2021-10-13 更新
小出祐介(Base Ball Bear)、世武裕子(映画音楽作曲家・演奏家)、森 直人(映画評論家)
10月30日(土)より公開のコロンビア映画『MONOS 猿と呼ばれし者たち』(第92回アカデミー賞®国際長編映画賞 コロンビア代表作品)の特別上映会が行われ、上映後に、Base Ball Bearの小出祐介氏、映画音楽作曲家で演奏家の世武裕子氏、映画評論家の森 直人氏が登壇し公開記念トークイベントが実施された。
50年以上続いたコロンビアの内戦を下敷きに、モノスと呼ばれる少年少女兵たちの狂気の暴走を生々しく、そして幻想的に描き、サンダンス映画祭ほか世界中の映画祭で30もの受賞を果たした映画『MONOS 猿と呼ばれし者たち』。公開を控えた10月12日(火)に、Base Ball Bearの小出祐介氏、映画音楽作曲家で演奏家の世武裕子氏、映画評論家の森 直人氏が登壇した公開記念トークイベントが代官山のシアターギルドで行われた。
「年間ベストに挙げるレベルで好き」という世武氏は、本作の魅力について「インテリジェンスと野性的なもののバランスがいい」、「地獄みたいなリアリティを描く一方で、音楽や映像の作り込みが細部までちゃんとされている。でも狙い過ぎていない」と絶賛。森氏は本作について「大傑作だと思います。描写としてはある種リアリズムに近いものがありつつ、南米文学や映画にあるマジック・リアリズムのような、めまいのするような映画体験でした」と評価。一方小出氏は、「登場人物の背景や、ゲリラ兵としての役割、さらに登場人物の性別も曖昧ではっきりしない中で、権力体制がくずれ秩序が乱れていく様子はまるで猿山をみているようだった」、「普段は作品の背景を考えたりしながら観るので、これだけぼかされてて面白いと思うのは、根本的な構造がまず面白いんだろうなと思いました」と敢えて説明しない本作のスタイルに着目。そういった背景を一切描かなくても「作品としてちゃんと昇華しているのがすごい」と世武氏も評価。「永遠に繰り返される人間模様のような、普遍的な構造を描こうとしている」と分析する森氏は、続けて「細部の詰まり方がすごいなと思いました。表象としては出さないけれども、各シーンがどういう意味を持つのか監督の中でしっかり出来上がっている気がする。かといって理詰めの窮屈な感じもなくて。野生味とか野蛮な感じが、肉体性をもって勢いよく解き放たれている。本当に欠点がないなって思います」と話した。
ミカ・レヴィが手掛けた音楽について尋ねられると、世武氏は「とにかく彼女の音楽って、気持ち悪い感じというか、不穏な気持ちにさせるじゃないですか。それはやっぱりすごいことですよね。そして何よりもパンク精神がある。作家性が強いというか」と評価。「笛の音やアナログ・シンセの音が序盤からずっと効果的に使われていて、組み合わせを変えたり、変奏したりしながら展開していく音の作り方は『アンダー・ザ・スキン』にも共通しますよね。こういう音の作り方が、ミカ・レヴィの作家性と言っていいのか」と問う小出氏に対し、「彼女の得意なスタイルだと思います」と世武氏。続けて、「サントラにも波があって、ヨルゴス・ランティモス監督作品の音楽や、『ジョーカー』を手掛けたチェリストのヒドゥル・グドナドッティル、そしてミカ・レヴィといったヨーロッパ勢が出てきて、今後は少ないモチーフで作るスタイルが流行ると思います」と分析。「ただ、ミカ・レヴィ的なミニマルな音作りをするには、印象的な画と脚本と構成じゃないときついと思います。私も本来やりたかったので。『MONOS』を初めて観た時に、めちゃくちゃすごい!ってテンション上がったのと同時に、悔しいっていう気持ちもありました」と心境を語った。
最後に『MONOS』の見どころについて問われると、「意外と観る人を選ばない作品なんじゃないかなと思います。いわゆる万人向けに作られているものではないけど、観たらちゃんと誰にでも刺さると思います。深掘りして観ることも、映像や音といった観点からアート的な見方もできますし、誰にでも開かれた映画なんじゃないかな」と小出氏。続いて世武氏も、『ミッドサマー』などで話題のA24作品を例に挙げながら「普段映画館に来なかった層が観に来て、それを呟きたいとか話したくなってバズってましたよね。『MONOS』もそういう映画だと思うし、広く刺さる作品だと思います」と締めくくった。
『MONOS 猿と呼ばれし者たち』は、10月30日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
(オフィシャル素材提供)
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