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トップページ > インタビュー > 『三度目の殺人』第74回ヴェネチア国際映画祭 囲み取材

『三度目の殺人』
第74回ヴェネチア国際映画祭 囲み取材

2017-09-07 更新

福山雅治、役所広司、広瀬すず、是枝裕和監督


三度目の殺人sandome
© 2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
配給:東宝・ギャガ


 是枝裕和監督が22年ぶりにヴェネチアに還ってきた! 第74回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に招待された『三度目の殺人』の公式上映が9月5日に行われ、上映後は大きな歓声に包まれた。その後、興奮が冷めやまぬまま、日本メディア向け囲み取材の機会が設けられ、是枝裕和監督はじめ、福山雅治、役所広司、広瀬すずが出席、本作をヴェネチアで披露できた喜びを語った。


公式上映を終えた感想をお聞かせください。

是枝裕和監督: まずは一緒に映画を作ったスタッフ、キャストとこの場に来られて、上映を一緒に経験できたことをすごく嬉しく思っています。かなりチャレンジをしている映画なので、ホームドラマを撮っている時以上に、どういう風に届くのかなと非常に気になって観ていましたし、非常に緊張していました。今、緊張が解き放たれて脱力しているところですけど(笑)、いい上映だったと思います。

福山雅治: 今日の会見の時もそうですし、公式上映の会場に入ったときも、やっぱり監督への期待感、歓声がひときわ大きく、このヴェネチアでも監督の作品を心待ちにしているファンの方々、それはメディアの方たちもそうですが、たくさんいらっしゃるんだなぁと思って、その期待値が高ければ高いほど、監督のチャレンジが監督にとってもドキドキするような期待につながっていったのかなと思いました。今日上映が終わった瞬間、予想していたよりも早い段階で拍手が巻き起こって、すごく良い届き方をしたんだなと感じました。その時、隣にいた監督が、僕の膝に手を置いてくださったんです。ほっとされたのかなと思って、僕もその瞬間ほっとしまして嬉しかったですね。なんだかもう、日本では随分前に公開しているような錯覚を覚えるのですが、もちろんまだ公開していませんので、日本公開に向けてすごく良いスタートが切れたのではないかと思っております。おめでとうございます。

役所広司: 素晴らしい上映会だったと思います。大きなアクションもなく本当に静かな映画ですけれども、僕たちも客席からお客さんたちの背中を見ると本当に集中してこの映画を観てくださっている感じがすごく伝わってきました。監督には終わった後、「これ、いい映画ですね、誰の映画ですか?」と言いました(笑)。
 監督もおっしゃってましたが、僕たちは連れてきていただいて、自分たちが作ったものを世界中の人々が喜んでいる姿を見ることができるんですけど、来られなかったスタッフ、キャストの人たちには、素晴らしい上映会でこの映画を楽しんでくださったことを伝えたいなと思います。

広瀬すず: 上映時間の空間は、本当に言葉で表すことができないくらいずっと緊張感にあふれていて、その時間を味あわせていただいたりとか、ステージに立たせていただいたりとか、一緒に参加させていただくことができて本当に心から嬉しく思っています。


海外のお客様の反応はいかがでしたか?

是枝裕和監督: 身動きをされないので、集中して観てくださっているのが分かりました。なので、こっちもずっと緊張してました。笑いが起きるような映画ではないので、まぁ、時々吉田さんのところと橋爪さんのところでフッと緩む感じはあるんですけど、ほとんど2時間緊張しっぱなしなので、それが狙いではあるんですけど、心地よい疲れを感じていただき、この謎に向かっていく物語について考えることを楽しんでいただけたような気がします。まだ分からないですけど、そんな気がしています。

sandome福山雅治: 僕は海外でのこういう上映会を経験するのはまだ全然少ないんですけど、割と作品に集中して観ることが出来たなと思いました。一瞬海外で上映しているんだってことを忘れてしまったりとか、今日ヴェネチアに来てるっていうことを忘れてしまうくらい、集中して作品に惹きこまれていったということは、やっぱり監督が新しいトライをした、チャレンジをした作品の持つ力なのかなと思いました。もちろん緊張感はあるんですけど、どういう反応かなっていうのを忘れて、一観客として惹きこまれてこのヴェネチアで『三度目の殺人』という映画を観るという気持ちになれたのは、すごく力のある作品なんじゃないかなと思いました。

