2020-06-01 更新
宝 隼也監督
宝 隼也監督
1987年生まれ、長野県出身。
日本大学大学院芸術学研究科修士課程修了(映像芸術専攻)。大学(東京工芸大学)では山川直人に師事。在学中から映画制作に励み、経験を積む。
修了後も映画制作を続け、映画祭や劇場で公開されたほか、ホラー系オリジナル・ビデオ・シリーズ等を監督。今作は初長編作となっている。
避暑地を舞台とした大人の恋愛映画『あなたにふさわしい』は、2つの夫婦関係を軸に「ふさわしさ」や「名前」を巡る群像劇。6月12日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開を控える本作で長編監督デビューの宝隼也監督のインタビューが届いた。
基本的にはいつも、人の関係性の映画を作りたいと思っています。その中でバカンス映画のようなものを作りたいと最初は思っていました。男女数人が出てきて数日間どこかへ行ってなど限られた時間の中でいざこざがあってというようなものです。当時そういったタイプの映画をよく見ていたのもありますし、一度は作ってみたいと思っていたからです。脚本は大学院の先輩にあたる高橋知由さんにお願いしていますが、高橋さんが「名前」という要素を持ち込んで書いてくれて、映画の方向性が見えた気がしています。
夫婦が出てくるというのは最初からありました。あと、誰かと誰かが浮気をしているというのも最初からありました。なので、その延長線上で今の設定になってはいるのですが、それよりも鶏冠井孝介さんが演じている、途中から出てくる人物の設定が重要でした。そのキャラクターの設定や、彼が劇中の誰と面識があるかで話の展開が変わるからです。
今回、いかに芝居を映画の中におさめるかということを、脚本段階から考えていました。なるべくその場で起きたことをそのまま生かしたいと思っていて、脚本を作っている段階から、撮影では、1カットを長く回すという方針でいました。撮影は(2台のカメラを同時に回す)マルチカムで、大抵のシーンは(1シーンを冒頭から最後までカットをかけず)1カットで撮影しています。それを後から編集して(交互に)カットバックしたりしています。
いろいろな形の「ふさわしい」があると思っています。この映画で言いたいことでもある「ふさわしい」ということは、「変化させられる」ということでしょうか。ふさわしいということに凝り固まらずに、その時々の最善の状態を見つけていくということは、人間関係でも重要だと思っています。
これといって挙げるのは迷うのですが、この映画を作るにあたって、『夫たち、妻たち』(1992/ウッディ・アレン監督)、『大人のけんか』(2011/ロマン・ポランスキー監督)などは参考に見直しました。あと、この映画の脚本ができている段階で、「カルテット」というドラマが放送されていて、あれも軽井沢の別荘での群像劇で、似た話だったらどうしようと、恐る恐る見たのですが、本当に面白くて、結局最後まで毎週見ていました。
今回、音楽を作るにあたって、打ち合わせでジャック・ロジエの映画を挙げました。避暑地映画ならまず参考にしようと。本作の最後のほうの音楽は、その要素が残っていると思います。
山本真由美さんは一番は声です。あまりにも丁寧だったり、美しくしゃべるような人だと美希じゃないという気がしていました。すごく綺麗な声より、何か引っ掛かりがある、耳に残るような声ということで山本さんをキャスティングしています。
橋本一郎さんは、学生の時に現場で会ったことがあるんです。その時の雰囲気というかオーラを見ていていいなと思っていて、友人を経由してご相談させていただきました。
島 侑子さんは別の作品をまず見ていたんですけれど、落ち着いていそうで、テンションが上がりそうじゃない感じというのが外見で見えたので、声をかけました。
充役は、橋本さんが脚本を読んで、「いい人がいる」と紹介されたのが中村 有さんです。僕も映像を見て、充役にいいんじゃないかと思って声をかけました。
鶏冠井さんは他の2人と違う雰囲気じゃないとと思って、5人全員の雰囲気がばらけるようにと考えたつもりです。
ほとんどを軽井沢で撮影しています。元々は他の避暑地も考えていたのですが、景観や映画のメインになる別荘を探す上で一番イメージに近かったのでそうなりました。メインで出てくる建物は、宿泊も兼ねて使い、合宿のような形で撮影しました。
カメラが役者に付いていくということを基本的なルールにしていました。なので、今回ハンディカムで撮影しました。役者が歩けば、カメラマンも同じく動くような形です。これだけハンディカムで撮影したのは初めてで、自分にとっては新たなチャレンジでした。
率直に嬉しかったのですが、賞のコンセプトが「日本映画や若手監督を海外に広めたい」というものなので、そういった賞に選んでいただけたということが一番嬉しいです。賞をいただけたことで、日本だけでなく、国外で観てもらえる可能性も増えるので、作品の新しい見え方も知りたく思っています。
上映中の反応は良かったです。周りにも見せたいからDVDが欲しいと言ってくれる人もいました。冒頭の由則が美希を置いてずんずん行ってしまうところだとか、日本での上映時ではあまり笑いが起きない部分でも笑いが起きていました。その辺りの文化の違いは面白いと思いました。
身近な映画祭ですし、入選したらいいなと思っていた映画祭なので、嬉しかったです。それに、この映画を映画祭に応募し始めて最初のほうに上映が決まった映画祭だったので、他にも出していく自信に繋がったと思います。映画祭のスタッフの方々がすごく丁寧に映画のことを考えてくれるので、いい映画祭だなと思いました。
今回出演陣がみんな本当に頑張ってくれていて、僕らスタッフも結構楽しんで撮影ができました。僕も嬉しいのはありますが、多分みんな嬉しいと思います。あとは、群像劇なので、出ているみんなが評価されたことが嬉しいです。
物語もありますが、キャスト陣が本当に頑張っているので、演技をぜひ見て欲しいと思っています。何が人と人の関係性を繋ぎとめているかという部分をいろいろと描いているので、そういった部分も見てもらえると嬉しいです。
僕は小さい頃から映画に熱中してきたタイプではなく、年を重ねるにつれ段々と映画に魅了されるようになりました。映画館に行くと、自分の認知できる視野とスクリーンの両端が重なる位置の席に座り視界をスクリーンで満たしたり、フィルム上映の時に一番後ろに座ると映写音が聞こえるといったことを恩師や友人、そして映画館から学びました。
僕にとって最初、映画館は楽しみにいくところでしたが、社会に出ると常に繋がっているスマホやSNS、仕事の連絡など一切をシャットダウンし、誰にも何にも触れられない特別な空間という要素も加わりました。映画館で映画を観るということは、日常的でありながら特別にもなる奇妙な時間だと思います。この世の中の状態ですので、映画館も万全の予防対策をしています。映画館にいらっしゃる方も万全の状態で来ていただければと思います。『あなたにふさわしい』も観て下さる方の生活の一部になれれば、そして、作品で映画館を応援できればと思っています。映画を、映画館を、お楽しみください。
(オフィシャル素材提供)
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