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『河童のクゥと夏休み』
単独インタビュー

2007-08-08 更新

原 恵一監督


河童のクゥと夏休みkappa
© 2007木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会
配給:松竹

原 恵一監督

 1959年群馬県生まれ。
 PR映画の製作会社を経て、1982年にシンエイ動画に入社。テレビ漫画で、『ドラえもん』(演出)、『エスパー魔美』(チーフディレクター)、『クレヨンしんちゃん』(演出)などを務める。
 1988年に『エスパー魔美 星空のダンシングドール』で劇場用映画監督としてデビュー。その後、クレヨンしんちゃんシリーズの『暗黒タマタマ大追跡』(1997)から『嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦』(2002)までの6本の監督・脚本を担当し、高く評価された。



 『クレヨンしんちゃん』シリーズで、その力量が大人からも高く評価されている原 恵一監督が、河童と少年の友情を描いた劇場用アニメーション映画『河童のクゥと夏休み』を作り上げた。原作は童話作家の木暮正夫、20年以上前にこの作品を知った原監督は、以来ずっと映画化を考えていたという。ビジネスとしてはリスクが小さい人気キャラクターモノではなく、あえて地味と言えるような作品に挑戦した意図と、本作に込めた気持ちを原監督自身から聞いた。


アニメの仕事を始めたきっかけは?

 高校を卒業後、東京デザイナー学院専門学校のアニメーション科に通いました。そのまま何となくアニメーションの道に入ろうと思ったのですが、その頃はなかなか求人のない時期ですぐには入れませんでした。しばらく他の仕事をしていましたが、そのうちにツテを頼って紹介してもらい、シンエイ動画という会社に入りました。これがきっかけです。


大きな影響を受けたアニメ作品はありますか?

 特に強烈な印象の1本というのはありません。専門学校に行ったら、周囲がアニメに詳しいのでビックリしました。アニメは割と見ていたのですが、作り手のことはそれほど分かっていませんでしたね。小さい頃はディズニーが好きでしたが、大人になるにつれ、その都度いろいろな作品を見るようになって、中学生の頃には『宇宙戦艦ヤマト』を見ていました。


『河童のクゥと夏休み』の企画は20年ほど前からずっと温めていたそうですが、そこまで惹かれた理由は何ですか?

 何か面白いものが作れそうだという、原作が持つ可能性に惹かれました。アイデアでいうと、現代のどこかに河童がいたという話ではなく、江戸時代の河童が現代に蘇るというところが面白いと思いました。


河童そのものについては興味を持っていたのですか?

 最初はそういう気持ちは特になかったのですが、木暮正夫さんの原作が面白いと思ってからは河童関係の資料を読むようになりましたね。


今まで携わった『クレヨンしんちゃん』など人気漫画の映画化作品と比べると、いろいろと難しい問題があったと思いますが?

 この映画の原作は、誰もが知っている人気作品ではありません。物語に登場するのも、河童という誰もが知っているけれどあまり新鮮味がない妖怪です。僕が目指していたのも日常ベースの物語ですが、その辺も皆が食いついてくるようなものではなかったわけですね。そのあたりの問題、「この企画乗った!」という人がなかなか簡単には現れてくれなかったという点はありました。


製作費を集めたり上映する映画館を押さえたりといったことでも?

 その辺になると僕の役割ではなくプロデューサーがやっているわけですが、企画自体がなかなか……。実際に製作が始められる状況になるまでに、やはりいろいろ「できそうだ」「いやいや、ちょっと待って」みたいなことが何度かあって、そう簡単にはスタート出来なかったですね。


6本の脚本・監督を担当された『クレヨンしんちゃん』シリーズでは友情や家族愛を描かれてきましたが、この作品で描こうとされていることもその延長線上にあると感じました。監督が描かれたいのは、こういったテーマなのですか?

 そんなにテーマ性やメッセージ色を強く出すのは好きではありません。何か感じて欲しいとは思っていますが。“これが言いたいんだ!”みたいなことは、毎回ないのですが。


ただ、今回の作品では、いじめ、環境破壊・メディアの暴走といった周囲にあるいろいろな問題をこの作品を通じて訴えようとされています。しかも、決して鼻につくような描き方ではなく、娯楽作品としての魅力を活かしながらそういった問題を訴えられたと思いますが、その辺のバランスのとり方は意識されましたか?

 バランスがとれすぎていても面白くないのですが、やはりバランスみたいなものは一番考えていますね。微妙に落ちそうで落ちないようなバランスを維持して、決してどちらかには落ちないような、そういった道を辿ることにいつも気を遣っています。


登場する子どもたちにすごくリアリティを感じたのですが、どうやって研究されたのですか?