役所広司: 笑いとか驚きとかはないんですけども、自分も映画と同じように呼吸しているのであれなんですが、なんかこう、静かな中でも息を詰めてる瞬間とか、深く息をされているのが、あれだけの会場であれだけの人間が同じ呼吸をすると、「わぁ、すごいんだな」と思いましたね。だから、張り詰めた中でも映画がドラマチックにぐらっと動く瞬間というのは、お客さんのほうから感じることができたような気がします。

広瀬すず: 実際どこか緩む感じがあったりだとか、言葉が違うとしても、人が見てる目だったりとか、三隅さんの目だったりとか重盛さんの言葉とか、目でいろいろなものを越えて伝わるものが本当にあったんだなと思いましたし、終わった後の監督の表情を見て、私もちょっと気が緩む感じになりました。


カンヌ、ベルリンと並び世界三大映画祭といわれるこのヴェネチア映画祭に参加されたご感想をお聞かせください。監督は『幻の光』以来ですね。

是枝裕和監督: そうですね。今日一日ずっと取材を受けて、さらに公式上映で一番忙しい一日だったんですけど、正直言うと、22年前の記憶がほとんどないものですから(笑)、初めてに近い経験を今ここでしている気がします。それでも、あまり好きな言葉じゃないですけど、僕を“発見”してくれた映画祭ですし、ここでのデビュー作での経験がなかったら、たぶん今こんな風には映画を撮れていないのは間違いありませんから、そういう意味では本当に、22年分とは言わないまでも、少し成長した姿をまたここで見せることができたかなとちょっと思っています。

福山雅治: 何かこう、大変光栄な瞬間に立ち合わせていただいたなと思っていて、やっぱり監督のチャレンジですよね、今回の映画の。映画祭ってこともそうなんですけど。監督のチャレンジを側で見させていただいて、今日でいうと監督の緊張感、そして映画が終わった後の安堵というか、深い呼吸がやっと出来た感じというか。それをこの国際的な映画祭で体験させていただけただけたということが、もう(カンヌから)4年ぶりですけど、すごく嬉しかったですね。

sandome役所広司: 僕たちがお客さんと一緒に観てるからああやって拍手してくれているのかもしれないですけども、なんでしょうね……とにかく嬉しいですよね。普段僕はもう、お客さんと自分の作品を観ることはこういう機会でしかないですから、こういう映画祭に来てお客さんと観て、お客さんが拍手してくれたり「よかったよ」って言ってくれるというのは、こういう時しかないので。今回もすごく温かく拍手を送ってくださいましたので、また頑張って映画作りに参加したいなって勇気をいつももらいますね。一般上映でも皆さん、キャストとか監督いなくてもあのくらい拍手して終わる劇場ないかなって(笑)。悪役が出てくるとあんぱん投げつけるようなお客がいると、映画館もなんかものすごい盛り上がりそうな気がしますけどね。

広瀬すず: 前回、監督とカンヌに行かせていただいた時とはまた違う色や音に触れることができて、本当にふくさん(福山)がおっしゃったように、生のリアクションを本当にそのまま伝えてもらったりとか、それがすごく喜びになったりエネルギーになるので、「また頑張ろう!」って思える力になります。やっぱり、こういうところでしか感じられないものはすごくたくさんあるので、その時間を今回は楽しもうと思って来ました。


監督、海外のプレスの取材をたくさん受けられたと思いますが、どんな質問が出ましたか? これまでの監督作のイメージとは違う風に捉えられている感じはありましたか?

是枝裕和監督: そうなんですよね。たぶん僕、日本で捉えられている以上にこっちだと家族の作家なので、大きくモチーフ、作風を変えたのは何故かということを、ほとんどまず最初の質問として聞かれました。まあ、もちろんホームドラマとは違う社会的なものへ……ということで少し視野を広げて作っているつもりなんですけど、作ってる人間は変わらないので、自分としては、見えているほどには変わってる意識は実はないんですけど、継続して見てくれているっていうことの証なので、ありがたいことなんですけど、前の作品、前の前の作品との比較の中でこの作品をどういう風に、僕の新作として位置付けようとしているのかっていう戸惑いも含めて、なんか悩んでいるみたいで(笑)、それは面白かったですけどね。いい意味で裏切れてるってことですね。


テーマ的に裁判を扱っていて、今までの家族の話よりも社会性があるというのと、社会のダークな側面を強調されているような印象を受けましたが、こういう作品をチャレンジしたというのは、何かたまっていたものが今炸裂したということはないのでしょうか(笑)?

