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『華氏119』イベントリポート

2018-10-29 更新

池上 彰、井上咲楽

華氏119kashi119 配給:ギャガ
11月2日(金) TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー
© 2018 Midwestern Films LLC 2018

 ブッシュ政権を猛烈に批判し、全世界2億ドル、日本でも興行収入17億円を叩き出した問題作にして大ヒット作『華氏911』を筆頭に、アメリカの銃社会に風穴を開けた『ボウリング・フォー・コロンバイン』(02)、医療問題に鋭いメスを入れた『シッコ』(07)と、これまでも巨大な権力に対抗し、突撃アポなし取材を敢行し続けた世界で最も有名なドキュメンタリー作家マイケル・ムーアの最新作『華氏119』が11月2日、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開となる。

 ムーア監督が挑む今度の相手はなんと、アメリカ合衆国第45代大統領ドナルド・トランプ。トランプの当選の予測を的中させ、この暗黒時代を抜け出す光を本作では導き出している。「この映画が公開されれば、トランプ王国は必ず崩壊する!」と豪語するムーア監督、果たして映画の力で11月6日、アメリカの中間選挙に一石を投じることはできるのか?(タイトルの“119”とは、トランプの大統領当選が確定し勝利宣言をした[2016年11月9日]を意味し、過去作『華氏911』に呼応したタイトル)

 この度、公開に先駆けて、ジャーナリストであり本作の字幕監修も携わる池上 彰と、自民党の若手国会議員の有志で結成された「若者の政治参加検討チーム」の会合に参加するなど、政治への関心が高く若干19歳にして歯に衣着せぬ物言いでワイドショーでも話題の、井上咲楽の対談イベントを本作でキーワード的に登場するミレニアル世代(2000年以降に成人した世代)を限定にした試写会場で行った。


kashi119

 ミレニアル世代の前に登場した池上 彰と井上咲楽。それぞれ「このところ映画の仕事が急激に増えてきました(笑)。字幕監修をさせていただきました池上 彰です」と池上が、「井上咲楽です。よろしくお願いします。今までは日本の国内政治に興味があって、アメリカの政治にはあまり興味がなかったんですけど、今回の映画を観て、中間選挙が楽しみになりました!」と井上が挨拶。まず、本作の感想を尋ねられると、池上は「中間選挙までちょうどあと2週間に迫った中で、アメリカで何が起きているのか、これからどうなるんだろう、どういう動きをしていくのか、特に若い人たちがどのような行動をしようとしているのか、をマイケル・ムーア監督が活き活きとあくまでも一断面ですが描いているな、と思います。日本でも多くの方に観ていただきたいです」と、井上は「ムーア監督がフリントの水を知事の屋敷に放水したのはぶっ吹っ飛んでいるな、と思いました。あとはアメリカの選挙制度にびっくりしました。アメリカの選挙制度のおかげでトランプ大統領が誕生したんじゃないかなと思います。純粋な多数決ではないので、民意を反映しているのではないんじゃないかなと思いました」と話した。

 次に本作の字幕監修を担当した池上に字幕監修の話をすると、「過去にもやったことあるんですけど、字幕を作るプロの方がいらっしゃるので、どうしても私が説明しようとなると、“長くて入りません”と言われるんですね。今回監修した一例としては、FOXニュースの映像の部分で“News Alert”と出て、普通は“ニュース警報”と訳すんですが、どんどんニュースが出てくるので、“ニュース速報”としました。実は相当時間をかけていて一つひとつ詰めて行きました。そもそも字幕を作ってくださる方がしっかりしているので、大丈夫なのですが、それをあまり政治が分からない人のために味をつけた、調味料をつけた、という感じですね」と監修時を振り返った。

 また、19歳という年齢ながら、報道系や情報番組など政治や社会問題の知識も豊富で国会議員にもインタビュー経験があるという井上に、どうして“政治ガール”になったのか尋ねると、「今年に入って、“額賀派の分裂”というニュースが飛び込んできて、響が面白い言葉だなと思って、調べていくと、どうやら人の名前らしいということが分かって、“政治家の名前かあ”と思ったんですが、そこから調べてくと、どんどん政治のパワーゲームの面白さに気づいて、どんどんハマって行って、総裁選もがっつり取材しました」との答えが。そんな井上の「すごいですね! 額賀派の分裂なんて渋いですね~。額賀と読めただけすごい!」と感心の様子の池上に会場も驚きの声が上がった。

 そしてここからはそんな井上さんから本作を観て疑問に思ったことを池上さんにぶつけるコーナーへ。


① 意外にも!?トランプ大統領は高い支持率!?

