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『白い牛のバラッド』アフタートークショー付き特別試写会

2022-02-10 更新

坂上 香(ドキュメンタリー映画監督)、森 直人(映画評論家)

白い牛のバラッドcoda
ロングライド
2月18日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

 第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞ノミネート作『白い牛のバラッド』が2月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開となる。

 愛する夫を死刑で失い、ろうあの娘を育てながら必死で生活するシングルマザーのミナ(マリヤム・モガッダム)。1年後に突然、夫の無実が明かされ深い悲しみに襲われる。賠償金よりも判事に謝罪を求める彼女の前に、夫の友人を名乗る男レザ(アリレザ・サニファル)が現れる。ミナは親切な彼に心を開き、3人は家族のように親密な関係を育んでいくが、ふたりを結びつける“ある秘密”には気づいていなかった……。罪と償いの果てに、彼女が下した決断とは――。

 劇場公開に先駆け、『ライファーズ 終身刑を超えて』(04)や『プリズン・サークル』(19)など、刑務所に焦点を当てたドキュメンタリーを製作してきた坂上 香と映画評論家の森 直人をゲストに招いたアフタートークショー付き特別試写会が実施された。


 一般の観客へ初披露となった本日、初めて日本の刑務所にカメラを入れて話題となった『プリズン・サークル』の坂上 香監督も客席で一緒に本作を鑑賞。そのままトークゲストとして舞台に上がり、感想を伺うと「実は初めて観たのは昨年12月、ちょうど死刑が執行されたタイミングだったので伝わり方がリアルだった。今日改めて観て印象が変わりました」と述べ、「主人公のミナの凛としたところ、淡々と生きていて、すごく自立していて、すごく魅力的で。そこにぐいぐい引き込まれた」と主演のマリヤム・モガッダムの演技を称賛した。森もマリヤムの演技の凄さに同意と頷きながら、「ただ者ではないと思っていたら、なんと監督でもあった!」と2人揃って驚きの表情を浮かべた。2人が褒め称えた迫真の演技の裏には、幼い頃、モガッダム監督の実の父親が政治犯として死刑になった過去があるということを知った坂上監督。単に迫真の演技をしているのではなく、染み付いた実体験、当事者であることが真に迫るストーリーを生み出したのだと語った。

 坂上監督は「この映画の中で、死刑はなくせないと言っているけど、モガッダム監督は死刑をなくしたいと思っていると思う。お父さんもそういう目にあっているし、そこをなくせると言うのではなく、なくせないもどかしさを描くことで、観ている側に考えてもらう、という手法をとっているなと思いました」とこの映画に監督が込めた思いを分析する。


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 また森は、大変なイランの映画事情についても言及。「ジャファール・パナヒ監督のサッカー映画『オフサイド・ガールズ』も上映禁止となって、さらには20年自宅軟禁にもなりながらも“これは映画ではない”と言って『人生タクシー』を撮影しました。また、アスガー・ファルハディ監督は国内外での上映を意識して、微妙に滑りこませているものの、ギリギリの表現をしている。いずれのイランの監督たちも、あの手この手で作品を撮ろうとしている。本作も映画祭で数回上映されて以降、検閲により劇場公開をされておらず、その要因は、設定やシチュエーションがチャレンジングで、正面から制度を訴えたからこそではないでしょうか」と推察。体制に挑むその勇気も、当事者性から来ていると思うと話した。


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 坂上監督は、冒頭のミナが面会に行く長い廊下のシーンを見て、「『プリズン・サークル』で撮影した、島根あさひ社会復帰促進センターの施設内を思い出しました。とにかく廊下が長く、職員の方でさえも道を間違えるほどでした。また、少年院のドキュメンタリーを描いたイラン映画『少女は夜明けに夢を見る』を観た際には、「歯軋りするほどすごく悔しい想いをしました。イランはモザイクもなく施設内を全て映し、カメラの出入りも自由。それに対し、『プリズン・サークル』の撮影では、カメラの位置もコントロールされ、最初から顔を出さないと法務省に決められていたんです」とイランと日本の撮影状況の違いを説明した。

 話題は日本の死刑制度についても展開され、「世界の他の国が死刑制度を廃止する動きの中、日本は死刑制度賛成派が増えている状況」と坂上監督は説明。それを受けて森は「無関心がその動きを促進している可能性もある。日本は排除の論理が強くなってきているように感じる」と意見を述べた。続けて坂上監督は「アメリカは今、死刑制度で揺れる国で、なぜ揺れているかというと情報があるから。アメリカでは『デッドマン・ウォーキング』をはじめ、死刑を描いた作品が多くあり、死刑執行についての情報が情報センターで開示されているが、日本は開示されていない。情報がないことは、十分に議論ができない私たちにとって可哀想な状況でもあるんです」とアメリカと日本を比較した。


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 また森は、「日本も以前は、大島渚監督の『絞首刑』という作品で、死刑をブラック・コメディとして描けたし、大杉 漣さんの『教誨師』も罪や暴力の後をどう生きるかと描いていた。『教誨師』と『プリズン・サークル』は似たことを描いていると感じた」と語り、本作と同様、坂上監督も制度に訴える映画を手がけていると話した。

 坂上監督は「ほんの短いシーンであっという間に終わっちゃうのですが、被害者遺族の妻がドア越しでミナを訪れるシーン。びっくりしたんですが、ちょっとイランの制度を調べてみたところ、被害者遺族が加害者を許してしまうことができるそうなんです」と語り、「改めてあのシーンを見ると、被害者遺族の妻は主人公の夫に対し、冤罪という罪を犯してしまったから、本当の真犯人を許した。だからあなたも私を許してください、と言っているのだと気づいた」とコメント。それに対し森は「イスラム法典の目には目をというのは、報復の論理もあるが、制限法でもある。それ以上のことをするなというもの。怒りというものが鎮静化すると赦すということになるのかもしれない」と分析し、「報復の連鎖を断たなくてはいけないという想いが込められているのかもしれない」と坂上監督が語り、まだまだ話題は尽きない中、惜しまれつつトークイベントは終了した。



(オフィシャル素材提供)



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