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『屋根裏の散歩者』単独インタビュー

2007-07-10 更新

嘉門洋子


屋根裏の散歩者yaneura
© 2006 アートポート
配給:アートポート

嘉門洋子

 1980年、石川県生まれ。
 96年にグラビア・デビュー。抜群のプロポーションで一気にトップ・グラビア・アイドルに登りつめ、97年にはフジテレビ・ビジュアルクイーン・オブ・ザ・イヤーに選出される。「笑っていいとも!」金曜レギュラーとしてお茶の間でも人気を得る。
 2000年には「ブリード 血を吸う子供」でヒロインを演じ、その後も女優として『DOG STAR/ドッグ・スター』(02)、『自殺サークル』(02)といった映画やVシネでも活躍する。また、「幕末の丘」(06)など舞台にも精力的に立っている。



 没後40年以上の時を経た今もなお、その独特の感性と美意識で読者を魅了し続ける昭和の鬼才作家・江戸川乱歩。このたび、「エロチック乱歩」と題して、乱歩の代表的な短編2作が舞台を現代に置き換え、新たに映画化された。その内の1本で、乱歩作品でも人気が高くこれで4度目の映画化となる『屋根裏の散歩者』で、猟奇と官能に憑かれた人々が蠢く乱歩世界に挑戦し、大胆な艶技で新境地を開いている女優・嘉門洋子がインタビューに応えてくれた。


浴衣がお似合いですね。古風な柄がとても素敵です。

 母のお下がりなんです。私は小さい頃から日本舞踊を習っていて、最近は三味線も始めました。日本の伝統芸能をもっと勉強して、将来お仕事に役立つ機会もあれば……と思いまして。


yaneura

和楽器の中でも三味線を選んだのは、何かきっかけがあったんですか?

 日舞をやっていましたから、別の和物も始めてみたら?というアドバイスをいろいろな方にいただきまして、何にしようと考えていたんですが、たまたまずっとお芝居を見ていただいている師匠に、三味線を教えていらっしゃるお知り合いがいらしたので、紹介していただいて始めました。すごく楽しいですよ。8月の終わりには浴衣会という発表会に出させていただくことになっています。そういう目標があると、一層頑張れますね。今のところは「松の緑」という曲を仕上げようとしていまして、と言っても全然上手じゃないんですけど、その後は浴衣会で弾く「都鳥」という曲のお稽古を始める予定です。


ブログを拝見しましたが、たくさん本を読まれていますね?

 ええ、本を読むのは好きですね。偏らないで、いろいろなジャンルを読むように心がけています。ただ、あまり時間がありませんから、主に人から勧められたものを読むようにしていますね。最近は、三味線の先生からお借りして歴史ものをよく読んだり、落語集を読んでいます。古今亭志ん朝さんの本ですとか。生の落語もぜひ今度、聴きに行きたいですね。


江戸川乱歩の小説は読んだことがありましたか?

 読んだことはあったんですけど、ハマるまでは行っていませんでした。『屋根裏の散歩者』は何度も映画化されていますから、過去のものを見ようか迷いまして、監督に伺ったところ、「引きずられてしまうから見ないほうがいい」と言われまして(笑)。ですから、原作だけ読みました。結局、撮影が終わった後も以前の作品は見ていません。


実相寺昭雄監督版は大体において原作に沿っていますが、今回はかなり違ったシナリオになっていますね。

 そうなんです。私が演じた人物も、もともと原作には登場していません。


原作では“屋根裏の散歩者”は男性ですね。今回はなぜ女性にしたのか、三原監督から理由は伺っていますか?

 理由は特に伺っていないのですが、監督ご自身は映画を見るときに強い女性に惹かれるそうなんですね。ルックスよりも、強い女性が勇敢に困難に立ち向かっていく姿がお好きだということで、本作では「強さや母性を出していきたい」とはおっしゃっていました。それにまた、監督はすごくホラー映画がお好きなので、ご自身が大好きだったホラー映画に対するオマージュみたいな作品にしたいとも言われていました。それで、お好きなホラー映画をたくさん教えていただいたんですけど、私、ホラーが大っ嫌いなので全部見たことがなくて……(笑)。で、「見て」と言われた映画を全部見ました。


何をご覧になったんですか?

