2022-02-07 更新
小森はるか(映像作家)
『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』と『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』でベルリン、ヴェネチアを2作連続でドキュメンタリー映画で初めて制した名匠ジャンフランコ・ロージ監督最新作『国境の夜想曲』が2月11日(金・祝) よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開となる。
この度、公開を記念して2月4日(金)、『息の跡』『二重のまち 交代地のうたを編む』などで知られる映像作家・小森はるかを迎え、トークイベント付試写会が実施された。上映後には「よくこんな映像がとれたなぁって思うシーンばかりでスゴイ」「美しいドキュメンタリーというものをどう受け取るのか観る側が試されているような気がする」といった感想がツイッター上で見られた。東日本大震災を契機に東北に拠点を移し、風景と人びとを記録する小森。その地に長く身を置き、現地の人々と対話を繰り返しながら映画を作るという本作と共通するプロセスを持つ小森だからこそ紡がれる言葉に、鑑賞者も納得しきりのトークイベントとなった。
生々しい“音”と美しい構図に鳥肌
その独特の撮影スタイルについて語る
小森はるか: 今日スクリーンで観なおして、音の印象を非常に強く感じました。そこにいる人の息遣いや、壁をさする音、絵を描くときのこすれる音など。こんな音がする世界があって今それを聞いているんだという生々しさがあり、鳥肌が立ちました。人が声を発さず、沈黙している空間にカメラが置いてあるからこそ録れる音だと思うので、どうやって監督は被写体と一緒にいたんだろうかと想像しながら、そこがロージ監督の作品の凄さだと改めて実感しました。
MC: 監督の前作『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』ではイタリア・ランペドゥーサ島に暮らす人々と島に流れ着く難民との接点を映していましたが、今回はその難民のルーツを辿るため、イラク、シリア、レバノン、クルディスタンの国境地帯を3年近く旅しながら撮影されました。最初の数ヵ月はカメラを持たずに一人旅をして様々な人と知り合った後に、カメラを持って再びその人たちに会いに行ったそうです。小森さんも10年間東北に住まれて、被災者の方々と寄り添って生活をしながら制作されていますが、そういった人との向き合い方について感じたことはありましたでしょうか。
小森はるか: 最初にこの作品を観た時、ロージ監督一人で現地に入り自分でカメラを回していることを知らなかったので、カメラも動かず、計算され尽くした構図を見て、背後に大勢スタッフがいるものと思っていました。撮り手側の気配を消すことに関しては良し悪しがあると思いますが、ロージ監督自身がファインダー越しにこの美しい風景を見ていたんだと知った時、腑に落ちたというか、不思議と安心したんです。
MC: 小森さんは2016年に『息の跡』、2018年には『空に聞く』を撮られていますが、普段どのようにして構図を決めているんですか?
小森はるか: 私も一人でカメラを持って撮影していますが、生の現場で構図を優先することってすごく難しいので、私は自分の画作りを途中で捨てるというか、その人に合わせて動くという撮り方をしています。なので手ブレも酷かったり、その場で起きることに反応してカメラが後からついていく時もあるので、ロージ監督のようにはまず撮れませんね。
悲劇の地を“美しく撮る”という葛藤
MC: 小森さんが学生時代にボランティアに行かれた時のインタビューを読ませていただきました。「最初の数ヵ月は被災者の方にカメラを向けることができなかった」という言葉が印象的でしたが、どのようなきっかけで撮影できるようになったのでしょうか。
小森はるか: それはその人たちのことを「被災者」だと思っていたからだと思います。その人が今まで生きてこられた人生の営みが見える瞬間を撮りたいのに、頭の中で「被災者」だと思ってしまうことでカメラを向けられませんでした。恩師からのアドバイスなどもあり自分の気持ちを切り替えることができました。なのでカメラを向けるまでに時間がかかったという感覚はすごく共感できますね。『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』の時の監督インタビューで「“緊急事態”という言葉が無意味だということを、ランペドゥーサ島に住んでから知った」というようなことをおっしゃっていて、それによって現地の人々の悲しみや日常が見えてくるというお話にすごく共感しました。陸前高田はまさに被災地で“緊急事態”が起きた土地です。通っている時は気がつきませんでしたが、実際に住んで、そこに毎日が訪れているということを知った時に、失われたものの大きさ、そして失われずに続いているものがようやく分かり、ロージ監督と通じる部分があると思いました。
MC: 小森さんの中で特に印象に残ったシーンはありますか?
小森はるか: 少年アリが住む家の中の空間って、子どもがたくさんいるのにすごく静かですよね。子どもらしくないというか、家の中の役割というものを崩さずに守っている感じがして印象深いシーンだと思いました。アリが出かけて行く時の表情も「なんて顔してるんだろう」と。どの場面も言葉にならない感情が現れていますが、アリの家族の存在感がすごく焼き付きました。
MC: ロージ監督の映画を観て、自分も取り入れたいと思う部分はありますか?
小森はるか: 陸前高田はたくさんの人が亡くなった被災地ですが、その風景を撮影しながら“美しい”と感じる瞬間が時折あります。美しいと感じながら撮影することに対する戸惑いがあり、私は決して悲惨なこと=美しいという考えはないですが、破壊された風景を撮影した時に「良い画が撮れた」とおっしゃる報道の方もいらっしゃるので、それとは違うぞと思いつつ、自身が感じる“美しさ"とはなんだろうと考えています。ロージ監督の作品からは、風景側に人の心が映し出されるような映像を撮ることができるんだと教えてもらった気がしますし、自分が見ているものを信じて良いんだと勇気付けられました。
(オフィシャル素材提供)
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