2022-02-04 更新
小川洋子(映画原作者)×永瀬正敏(主演)
『黒四角』の奥原浩志監督が映画化した日・台合作映画『ホテルアイリス』(2月18日公開)の原作者・小川洋子氏、主演・永瀬正敏のオフィシャル・インタビューが解禁された。
翻訳家というキャラクターについて
小川洋子: 脚本をあらかじめ読んだときには、映画化するにあたっていろいろと手を加えたんだなと思いました。でも最終的に映画になった段階では、自分の小説とどこが違うとか、そんなことはもう全然気にならず。一つの完成された世界として、違和感なく観ることができましたね。
小川洋子: 小説の中に隠れていたものを、監督が見つけて拾い上げてくださったのかなという印象でした。
小川洋子: 年齢は単なる数字でしかないんだなと思いました。たしかに小説で「老人」という言葉も使いましたが、この映画に登場するあの翻訳家も、ある意味では“老人”であり、何歳でもありうる。年齢という単純な枠組みを打ち破ったような存在感でしたよね。
小川洋子: つまり、既に半分死んでいる。あるいは、実は“死者”だと言ってもいい。年齢を超越し、何歳であるかということに意味をなくした、死者。それを、永瀬さんが体現されたということだと思います。
永瀬正敏: そうおっしゃっていただけてうれしいです。そこは最初にお話をいただいた時、僕も確認しました。老けメイクや特殊メイクをするのか? でもそれだとこの映画のためにならい気がして……。製作者さんサイドの意見は、準備稿の時点から「老人を下げ、マリの年齢を上げてやるつもりだ。年齢が近づいたときのケミストリーも見てみたい」と。それで分かりましたと。
永瀬正敏: 読ませていただいて、すごく魅力を感じましたね。翻訳家だけではなく、主人公のマリや、あのホテルで働いている、盗み癖のあるおばさんとかも含めて。そういうさまざまな人たちの集合体として、面白い小説だなと思いました。
永瀬正敏: ええ。あと、いつの時代の、どこの国の物語なのか分からない、浮遊しているような感覚も含めて魅力を感じたんだと思います。普段は現場に入ってからは、原作をあまり手に取らないんです。でも今回は原作を持ち歩き、何度も読み返しました。
永瀬正敏: もちろん監督の書かれた脚本があってこそですが、映画の時間軸の中に、小説に描かれていること全部は収まり切らないですよね。となると、『ホテル・アイリス』から絶対に削ぎ落としちゃいけないところはどこなんだろうと思って。翌日撮る予定のシーンを原作で読み返しては、監督に自分の考えをお伝えすることもありました。
永瀬正敏: いっぱいありますけどね。翻訳家が暮らしている孤島での、彼の重みのある立ち振る舞いだったり。そこからホテルアイリスのあるリゾート地へ渡ってきたときの、地に足がついていない感じだったり。
永瀬正敏: 翻訳家が孤島に歩いて帰ろうとして、途中で止まるシーンがあるんです。撮影している間に潮が満ちて、途中から島へ渡れなくなった。でもこれはチャンスなんじゃないかと、撮影したんです。とは言うもののこの場合、どっちの翻訳家として立っていればいいんだろうと少し考えてしまって。そういうときに、小川さんが書かれている一言一言を大事にしていました。
小川洋子: とてもありがたい言葉です。
ロケーションが映画に及ぼすもの
小川洋子: 素晴らしいですよね。よくこんな場所があったなって。しかもホテルアイリスの建物が、実際も民宿だと聞いて、「ああ、小説家が想像して作ったものだと思っても、実はこの世界のどこかにそれは存在してるんだな」と、ちょっと面白い錯覚に陥りました。
永瀬正敏: ロケーションは役を演じる上で、いわば共演者の一人みたいなもの。非常に大切なんです。小川さんが今おっしゃったように、金門島は原作のイメージにスッとつながって、監督はよく探されたなと思いました。
