2022-09-15 更新
山﨑樹一郎監督の新作『やまぶき』が11月5日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開となる。この度、9月1日~9日にクロアチアの第二都市スプリトで開催された第27回スプリト国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門にて『やまぶき』が最優秀作品に与えられるグランプリを受賞した。『やまぶき』はカンヌ国際映画祭ACID部門に日本映画として初めて招待されたことを始めとして世界各地で上映され評価されているが、受賞は今回が初めてとなる。
日本ではほとんど知られていないが、スプリト国際映画祭はクロアチアで最も歴史の古い映画祭だ。メインストリームから外れた世界中の革新的で創造的、パーソナルでラディカルな作品を紹介することを目的に1996年に創設された。クロアチアがユーゴスラビアから独立して間もなかった時期だ。今も創設時と同じディレクターが作品選定をしており、その芸術的方針に変わりはない。これまでにクリス・マルケルやジョナス・メカス、スタン・ブラッケージ、ストローブ=ユイレ、クレール・ドゥニ、タル・ベーラ、ペドロ・コスタ、ミケランジェロ・フラマルティーノ、アルベール・セラなど先鋭的な作風の映画作家たちに映画祭名誉賞を与えてきたことから、プログラムの質の高さは想像しやすいだろう。今年は、世界中から選ばれた8本の長編作品が競い合うインターナショナル・コンペティション部門に、『やまぶき』は唯一の日本映画として出品された。
アドリア海に面するスプリトの旧市街は、3世紀末から4世紀初頭に建造されたローマ帝国の宮殿の跡地の中に増改築を繰り返して形づくられた。当時の遺構が数多く点在しており、旧市街全体が世界遺産に指定されている。その世界遺産の中にある美しい映画館を会場としていることもこの映画祭の特徴だ。
トマト農業の繁茂期で渡航できなかった山﨑樹一郎監督に代わって、プロデューサーの小山内照太郎が上映に立ち会った。現地時間の9月3日(土)に行われた公式上映での観客の反応はヴィヴィッドで、岡山県真庭市を主な舞台に描かれた小さな物語がクロアチアの人々にも確かに共有されていることを実感したという。山﨑監督がトマト農業に携わりながら映画を作り続けていることにも観客はとても関心を示した。そして、溝口健二や小津安二郎などで知られる輝かしく長い歴史を持つ日本映画だが、『やまぶき』のようなインディペンデント作品は、ヨーロッパとは違い行政の支援がとても少ないために、トマト農家のような兼業をしなければ映画を作れないという事実に、現地の観客や映画業界人は率直に驚いていたという。
『やまぶき』は、スプリト国際映画祭の後も世界各地での上映が決まっており、現在のところ14の映画祭から招待を受けている。来春にはフランスで全国劇場公開される予定だ。
<審査員団によるステートメント>
主人公たちの心の揺らぎが16ミリフィルムのざらついた映像に見事に表現されている。編集も秀逸で、とりわけシーンの移行が素晴らしい。落ち着いたカメラの動きが私たちを物語へ自然と誘う。だが、それらの技術的な要素以上に『やまぶき』が真に優れているのは、人生のあらゆる困難にポジティヴに向き合う道を示していることだ。
(オフィシャル素材提供)