 『悪魔のいけにえ』と『シャイニング』、ヒッチコックの『鳥』や『サイコ』、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』『ロスト・ハイウェイ』『ブルー・ベルベット』、ブライアン・デ・パルマの『ミッドナイトクロス』『ブラック・ダリア』などですね。それで、母性や女性の強さに関しては、『羊たちの沈黙』のクラリスのイメージと言われました。あとは、『キャリー』『シャイニング』『悪魔のいけにえ』みたいに叫んでくれ、とも(笑)。それらを全部見てイメージを作りました。映画は監督のもので、いかに監督を理解できるかにかかっていると思いますから、三原監督のお好きな映画を見て理解するように努めたんです。


気に入った作品はありましたか?

 (絶句)……面白かったです(笑)! ホラーは大っ嫌いだったんですけど、見られるようにはなりました。


原作と脚本を読まれたときは、それぞれどのような印象を抱かれましたか?

 原作を読んだときにはおどろおどろしい色、濃厚な赤のような色が鮮明に見えた感じがしました。脚本については、井土紀州さんという脚本家の方が書かれたんですが、文章のリズムやテンポがすごく良かったんですよ。スラスラと読めちゃうんですけど、話は先が読めなくて、最後は驚かされるような、本当にエンターテインメントな作りだと思いましたね。ストーリーテラーでしたら、お客様がワクワクドキドキするのを邪魔しないでお話の中に連れていってほしいなと思いますので、そういう意味でも良く出来た脚本だという印象でした。


嘉門さんが演じられた奈緒子については、どう思われましたか?

 奈緒子は、監督がおっしゃっていたように母性的だったり強い面もあるんですけど、ちょっと妖しげなものに惹かれてしまうという狂気の部分もあると感じました。


確かに、一見まともな人ですけど、あの絵に惹かれるというのは、どこか危ないものを感じさせますよね。

 ええ、ちょっと異常な感じはしますね。生い立ちが不幸だったとか、そうじゃなくても潜在的に狂気を秘めているとか。


館から必死に逃れようとはしていましたけど、あの世界にどこか惹かれていましたよね。ああいう倒錯性・耽美性は乱歩の文学ならではですが、嘉門さんにとっては異質な世界でしたか?

 異質と言えば異質かもしれません。私自身は亀のように人生を歩むタイプで、あまり思いきったことはしたくないというか、恐れを感じるほうですね。


これまでの作品を拝見する限り、本作は監督にとっても新たな挑戦だったのではないでしょうか?

 確かに、監督の以前の作品を拝見したら全然違いましたから、私も驚きましたね。『村の写真集』などはとても温かな映画だと思いました。


風景の写し方なんかは、ちょっと『村の写真集』と似たものを感じました。

 あぁ、そうかもしれません。撮影は芦澤明子さんという女性の方だったんですよ。普通の風景でも、“こんなふうに撮れちゃうんだ!”と驚かされるくらい美しく撮ってくださる方で、これが女性の感性なのかなと思いましたね。


完成した作品を初めてご覧になったときの印象は?

 『シャイニング』や『キャリー』みたいに、叫んでいる部分ばかり鮮烈に印象に残ってしまって、「恥ずかし~!」って(笑)。まだちょっと、客観的には見られないですね。


素晴らしい演技をされていたと思いますよ。

 もう、恥ずかしい顔をいっぱいしていて……(笑)。


叫び声もすごかったですが、大変でしたか?

 大変でした(笑)! 閉じ込められるシーンなどは、ほとんど一日中叫んでいましたので。以前に舞台をやっていたとき、喉を潰してしまったことがあって、ちょっと喉が弱いんですよ。それで、歌手じゃないですけど、ボーカル・トレーニングを週2回くらいやって、喉を鍛えるようにしました。過去に潰した経験があるので、またやっちゃったらどうしようと、ちょっとドキドキしたんですけど、撮影中は大丈夫でした。トレーニングの成果が出たのかなと、うれしかったですね。実際、喉はちょっと強くなった気もします。


yaneura

ロケ地はどちらだったんですか? とても美しい風景でしたが。

 葉山です。すごく良い所でしたよ。あの館自体も、監督がイメージするとおりのものが見つかったんですよね。あの館のイメージは、ニコール・キッドマン主演の『アザーズ』ですとか、『悪魔のいけにえ』のヘンな家だそうです(笑)。


出てくる方たちもみんな、ヘンでしたね(笑)。

 そうなんですよ。私は一応主演でやらせていただいたんですが、実は私は「世にも奇妙な物語」のタモリさんみたいな感じで、観客の皆さんをあちらの世界にお連れするだけで、本当の主役はあのヘンな人たちかも……って(笑)。


現場の雰囲気はいかがでしたか?