小川洋子: やはり潮が引くと現れる歩道ですね。たしか、朝方と夕方の一瞬しか歩いて渡れなかったんじゃなかったかな。限られた時間の中でどう撮影するか? スタッフの皆さんは大変だったでしょうが、様々なアイデアを出し合って撮影できた。この歩道のあり方が作品にぴったりだと思いました。
永瀬正敏: 私は、小説では大きい遊覧船で行き来するイメージだったんですが、映画では渡し舟風になっていて。その舟を漕ぐ売店のおじさんの佇まいが、すごくよかったんですよね。海辺にある売店や、売っているものの感じとかも。自分の小説にも、この人を登場させたかったと思ったほどでした。
小川洋子: マリと翻訳家は切実な状況にあります。おじさんはこの二人とは全く無関係の立場にいながら、彼らをあちらへ渡すという、実はとてつもなく重要な役目を果たしていて。そのことに気づいていないのか、それとも気づいていないふりをしているのか、あの不機嫌で、無責任な感じが印象的でした。
日本と台湾のコラボレーション
小川洋子: それは、この映画の大事な要素の一つだと思います。マリと翻訳家がやりとりし合うのは、“言葉にならないもの”です。なぜ言語が混じり合っているのか、最初は不自然に思われる方もいるか分かりません。でも言語や言葉の意味なんて、この二人にはあまり関係ないことが、映画を観ていくうちにだんだん分かってくるんですよね。二人はまるで小鳥がさえずり合うように、“意味じゃないもの”をやりとりしている。あるいは、肉体と肉体をやりとりしている。そういう関係性を一つ、言語の問題が象徴していると思います。原作のイメージにスッとつながって、監督はよく探されたなと思いました。
小川洋子: 人によってはこの映画を観て、「ちゃんと言葉で分かるように説明してくれ」という気持ちになるかもしれません。でも実は、言葉にならない部分に重要な真実が隠れている。そこまで行き着いてほしいなと思います。
永瀬正敏: 肝が座っていましたね、最初から。今回の現場には台湾人のスタッフも、若くてしっかりした女性が多かったから、安心できる現場だったんじゃないかなと思います。
永瀬正敏: マリが翻訳家と関係を持つシーンの撮影のとき、陸夏は待ち時間もずっとあの部屋の中に、体に何か一枚羽織っている程度のままでいたんですよね。そうすることで何かを自分の中に入れて、マリに変わろうとしていたのかな。初めての映画ということもあり、とにかくなんでも吸収しようと一生懸命準備していた姿をよく覚えています。
永瀬正敏: かなり不安もあっただろうし、いろいろ思い悩んだと思うんです。そういうときは、みんなで夜ご飯を食べに行って。(撮影はコロナ禍前の2018年で)まだそういうことができる時期だったので。「みんなで明日も頑張りましょうー!」なんてふざけて言い合ったりしました。
永瀬正敏: 出演してくれて嬉しかったですね。元々素晴らしい俳優さんでもあるので、俳優同士で共演できたのも嬉しかったです。実はサプライズで『KANO』のスタッフが10人くらい、金門島で僕が泊まっていたホテルまで来てくれたんですよ。きっとマーさんが「永瀬が台湾に来てるよ」って言ってくれたんだと思うんですけど。びっくりして、でもうれしくて、廊下で記念写真を撮ったりしました。
永瀬正敏: ツァイさんともたくさんお話ができて楽しかったです。以前国際映画祭等でちらっとお会いしたことはありましたが、あまりお話できていなかっいたので。撮影が終わるとホテルのテラスで毎日マーさんと3人で深い時間まで話ししてましたね。
小川洋子: あの海辺のシーンの足は、やっぱり永瀬さんの足なんですか?
永瀬正敏: それは……。
小川洋子: あ、言わないほうがいい(笑)?
(オフィシャル素材提供)
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