 日常的に、実際の子どもたちを割と注意して見ていましたね、何となく観察していました。電車の中で“何をしゃべっているのだろう?”と会話に聞き耳を立てていたようなこともあります。でも今の子どもを描きたいとは思っていましたが、なかなかそう簡単には現代の子どもらしさは出せないと思ったので、結局、最後は自分の子どもの頃に立ち戻るという感じになりました。だから、それをリアルに感じてもらえたら僕はうれしいですね。


原作者の木暮正夫さんがお住まいになっていた東久留米をそのまま映画の舞台にされていますが、東京の多摩地域ならではの雰囲気が気に入られたのですか?

 東久留米は特徴があまりない場所なのですが、そこが良いなと思いました。木暮さんが住んでいる場所を舞台にしたら、木暮さんがきっと喜んでくれるのではという気持ちもありました。


声優に、ココリコの田中直樹さん、ガレッジセールのゴリさん、西田尚美さん、なぎら健壱さんを起用された理由は?

 タレントさんだからというのではなく、役に合う人ということで選ぶことができました。アニメの場合には声しか出ませんから、主に声の印象を頼りにキャスティングしていきました。


では、日頃からテレビを見ているときでもタレントさんの声には気をかけているわけですね?

 その点はいつも気にかけていますね。


音楽担当の若草 恵さんには、どのようなオファーを出されたのですか?

 まず、この映画ではインドネシアのガムラン音楽をぜひ使いたいと思っていましたが、実際にそれを使ってもらえました。後は僕が好きなちょっと古い洋楽ですね、アメリカのポップスやロック、好きな映画のサントラとか、そういう曲でイメージCDみたいなのを作って聞いてもらいました。若草さんからも「こういうのもどうですか?」と出してきてくれましたし。今回はその辺の打ち合わせが何度かできたので、いつもよりは意思統一ができたと思います。


若草さんとご一緒するのは今回初めてですか?

 僕は初めてです。


ご一緒に仕事をして、出来上がった映画をご覧になってどうでしたか?

 音楽には満足していますよ。素晴らしいと思いました。


この映画の前半のストーリーが映画の『キング・コング』に似ていると感じましたが、これは偶然でしょうか? それとも意識されたのでしょうか?

 それは偶然です。ストーリーライン上で、特に意識した映画はないですね。出来上がったときには、「他に似た映画はあまりないな、それは良いことだな」と思っていたのですが。“何かみたいな映画”という言い方が出来ない映画が出来たなと思っていました。


実写で映画を撮りたいと思われたことはありますか?

 (笑)まぁ、そうですね、興味はありますが、別に依頼されたことはないですね(笑)。出来るような気もしませんし。


では、これからもアニメーションで?

 えぇ、とりあえずそうなると思います。


今後も『河童のクゥと夏休み』のような、ある意味では地味な映画を作りたいと思いますか? 具体的に何か撮りたい作品はありますか?

 空想の世界のような、あまり派手なものにはそれほど興味がないので、これからも地味な作品を作り続けると思います。SFとかファンタジーとかは、あまり興味がないですね。これからも日常ベースの作品を作っていきたいなと思っています。日常的といっても、そこにちょっとした奇蹟みたいなものが入っているストーリーが好きです。今回もそういうものは入れていますし。


お好きなアニメーション映画はありますか?

 それはもう『風の谷のナウシカ』です。アニメーションでは一番好きです。


実写の映画では?

 一番影響を受けているのは、恐らく木下恵介監督の映画ですね。どれか1本ということではなく、木下監督には良い作品がたくさんありますので。自分の作っているものはそういう作品にすごく影響を受けていると思います。


最後にひと言、この作品の魅力をお願いいたします。

 今回はひとことで言うのがなかなか難しい作品です。出来が悪いということではなく、長い時間をかけてやっと実現したので、あまり気楽なコメントを言うのは嘘くさいような気がするからです。これだけの時間を掛けてようやく出来上がった作品ですが、やれて良かったと思っていますし、自分に嘘をつかずに作り終えたと思っています。ですから、内容を信じてもらい、観ていただけると非常にうれしいのですが。


私自身も、観終わったときに心に残るものがありました。

 えぇ、そういうものであって欲しいと願っています。


springdays

ファクトリー・ティータイム

 饒舌な方が多い映画監督だが、寡黙ながら一つひとつの言葉を噛みしめるような原監督の語り口からは、自らの作品に対する愛と自信を感じさせる。周囲にいる、どんな作品に対しても辛口批評のうるさ方が口を揃えて絶賛しているのが本作。昨年の『時をかける少女』同様、この夏大ヒットの予感を感じさせる秀作アニメーションだ。

(取材・文・写真:Kei Hirai)





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