と言われる人の間に、無意識に線引きをしていて。自己防衛本能が働くので、“私は知らなかったけど、みんなの代わりに私が謝ります”という論調になってしまうんです。でもこれは決してその人たちを責められないなと思って。私もそうなるかもしれないですし、それは人間の弱さだなと思いました」と考えさせられたという。

 話題は本作の中でも象徴的なシーンへと移り、メントライン氏が「ヴァンゼー会議が行われてた場所で、若者たちとハンス・ヴェルクさんが語る場面があったと思うんですけれど、その場面について詳しくお聞きしたいです」と吉川氏に質問。吉川氏は「ヴァンゼーっていうのが1942年1月20日に『ユダヤ人問題の最終的解決(大量虐殺=ホロコースト)』といって、ユダヤ人をどうするかという悲しい問題を、冷酷に話し合われた場所で、今は追悼および教育のための機関になっていて、(ハンスさんと若者が話し合ったような)教育プログラムを定期的に催しているらしいです。あの若者たちの素性は調べ切れなかったのですが、ネオナチっぽい人たちでしたね?」と問いかけると、メントライン氏は「字幕では提供された情報からしか訳せないということで、学生になっていたかと思いますが、しゃべり方や、使っているワードチョイス的にはかなり右派に近い、愛国主義者だと感じました。なので、ハンスさんが話していることに対して、自分たちの中では疑問を持っていると思いました」と答え、吉川氏んが「ハンスさんは2019年に亡くなっていますが、亡くなる直前まで語り部として活動された方だそうです。ちょっと胸に迫ってくるというか……。それをご自身の使命とされて、日本にも語り部として活動されている方がいらっしゃいますけれど、辛いだろうな、と。命を削りながら話しているような感じですよね」という言葉に、メントライン氏も「確かに(戦争を)体験している人からすると、ネオナチっぽい思想を質問として投げかけられると辛いだろうなと思います。若者たちのドイツ語の発言を聞くと『こんなこと言うと、再逮捕される』という言葉もあって、逮捕歴のある方なのかなと思いました。ドイツでは証言者と対話させるというプログラムがあるんです。ネオナチスに所属している、あるいは所属していた、あるいは所属しているけれど(組織を)出ていきたいという人のためのプログラムがたくさん用意されていて、それとよく似た風景だと思いました。ドイツはネオナチスへの対応は敏感で、国としても税金が多く使われていて、いろんなプロジェクトがあります」と、今のドイツについて紹介すると、吉川氏は「ドイツはちゃんと討論して“臭いものに蓋”をしないですよね。日本だと見なかったことにしようとか、議論を避けるところがあるのですが、ドイツは徹底的に議論をするので、そこは羨ましいなと思います。議論は大切だと思います」とコメント。

 最後にメントライン氏が「私の世代だと、家族や、学校の担任の先生などに直接、戦争について聞くことができた。でも私より下の世代になると、そういう人たちとの直接のつながりがない人が多くなっていますね。もちろん学校でもたくさん勉強はするんですが、どこか自分とは関係ないと思っているし、ナチスがまた戻らなければいいんじゃない?というような風潮になっている気がします。でも次に巨悪がやってくる時は、分かりやすい格好やシンボルをひっさげてやってくるわけではないかもしれない。だからナチスが悪い、ヒトラーが悪いというだけで終わらせていたら、そういうものからガードができないんですよ。だからこそ、そういうものを見抜く力をつけるべきだと私は思っています。伝え方も時代に合わせて変えていくべきだと思うんです」と語ると、吉川氏も「確かに日本でも戦争の語り部がいなくなっているんですよね。皆さんが元気に語ってくれるのはあと5年くらいかもしれないですし、それはドイツでも同じことが言えます。世界を見てると、紛争当事国の人たちも、犠牲者が大変な思いをしているのに、何十年か後には私は知らなかったと言いますよね。命令されたから仕方なかったと。でもそれは責められない。私だってその立場になったら流されてしまうかもしれないから」とコメント。その言葉にメントライン氏も「だからこそ、そうならないように、(戦争を)ストップさせるような世の中を作らなくてはいけない、そこがポイントだと思います」と力強くコメント。終戦記念日ということで、平和への熱い思いがあふれ出るようなトークショーとなった。

 映画『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』は、絶賛全国公開中。



(オフィシャル素材提供)



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