是枝裕和監督: (笑)そんなことはないな。この間に人間不信になる出来事が自分に遭ったわけではないんですけど、今回は本当に現役の弁護士さんと一緒に脚本を作ったようなところもあるので、かなりシビアに彼らの仕事と彼らが向き合うかぎかっこ付きの真実というものを、どういう風に僕自身もこの物語を通して向き合うかということはありました。決して真実なんて分からないんだ、分からなくていいんだっていう映画だとは思っていないので、そこはそんなにネガティブには自分では捉えていないんですけど。


ヴェネチアは世界屈指の観光地で歴史もある街ですが、滞在を楽しまれていますか?

福山雅治: 仕事で観光のようなことはしてきました(笑)。ヴェネチアン・マスクを選んでみたり、カフェでラッテ・マッキアートに挑戦してみたり、船に乗って移動してみたり……短い時間ですが、結構充実している感じです。

sandome広瀬すず: 全く同じです(笑)。

福山雅治: 同じ行動しかしてないですもんね(笑)。

広瀬すず: でも本当に、船での移動の時間とかもすごい短いわけではないので、海の上から街を見てみたりとか建物を見たりとか、すごく癒しになってます。

役所広司: 僕も、はい、3人一緒に同じ行動をしていますので(笑)。これからはもう、観光する時間もありませんので。昨夜は地元の美味しいイタリアンをご馳走になって、今日はもうおつかれさん会ですね(笑)。


是枝監督はカンヌの常連と国際的にも見られていると思いますが、今回はなぜヴェネチアだったのですか?

是枝裕和監督: そうですね、いろいろな理由があるんですけど、今のディレクターのアルベルト(・バルベーラ)さんとはもう17~18年前からのお付き合いで、僕の作品を常に評価してくださっている方なので、彼はしばらくヴェネチアを離れていたんですが、戻られてからやっぱり、どこかのタイミングでアルベルトのところに自分の作品を……という思いはもってました。ただどうしても、作品をどう売っていくかと考えたときに、カンヌを優先するということがエージェントの考え方としてもありますし、そちらを優先する方向でここ10年くらい動いていたのですが、今回はたまたま……という言い方もなんですが、完成時期も6月を超えていましたし、自分としてはこの作品は、もし選んでいただけるのであればヴェネチアに来たいなとは思っていました。


会見でも聞かれていましたが、『羅生門』との共通点は?

是枝裕和監督: 『羅生門』(1951年にヴェネチア国際映画祭で金獅子賞および批評家賞受賞)だからヴェネチアってことでは全然ないんですけど(笑)。そんなに都合よくはいきませんね。ただ、この作品の構想をしているときに、確かにひとつのモデルとして、サスペンスとはいえ謎が解かれて真実にたどり着く映画ではなくて、まったく真逆の道を辿る映画ですから、そういう意味では『羅生門』が一番参考にもなりました。


公式上映を終えて、長いスタンディングオベーションがありましたが、今回の作品の手ごたえをお聞かせいただけますか?

是枝裕和監督: 簡単に届く映画ではないので、本当に自分でもよくこの題材でこういうチャレンジをこのキャスト・スタッフでやったなと、そう意味では「頑張ったなぁ~」という感じなんですよね。これを観た方がどう受け止めてくださるんだろうなということはまだ、感触を探っているところで、「家族の作家」だと思って観に来た人たちにとっては、良い意味でも悪い意味でも戸惑いはあるでしょうし、サスペンスだと思って観に来た人たちにとっても、良い意味でも悪い意味でも「え!?」という感じはあると思います。でも、両方とも狙ってやっていることだから、その辺はかなり天邪鬼なんですけど。そう意味でいうと、狙ったところには届いている、とは思っています。それがどう評価につながるかということについては分からないですね。大切なことだとは思いますが、ここから先の話ですので。


結果発表が楽しみですね。

是枝裕和監督: そうですね、それはもちろん。でも、それについてはできるだけ遠回しに、答えないようにする癖がついてるので、もう答えないですけど(笑)。もちろん評価につながったほうが作品にとっては嬉しいことだし、スタッフ・キャストも喜んでくれると思いますが。