 良かったですね。よくおしゃべりしたのは、永瀬(ひかり)さんとか(清水)萌々子ちゃんでした。萌々子ちゃんがゲームの「どうぶつの森」にハマっていて、「面白いよ」と勧められたので、私もそれ以来やっています(笑)。この撮影をしているときはおかしくなりそうな感じだったので、待ちの間だけでものんきになりたくて。


撮影中はやっぱり、テンションが高い感じだったのですか?

 嘘なのか本当なのか分からない状況になってきまして、「現実に戻りたいね」なんて話したりしましたね。


奈緒子は最後、妖しい笑みを浮かべていましたが、彼女はもう現実には戻れないと思いますか?

 彼女はきっと、自分は正気だと思っているんでしょうけど、きっともう、現実世界には戻れないのかもしれません。ただ、奈緒子とマドカちゃんが愛でつながったように、男性でも女性でも誰か救ってくれる人が現れたら戻れるのかも。


小説のヒロインの中で、演じてみたい女性はいますか?

 宇江佐真理さんの「甘露梅―お針子おとせ吉原春秋」という、吉原でお針子さんをしている女性の物語がありまして、そのお針子さんを演じてみたいと思いましたね。子供も成人していて、年齢的には私よりかなり上の女性なんですけど。物語は夫に先立たれたというところから始まります。それで、吉原にお針子として働きに出て花魁たちに接し、これまで誤解していた花魁たちのことを理解できるようになるんですね。花魁も体は許すけど、本当に好きな男性は1人で、年季が明けて一緒になれることを夢見ているんだって。


それは素敵なお話ですね。嘉門さんは本当に今、日本的なものに対する想いを強くされているように感じますが。

 そうですね。小さい頃から母が日舞を習わせてくれたりしたこともありますが、三味線の先生の影響も大きいです。着物は結構普段も着ていて、着物のほうが好きなんですね。洋服だったらあり得ないような色を合わせたりすることもできますから。せっかく日本人に生まれてきているんですから、日本的な感性をもっと磨きたいと思っています。


ご出身は金沢ですね? 嘉門さんが金沢で自慢できることは?

 犀川と浅野川という大きい川が2本流れていまして、私はよくそこに散歩に行っていたんですけど、その辺りがお勧めです。すごく寒いですし雪も多いですけど、冬に行かれたほうがいいと思いますね。夏だと魚がしまっていませんから、味が落ちますし。


本作の後にも、いくつか映画の撮影をされていたんですよね?

 はい、『屋根裏の散歩者』のすぐ後に撮ったのが、天願大介監督の『世界で一番美しい夜』で、最近撮ったのは瀬々敬久監督の『泪壷』です。


Vシネにもたくさん出ていらっしゃいますが、劇場映画の撮影現場とVシネでは何か違いを感じますか?

 それが、Vシネの現場で一緒にお仕事をした方々と映画の現場でもよくお会いしますし、自分の中ではそんなに変わりはないですね。『屋根裏の散歩者』の場合も本当にありがたいことに、知らないスタッフがほとんどいなかったんです。いろいろな現場でお会いした方たちがいらしたので、すごく可愛がっていただきました。


ブログの中で、周りの方たちが名言を言われると書かれていましたが、嘉門さんご自身の座右の銘は?

 “失敗も成功も引きずらない”ということですね。


最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

 『屋根裏の散歩者』で主演をやらせていただきました嘉門洋子です。夏の暑い夜にすぅ~っとしてください。よろしくお願いいたします。


yaneura

ファクトリー・ティータイム

 乱歩の時代から抜け出てきたかのように、はっとするほど浴衣姿が美しかった嘉門さん。本作の脚本を持参されていて見せていただいたが、いっぱい書き込みがあり、また、余白には監督から勧められたというホラー映画のタイトルがびっしり書かれていて、大嫌いにもかかわらずそれらを一通りご覧になったというのだから、健気なほどによく努力されていることがひしひしと伝わってきた。本作でもまさに体当たりの熱演をされており、これからもさまざまな経験を糧にしつつ地道に実力を蓄えて、いっそう大きな女優さんに成長していっていただきたいと心から思った。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)





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