井上咲楽: トランプ大統領が勝利したのはアメリカが分断してきたことの象徴なのかな、と思ったんですけど、トランプ大統領は支持されているんですか?

池上 彰: すごいですね。ここのところ支持率を伸ばしてきて、急激に45パーセントくらいになってきています。ただ、不支持率のほうがまだ高いですが。これまで共和党を支持している人たちがトランプ大統領を支持していたんだけど、中間選挙にはあまり興味がなかったんですね。ところが最高裁判所の判事を認めるかどうかというところで、昔のセクハラの話が出てきたでしょ? 学生時代にセクハラをしたんじゃないかっていう話になって。上院議員が最高裁判所の判事になっていいかどうかを決めるんですね。ここで51人の賛成があれば最高裁判所の判事になれるのね。ここで民主党が激しく追求しているんだけど、そうすると、共和党の支持者の保守的な人たちはそんな昔の話を今更しているのか、って思ったり、最高裁判所に保守的な判事が入ると、同性婚を認めていることをやめろって言ってくれるんじゃないか、とかLGBTの権利を認めない、とかいうほうにしてくれるんじゃないかという期待が共和党の支持者から出てきて、その人たちが中間選挙でも共和党を支持しようかなって急激に思ったり、トランプ大統領、よくやっているんじゃないか、って思ってきたりしたんですね。日本だとそんな感じはあまりしないんですけど、アメリカ国内だとよくやっているじゃないか、って思われているんです。一番分かりやすいのが、トランプ大統領が「俺のおかげで北朝鮮はミサイル打たなくなっただろ? 核実験やらなくなっただろ?」ってよく言っているんですが、それを言うとトランプ大統領の支持者は「お~そうだそうだ!」と思うわけですね。


② 裏切られた若者。ヒラリーには絶対投票しない!

井上咲楽: バーニー・サンダースが枝野さんみたいだな、って思ったんですよね。民主党が分裂と言う騒動の時に枝野さんの演説を聞きに行ったんですが、その時の演説の光景となにか似ているなって思って。そんなことないですかね?

池上 彰: そんな比較は初めて聞きましたね。バーニー・サンダースの選挙運動、私も2016年に取材に会場に入ったんですよ。もうね、いたたまれなかった。周りあなたの年齢ばかり。ハタチ前後の学生たちが「バーニー! バーニー! バーニー!」ってぴょんぴょん跳ね続けているんだよね。ロックコンサートみたいだった。とてもついて行けなかったよ。熱烈な支持なんだなって思った」とここで自らの取材の体験を披露。

 「ではあの民主党大会でクリントンさんに譲りますって言った時の落ち込みようもすごかったんですか?」と興味津々の井上に、池上は続けて「実はあの民主党の会場にもいたんだよね。民主党が分裂するのをなんとか阻止しようとしてバーニーはそんな宣言をしたんだよね。その時に涙を流していたバーニー・サンダースの支持者の人たちいたでしょ? あのあと彼らは怒って会場から出て行くんだよね。出て行って、“こんなの認めない!”って言ってデモ行進をするんだよね。その時ちょうど真横で見ていました。選挙なんか行かないぞ、ヒラリーなんか支持できない、ってね。それがあって、あの時にトランプも嫌だけど、ヒラリーに投票したくないよねっていう人たちが大勢いて、結果的にトランプさんが大統領になったというところなんだよね。


③ 1年前はウェイトレス! 28歳女性議員が起こした奇跡

井上咲楽: 映画の中でも出てきた民主党の新しい若い立候補の人たちは、受からなくても何か影響与えられるんですかね?

池上 彰: コルテスさんというウェイトレスしてきた女性が、政治に全く関心がなかったのに、バーニー・サンダースの影響もあって、トランプ大統領を見てじっとはできていないと思って、立候補したんだよね。そこでコルテスさんがなぜ注目されているかというと、日本だと現職議員が優先だよね? アメリカはその度ごとに予備選挙をするんだ。民主党の大ベテラン候補を倒して、あの選挙区の候補者になったんだ。民主党が下院議員の選挙で勝ったら、下院の議長になるんではないかな?とまでも言われているんだよね。


④ 社会人1年目で2000万円の借金!? 過酷すぎるアメリカの大学生

井上咲楽: 若者の51%が資本主義を支持していないって本当なんですか?