1回目に観たときにはとてももやもやしたものが残りましたが、2回目に観ると何もかもが腑に落ちた作品でした。役所さん演じる三隅は犯罪を繰り返しているとは思えない、静謐で優しさを感じさせる役でした。役所さん自身はどのようにお考えになって演じられましたか?

sandome役所広司: 僕は誰も殺してないです(笑)……! 僕も同じようにですね、今日2度目なんですけど、やっぱり映画って1回じゃ観切れないんですよね。今回は特にそうかもしれませんが。すごい新しい発見があったり、「あっ、こういう映画だった!」と全然感じが違った見方ができましたし。監督は死刑制度に関して大きな声で反対する映画にはしないとおっしゃってましたけど、やっぱり考えさせられる映画でしたね。人を裁くってどんなことかってことは、2回目は非常にまた違った形で映画を楽しませていただきました。


福山さん、カンヌでは涙を流されていましたが、今日は終始笑顔でいらっしゃいましたね? カンヌとはまた違った感慨だったのでしょうか。

福山雅治: 何で泣かないんだ?ということが言いたいんですか(笑)? 泣けよ!って(笑)? なんでですかね~、これだから泣かなかった、あれだから泣いたということはちょっと分からないんですけど、とにかく違った緊張感はあったんだと思います。作品のタイプも違いますしね。たださっきも言いましたが、ヴェネチア映画祭という国際的な舞台で1人の観客として観ようと思ったわけじゃないんですけど、本当に映画を楽しめたんですよね。それは、前回の(カンヌでの)経験から、より欲張りな楽しみ方をしようと思ったのかも知れないです。めったにこういう経験はできないので。制作の過程を知っている人間がこの場でこの映画を一観客として楽しむのは、すごく贅沢なことなのかもと思って、そういう楽しみ方をしていたのかもしれないですね。


福山さん、カンヌのときも今回も最初におっしゃるのは、監督のチャレンジや監督の喜びについてで、監督への深いリスペクトを感じますが、今回ご自身にとってはどんなチャレンジでしたか?

福山雅治: ま、でも、監督ですけどね。

役所広司: 一番えらいんです(笑)。

福山雅治: 監督がチャレンジするということが必然的に、僕も、出ているキャスト、役所先輩もきっと多大なるチャレンジをされたと思うんですけど。やっぱりスタッフもチャレンジしてましたよね。撮影監督の瀧本(幹也)さんも新しい提案を出されていましたし、撮りたいシネスコというスタイルで撮ったその撮り方に対して、当然照明や美術も全て、監督がチャレンジするということがその映画に参加している全員が挑戦するということになるんだと思うんですよね。監督がチャレンジしてるのに、「俺、いつもと同じことをやってるよ」ってことはたぶんないと思うんです。ですから、その勇気に導かれて自分も何か新しいものを得ることが出来ているのかもしれないです。


福山さん、上映後に監督が安堵されている様子をおっしゃっていましたが、ご自身も安堵されましたか?

福山雅治: 僕も安堵しかけたところに、監督の手が僕の膝に来て、「おぉ、監督が安堵されている!」と(笑)。でも、それが一番嬉しいことなんですよね。さっきも移動の車で広瀬さんと話してたんですけど、「監督はやっぱり、すごく可愛いよね」ということで、「あんな監督の姿、初めて見た」と嬉しそうなんですよ、すずちゃんも。(照れている監督のほうを見て)すいません、なんか恥ずかしいですよね(笑)。

ファクトリー・ティータイム

 国際的にシネフィルから愛されている是枝裕和監督の新作だけあって、プレス試写の時点で上映会場は不思議な熱気に包まれ、期待値の高さを感じさせられたが、『三度目の殺人』はその期待に裏切らない素晴らしい作品だった。正直言って、質問時にもお話しさせていただいたように、1度目に観たときには何か解きほぐせないものがあり、もやもやした気持ちが残ったままだったけれど、公式上映で2回目に観たときには、いくつかの重要なシーンで全てがかっちりとはまり、もしかしたら観る者である自分なりの……かもしれないけれど、はっきりと真実が見えた気がした。この作品は必ず、2度は観るべきだ。「生まれてくるべきではなかった」と生涯思い続けるしかなかった男の悲しみと諦め、静かな心の闇、「真実」と信じたいものの間にある深い淵が、靄の向こうからひそやかに浮き上がり、全く異なった画が目の前に広がっていくだろう。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)


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