池上 彰: アメリカって格差が広がってきて、資本主義によって格差が広がってきているんじゃないか、といって今の仕組みに懐疑的な若者が多いのは事実だよね。日本では民主社会主義ってよくあるんだけど、“社会”って入っているだけで、アメリカにはまだ拒否反応がある。バーニーの政策で若い人が熱狂したのが、公立大学の学費無料というのなんだよね。私立の大学って400万円~500万円かかるんだけど、アメリカの大学生って自立しているから、親に大学の学費を出してもらおうと思わないんだ。だから大学出た段階で2000万円の借金を背負って社会人になるんだよね。そんな時にバーニーがせめて公立大学の学費を無料にしようって言った。アメリカは大学に行きたいっていう人が行くんだよね。日本では親が頼むから大学にいってくれってなる。だから日本だと授業サボったり、居眠りしたりするんだよね。


⑤ スキンヘッドのヒロイン銃撃事件生き残りの高校生エマ・ゴンザレス

井上咲楽: パークランドでエマ・ゴンザレスさんが演説していたじゃないですか? 自分で訴えかけなければならない状況に追い込まれているっていう状況に心が痛みました。

池上 彰: 彼らの訴えはこの世界から銃を無くそうっていう話じゃないんですね。彼らは銃をやめましょうではなくて、なんでも気軽に手に入るようにしないで、全米レベルで気軽に買えないようにしてください、という訴えなんです。日本では銃をなくせっていう運動をしていると勘違いされているのが多いですよね。それでも全米ライフル協会から献金をもらう政治家がたたないんです。ライフル協会の人たちがそれぞれの地区の候補者に“銃を規制しなければならないと思いますか?”というアンケートをとるんですね。そのアンケートを元に、銃規制に賛成ではない候補の悪口をCMでかけたりするんだよね。それを見てしまうと、候補者は銃を規制すべきだって言えないんだよね。たまにいるんだけど、それは次の選挙にもう出ない人が言っていたりする。劇中でもライフル協会から献金をもらうのやめてくださいと追求された若い新進気鋭っぽい候補者が困った顔していたよね。

井上咲楽: ほんと! 新次郎さんみたいな人が困っていた!


 「2020年にトランプの再選はありえますかね?」というMCからの質問には、「私はこの選挙制度が変わらない限り、同じことが繰り返されるのではないかと思います」と話す井上に、池上も「今選挙するとトランプさんが圧勝しますね。2020年までに民主党から素晴らしい対立候補が出てきたらいいですけど、そうでもなければトランプ大統領再選の可能性がありますよね」と話した。

 ポンポンと質問を投げかける井上に、池上は「すごいですね~。将来有望ですね。びっくりしました。ここまでちゃんとお話されるとは。“額賀派の分裂”という言葉が出てきた段階でしびれましたね。まあちょっと渋いけど(笑)。日本のことよく知っているわけだから、アメリカのことにも興味持つんだよね」との発言が。

 そこで、井上をミレニアル世代代表として『華氏119』の宣伝隊長に任命することに! “「華氏119」宣伝隊長”と書かれたタスキが池上から井上に渡された。タスキを渡されて「頑張りますー!」と井上は力強く意気込んだ。


kashi119

 最後に「私たちの世代でもトランプさんはぶっ飛んでいるという印象はあると思うんですけど、一体何をしているんだと分かると、外国のニュースが面白くなるんじゃないかなと思うので、観て欲しいです」と井上が、「今回の映画ではトランプがなぜ当選したのか、実はそこには民主党がだらしがないから、民主党が支持を失っているから、そしてそこにはオバマ大統領の責任もあると描いているところが非常に衝撃的ですよね。だからこそ次の中間選挙で何が起きるのか見る必要があるのではないかと思います。大統領選挙が期末テストだとすると、中間選挙は学校の中間テストのようなもの。これまでの2年間の仕事ぶりに関して評価されるのが中間選挙です」と池上がここでも“分かりやすく”解説し、イベントは幕を閉じた。


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(オフィシャル素材提供)




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